アブキール海戦
ネルソンの報告



 司令官、バス勲章、提督セント=ヴィンセント伯殿殿
 ヴァンガード号、ナイル河口沖、1798年8月3日

 閣下、
 全能なる神は最新の戦いにおいて、私がナイル河口沖で8月1日の日没時に攻撃をしかけた敵艦隊に対する偉大なる勝利を通じ、陛下の軍に加護を与えました。敵は湾入り口を守るため(浅瀬に)強力な戦列艦を係留しており、側面を多くの砲艦と4隻のフリゲート艦、そして先頭にあった島に設けられた大砲と迫撃砲の砲列によって守られていました。しかし、閣下が私の麾下に置く栄誉を与えてくださった艦隊には、何者も抵抗できませんでした。彼らの高い規律は閣下もよくご存知の通りであり、艦長たちの判断力と彼らの勇気、そしてあらゆる種類の士官および兵の力に対しては、抵抗することは全く不可能でした。艦長たちのすぐれた気質を描き出すことができるのであれば私は喜んでそうするのですが、それは不可能です。
 戦闘の初期段階に戦死したマジェスティック号のウェストコット艦長の損失は遺憾でした。しかし同艦はカスバート一等海尉に指揮されてよく戦い続けました。私は彼に、閣下の満足の意が分かるまで同艦の指揮を委ねました。
 敵艦隊は後尾の2隻を除き、すべてほとんどマストを失いました。残念ながら残る2隻は、2隻のフリゲート艦と伴に脱出しました。それを妨げるのは無理だったと確証します。フッド艦長は逃走をさえぎろうと立派に努力しましたが、私はズィーラス号[フッド艦長の乗艦]を支援できる艦を持ち合わせず、同艦を呼び戻すことを余儀なくされました。
 ベリー艦長[ネルソン乗艦のヴァンガード号艦長]から得た援助と支援は言葉では言い表せないほどです。私は頭部に怪我を負い、甲板から運び出されることを強いられました。しかしながら、その出来事によって軍務が滞ることはありませんでした。ベリー艦長は全く同じく重要な任務を遂行し続けており、彼にはこの勝利に関するあらゆる情報を閣下に伝える役目を任せています。彼は[奪ったフランス艦隊の]副司令官旗を閣下にお渡しすることになっています。司令官旗はオリアン号の中で燃え尽きました。
 死傷者と我々及びフランス軍の戦列艦に関するリストを同封して送ります。閣下の最も忠実な僕

 ホレイショ・ネルソン。

"The dispatches and letters of Vice Admiral Lord Viscount Nelson, The Third Volume" p56-57


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