しばらくたって、もう何も起こらないことが分かると、アリスはすぐに庭園に入ることを決心しました。だけど、ああ、かわいそうなアリス。ドアの前に立ったとき、アリスは、自分が小さな金色の鍵を忘れたことに気が付きました。

 アリスは鍵を取りにテーブルに戻りましたが、どうやっても鍵に手が届きそうにありません。鍵はガラスのテーブルの上に乗っています。テーブルがガラス製なので、下からでも鍵がはっきりと見えるのです。アリスはテーブルの脚の1つにしがみついて、一生懸命よじ登ってみましたが、それはとてもツルツルして滑りやすかったのです。アリスは一生懸命テーブルの脚をよじ登ろうとしましたが、とうとう疲れてしまい、かわいそうに、その場にしゃがみこんで泣き出してしまいました。

「何よ。こんなことで泣いたりして」アリスは鋭く自分に言い聞かせました。「今すぐ泣きやみなさい!」アリスはよく自分自身に良い忠告をしました(だけどあまりその忠告を聞かなかったのも事実ですが....)。

 ときどきアリスは自分を厳しく叱り過ぎて、泣きそうになることもありました。そう。忘れもしません。前に一度、ひとりでクローケーゲームをしているときに、アリスは、自分をだまそうとしたもう1人の自分の耳を、思い切りぶん殴ろうとしたことがあったのでした。だってこのおかしな女の子は、1人で2人遊びをするのが大好きだったのですから。「でも今は、何の役にも立たないわ」かわいそうなアリスは思いました。「2人の人間のフリをしたって、あたし、ちゃんとした1人前の人間の大きさもないんですもの!」

 まもなくアリスの目は、テーブルの下にある小さなガラスの箱にとまりました。箱を開けてみると、中にはとても小さなケーキが入っていました。ケーキの表面には干しブドウで「食べてね」と美しく記されています。「よし、これを食べてみよう」アリスは言いました。「これを食べて大きくなったら鍵を取れるし、小さくなったらドアの下をくぐり抜けられるもん。どっちにしたって、あの庭園に行けるんだわ。大きくなろうが小さくなろうが、どっちでも良いわ」

 アリスはとりあえず少しだけかじり、大きくなるのか小さくなるのかを感じるために頭のてっぺんに手をやりながら、「どっちかな、どっちかな」と心配そうに言いました。でも、驚いたことにアリスの身長は大きくも小さくもなりませんでした。人がケーキを食べても、大きくなったり小さくなったりしないのは当然のことです。ところがアリスは、変わったことばかり起こるのにすっかり慣れてしまっていたので、人生がごくごく普通の方法で進んで行くのが、とってもまぬけでとっても馬鹿らしいことに思えたのです。

 アリスはさっそく仕事にとりかかりました。そして、あっという間にケーキを食べ終えたのでした。






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