運命の日は、それから三年後にやってきた。
仕事を捜してアンフォニーに流れてきたベオウルフは、その街で旧友ヴォルツと再会し、戦争が起ころうとしていることを知ったのである。
「今度はグランベルが相手か。アグスティのバカ王子がまた妙な野心を起こしやがったな」
ヴォルツはうんうんとうなずいて、
「何でも奴等はもうハイラインまで制圧してこのアンフォニーに近づいてきてるらしいぜ。それでマクベス王が慌てて俺たちをかき集めてるってわけだ」
「妙だな。ハイラインの前にゃノディオンがあるじゃねえか。いくらグランベルでもエルトシャンとクロスナイツ相手にそんなあっさり突破できるもんか?」
「それが、グランベルを引っ張り込んだのはそのノディオンだってこったぜ。エルトシャン王はシャガール王を諫めに行って逆に幽閉されちまったっていうしな」
「エルトシャンがか?じゃあ、妹はどうしてるんだ?」
「そういやお前知り合いだっつってたな。だからその妹が兄貴の留守中にハイラインに攻められてグランベルに助けを求めたのさ。グランベルの大将は王の親友らしいぜ」
「ふん……そういうことか。やっと話がつかめたぜ」
「それで、お前はどうするよ?俺と来るんならマクベス王に話つけてやってもいいぞ」
「……いや、遠慮しとく。あのナスオヤジは信用出来ねえ。別件を思い出した」
「そうか……まあ、好きにするさ。今日の友は明日の敵、それが俺たち傭兵だからな」
「ああ。じゃあな」
軽く手をあげてヴォルツと別れたベオウルフは、すぐに馬を駆って街を出た。
約束を果たすべきときが来たのだ。問題は、どうやってグランベル側にもぐり込むかだ。傭兵の自分がただ協力を申し出たところで不審に思われるだけだろうし、ここはやはり誰かに雇われるのがベストだろう。
そんなことを考えながら馬を走らせていると、前方に人馬の影が見えた。ランスナイトのようだ。まだ年若く、十五、六歳といったところだろう。ベオウルフは迷わずに馬を近づけていき、声をかけた。
「おい、あんたグランベルの人間か?」
数メートル手前の時点で彼に気づいて槍をかまえていた少年は、油断なく答えた。
「……いや、私はレンスター王子キュアン様に仕える者だ。わけあって主君と共にグランベル軍に同行している。そちらは何者だ、もしアンフォニー軍に組する者なら容赦はしないぞ!」
「ヘー、勇ましいこった。んじゃあんたでもいいや。俺を雇わねえか?」
「……はっ?」
険しい表情が一瞬崩れて唖然とする。そうなるととたんに年相応の幼さが顔を覗かせた。ベオウルフはにやりと笑って続けた。
「俺は傭兵だ。ついさっきまでアンフォニーの街にいたからこの辺りの軍の配置にも詳しい。俺の情報はあんたらの役に立つと思うんだがな」
「ではなぜアンフォニー軍につかないのです?いったい何の利があって……」
「簡単なこった。アンフォニーのナスオヤジが気にくわねえ、それだけさ。どうするよ?」
少年はさらに戸惑っていたようだったが、やがて姿勢を正し、言った。
「少し猶予をください。私の裁量では判断しかねます。キュアン様に伺いを立てる間ここで待っていてほしいのですが、それでもよろしいですか?」
「けっこう。名前は?」
「私はレンスターの騎士見習フィンです。あなたは?」
「俺はベオウルフ。自由騎士ベオウルフだ」
「わかりました。少々お待ちください」
きまじめに頭を下げて馬首を翻すフィンを見送って、彼は一人ごちた。
「レンスター王子も加勢中か……こりゃ完全にエルトシャンがらみだな」
グランベル軍の大将はシアルフィ家の公子だという。彼とレンスター王子の二人は確かエルトシャンの士官学校時代からの親友のはずだ。彼らがおそらくエルトシャンが妹のことを頼んだという二人なのだろう。
しばらくして、影は二つになって戻ってきた。先にやってきたほうがフィン。あとに続く立派な甲冑の青年がレンスター王子だろう。彼らはまっすぐにベオウルフのもとにやってきた。
「自由騎士ベオウルフ、私がレンスター王子キュアンだ。我々に加勢してくれるという申し出、ありがたく受けさせてもらおう」
「おいおい、ずいぶん簡単に決めるんだな。契約の話も何もしてねえってのに」
「報酬はそちらの言い値でかまわん。何しろ我が軍は人手不足でな。こんなありがたい話を断れるほど余裕はないのさ」
「……自由騎士は自分を安売りしねえぞ。前金で一万Gでどうだ?」
