「さーて」アリスは思いました。「こんなに落ちたんだから、もう家の階段から転がり落ちるのなんてへっちゃらね。みんな『アリスは何て凄いんでしょう』って思うわ。家の屋根から落っこちたって、このことは誰にも言わないもん」(うーん。確かに)

 ぴゅーーーーーっ....。アリスはどんどんどんどん落ちて行きます。いったいどこまで落ちて行くのでしょうか。「何マイルぐらい落ちたのかなあ」アリスは声に出して言いました。「きっと地球の真ん中に近付いているんだわ。そうね....。きっと4000マイルぐらい落ちたんだわ」(アリスは学校の授業でこんなことを勉強したのです。今は知識をひけらかすのに良い機会でもないし、アリスの言うことを聞く人もいません。でも学校で習ったことを声に出して言うのは、とても良い勉強になりますね)「そうよ。きっとそれくらい落ちてるわ。だけど....今の緯度と経度はどのくらいなんだろう」(アリスは「緯度」とか「経度」がどういうものかさっぱり分かりませんでしたが、そういう難しい言葉を知っていることが自慢だったのです)

 やがて、アリスはまたしゃべり始めました。「このまま落ちたら、もしかして、地球の反対側に出ちゃうのかな。頭を下にして歩いている人たちの所にあたしがひょっこり出て来たら、きっと面白いだろうな。地球の反対側かあ。えーと....確か....反感地だったっけ?」(この時ばかりは誰も聞いていなくて良かった、とアリスは思いました。どうやら“反感地”という言葉は間違っているようです)「でも、そうなったら、その人たちに国の名前をきかなきゃいけないわ。『奥様、こちらはニュージーランドざますか?それともオーストラリアでございますか?』なーんちゃって」(アリスはそう言いながら、お辞儀をしようとしました。でも、考えてもみてください。宙に浮いたままお辞儀ができると思いますか?)「だめだめ。そんなこときいたら『この子は何て無知なのかしら』って思われるだけだわ。絶対そんなこときけない。どこかに国名が書いてあるかもしれないし」

 ぴゅーーーーーっ....。アリスはまだまだ、どんどんどんどん落ちて行きます。他にすることがないので、アリスはまたまたしゃべり始めました。「あーあ。あたしがいないんで、夜になったらダイナが寂しがるだろうなあ」(ダイナは、アリスが飼っている仔猫です)「お茶の時間になったら、誰かダイナにミルクをやってくれるかなあ。ダ・イ・ナー。お前がここにいて一緒に落っこちていたらなあ。ここにはネズミがいないけど、お前はコウモリを食べるんでしょうね。だってコウモリってネズミにそっくりだもん。でも、猫ってコウモリを食べるのかしら」

 ここでアリスは眠くなって、寝言のようにしゃべり続けるのでした。「猫はコウモリを食べるか。猫はコウモリを食べるか」ときどき間違えて「コウモリは猫を食べるか」と言うこともありましたが、いずれにしても、アリスはその質問に答えることができませんでしたので、どう言おうと同じことなのでした。アリスは自分がうとうとしているのが分かりました。そして、ダイナと手をつないで歩きながら、「ねえダイナ。お前は今までコウモリを食べたことがあるの」と熱心にきいている夢を見始めました。

  と、その瞬間、どしーんという音がして、アリスは木の枝と葉っぱの山の上に落っこちました。これでようやく落ちるのが終わりました。






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