確かに、空中にもたくさんのコショウが舞っていました。公爵夫人でさえ時々くしゃみをしています。赤ちゃんの方はといえば、ひっきりなしにくしゃみとわめくのを、交互に繰り返しています。台所では、料理人と猫だけがくしゃみをしていませんでした。猫は炉のそばに座って、耳まで裂けるほど大口を開けてニタニタ笑っていました。

「あの、すみません」自分の方から声をかけるのが正しいマナーかどうか不安だったので、アリスは少しおどおどしながら言いました。「どうしてあなたの猫は、そんなにニタニタ笑っているのですか?」
「チェシャ猫だからだよ、このブタ!」公爵夫人が言いました。

 公爵夫人が、最後の言葉を突然激しい口調で言ったので、アリスはびっくりして跳び上がりました。でも次の瞬間、その言葉が自分ではなく赤ちゃんに向けられたことに気がついたアリスは、勇気を出して続けました。
「あたし、チェシャ猫がいつもニタニタ笑っているって、知らなかったんです。そもそも、猫がニタニタ笑えることも知らなかったので....」
「猫はみんな笑えるのです」公爵夫人は言いました。「そして、たいてい笑うのです」

「全然知りませんでしたわ」会話できることが嬉しかったアリスは、とても丁寧に答えました。
「あなたは物事をよく知らないようね、はっきり言って」公爵夫人が言いました。

 そんなことを言われるのは癪にさわるので、アリスは話題を変えた方が良いと考えました。アリスが新しい話題を決めようとしている間に、料理人の女の人がスープの大鍋を炉からおろすと同時に、手の届くところにあるものを手当たり次第に公爵夫人と赤ちゃんめがけて投げ始めました。----まず火かき棒が飛んで来ました。続いてソース鍋、プレート、皿が雨あられ。公爵夫人は自分の頭にそれらが当たっても、全く気にも留めていません。赤ちゃんは先ほどからすでに大声で泣きわめいていたので、物が当たったのかどうか、良く分かりませんでした。

「ああ。どうか気をつけて下さい」恐ろしさのあまり飛んだり跳ねたりしながら、アリスは言いました。「赤ちゃんの大事なお鼻が取れちゃうよ」とてつもなく大きなソース鍋が飛んで行って、危うく赤ちゃんの鼻を奪い去りそうだったのです。






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