かなり吹っかけたつもりだったが、キュアンはあっさりとうなずいた。
「承知した。本営に案内しよう」
あまりにもあっさりした物言いに、ベオウルフは顔をしかめた。
「……安易だな。そんなにあっさり信じちまっていいのかよ?」
「心配はいらんよ。律儀で義理堅い自由騎士のことはエルトシャンからよく聞いているからな」
「……エルトシャンから?」
「あんただろ?三年前の国境紛争でノディオンを救った傭兵は」
どうやらお見通しのようである。ベオウルフはがりがりと頭を掻いた。
「……知ってたのかよ。あいつめ、存外におしゃべりなんだな」
「これでも私も近い将来レンスターを背負って立つ人間だからな。使える奴とそうでない奴の判断はつくつもりだ」
「けっ、類は友を呼ぶ、か。そういうとこは奴にそっくりだぜ」
「ハハハ……まずは本営に来てくれないか。シグルドに引き合わせよう」
「大将のおでましか……もう一人同類が出てこねえことを祈るぜ」
「……まあ、別の意味では驚くかもしれんな」
キュアンの微妙な台詞の意味はすぐに判明する。
「自由騎士ベオウルフ、よく来てくれた。我々は君の加勢を心より歓迎するよ」
にこやかに差し出された手を思わず握り返してから、ベオウルフははっと我に返った。
「……ってことはあんたがシアルフィ家の公子なんだな?」
「そうだ、私がシグルドだ。ああオイフェ、彼にお茶の用意を頼む」
「はい」
返事をした少年がぱたぱたと走っていく。
「おいそんな暇ねえだろ……って、何で戦場に子供が……」
「オイフェは私の軍師で相談役でもあるんだ。なかなか頭の切れる子で役に立つよ」
「……普通子供を軍師にするかぁ?」
多分にいやみをこめて言ったつもりだったが、返ってきたのは穏やかな笑顔だった。
「キュアンからも聞いたと思うが、我々は人手不足なんだ。猫の手も借りたい状況なのさ。だから、君の申し出はとてもありがたい。感謝するよ」
ベオウルフは再びがりがりと頭を掻いた。どうも調子が狂ってしまう。先ほどのキュアン王子といい、このシグルド公子といい、何だってこうあっさりと人の言うことを信用してしまうのだろう。
一見したところ、人数は確かに少ない。女性もそれなりに戦力になっているようだし、分け隔てた扱いもないようだ。平等と言う点ではこれほど平等な軍も珍しい。ざっと観察を終えたところへ、オイフェがティーカップを携えて戻ってきた。
「はい、どうぞ」
「あ、ああ……ところでつかぬ事を聞くが、ノディオンの王女はどうしたんだ?あんたらが助けたんじゃないのか?」
「うん、それが実は困ったことになっててね」
そう言って、シグルドがかいつまんで事情を説明してくれたのだが……
「何ぃっ、一人でアグスティ方面に向かったぁ!?」
「そうなんだ。アグスティにはエルトシャンが幽閉されている。我々も早く助け出したいのは山々なんだが、山間の開拓村群がアンフォニー城の雇った盗賊に襲われていてそっちを助けに行かなくてはならない」
「かーっ、あんのナスオヤジ海賊と手え結ぶだけじゃたんねーのかよ。ゴーツクだなあ」
「この人数では作戦の同時進行は不可能だ。それで、申しわけないんだがラケシス王女を連れ戻してきてはもらえないか?」
「わかった。アンフォニーにゃ守備隊のほかにマクベスに雇われた傭兵部隊がかなりいるみたいだぜ。特にヴォルツって奴はかなり腕が立つ。それと、アンフォニー方面からアグスティへの直通道路はねえ。いったんノディオンに戻んねえとならねえから、注意しな」
「わかった。貴重な情報をありがとう。我々もアンフォニーを制圧したらすぐにかけつけるよ。ああ、それと」
と、シグルドはずっしりと重い金貨袋を取り出した。
「約束通り、前金で一万Gだ。傭兵は契約にうるさいんだろう?」
「……その通りだ。確かに受け取った。金の分は働いてやるから安心しな」
「期待しているよ」
笑顔ににやりと笑い返して、馬首を翻したベオウルフである。
なつかしい道を、逆にたどる。三年前、エルトシャンと共に歩いた道である。ただし、感慨にふける余裕はない。今この瞬間にもそのエルトシャンの妹が確実に死地へと近づいているのだから。
途中、ノディオンによって王女のたどるだろうルートを確認した。彼女の護衛にはクロスナイツのパラディンが三人ついているという。だが山間の道路は危険が大きい上に、途中のマッキリー城周辺にはロングアーチ部隊が配置されていて、彼らだけで突破をはかるのはとても無理だ。
「……ったく、世話の焼けるおてんば姫だぜ」
ぶつぶつ言いながら馬を走らせて丸三日、マッキリー城到達直前に追いつけたのは幸運だった。問題の王女ラケシスが馬に乗れず、しかもパラディンたちの馬に同乗することを拒んだ(パラディンたちも隙あらばラケシスを連れ戻そうとしていたのだ)のが幸いしたのだろう。何やら言い争いをしているのが風に乗って聞こえてきた。
「姫様、何度も申し上げました通りこの人数でアグスティへ向かうのは無謀すぎます。もうすぐシグルド様方がアンフォニーを制圧して戻ってこられる頃ですからお待ちになったほうが……」
「そうですよ。アグスティの前にはマッキリー城があるのですよ?城主のクレメントはスリープの杖を所持しておりますし、崖の上にロングアーチ部隊を配しているとの情報もあります。うかつに近づいては……」
彼らの苦言も今の彼女の耳には届かないらしい。
「こんなところでぐずぐずしている場合ではありませんわ!こうしている間にもエルト兄様……いえ、兄上がどのような目にあわされていることか……ああ、おいたわしい!兄上、ただいまラケシスが助けにまいりますわ!」
「姫様、もう一度よくお考えください。姫様の御身に何かあれば王がどれほど悲しまれるか……」
「私はどうなろうとかまいません!今は兄上をお助けするのが先です!」
全く耳を貸そうとしないラケシスにさしものパラディンたちも弱り果てているようだ。小さく苦笑して、ベオウルフは進み出ていった。
「ふーん……あれか?ノディオンのおてんば王女ってのは」
「あ、はい、そうで……じゃない!し、失敬な!きさま、何者だ!」
三人が同時にさっと身構える。彼は軽く肩をすくめて答えてやった。
「俺か?俺はな、そのおてんば王女を守るように言われてきたしがない傭兵さ」
「何だと?きさま、いったい……」
「ほい、どいたどいた。早く止めてやんねーとあの姫さんそろそろロングアーチの射程に入っちまうぜ」
「何ぃっ!?」
驚く三人をよそに、彼はすたすたとラケシスに歩み寄っていく。そして、横柄とも言える声で呼びかけた。
「待ちなよ」
少女はきっと振り返った。一見してすぐにやんごとなき身分であると知れる、白銀の甲冑に薔薇色のマント。戦場では華美に過ぎて目立つことこの上ない。エルトシャンの豪奢な黄金の髪とは微妙に色合いの違う、優しい金髪。ヘイゼルの瞳は意志の強さを現すと同時に、今にも泣き出しそうにも見えた。あれから三年。写真より少しは成長したようだが、まだ麗しいというよりは愛らしいという表現が似合う。
「あんたがノディオンのラケシス王女か?」
「ええ、そうですわ。あなたは?」
「俺はベオウルフ、傭兵だ。あんたがラケシス王女なら、一言言っとこうと思ってな」
「何ですの?」
「……半人前に戦場をうろつかれちゃ迷惑なんだよ。姫なら姫らしくお供と一緒にお城に戻っておとなしくしてな」
「……!」
かつて例のない暴言に、その場の空気がピキン、と凍りついた。
(……三、二、一……)
ベオウルフが心の中で数えたカウントに呼応するかのように、彼女はきっと顔を上げてにらみつけてきた。
「……ずいぶんな言いぐさですのね!あなたのような初対面の方にそんなことを言われる覚えはありませんわ!」
「そっちになくてもこっちにはあるんだよ」
「何ですって?」
「シグルド殿にあんたを連れ戻してくれって頼まれたのさ。そういうわけだからおとなしく帰ってくれんか」
「余計なお世話ですわっ!あなたなんかに守っていただかなくたって自分の身は自分で守ります!」
胸を張って言うラケシスに、ベオウルフの表情が険しくなる。
「戦争は遊びじゃないんだ。その程度の腕では虫一匹殺せやしない。さっさと帰れ」
「いやです!兄上を助けるまで帰りません!」
一歩も引かずにラケシスが言い返したときだった。
ふいにヒュウッ、と何かが風を切る音が聞こえたかと思うと、頭上から飛来した巨大な矢がラケシスの背後の地面につき刺さったのだ。
「―――姫様っ!」
パラディンたちが叫んだが、ラケシスは茫然と立ちすくんでいる。この攻撃は彼女の予想外だったようだ。
「ちっ、ロングアーチ部隊が気づきやがったか。おい、ぼうっとするな!」
ベオウルフの声にもなかなか反応しない。舌打ちして、ベオウルフは馬を下りて彼女を肩に担ぎ上げた。
「きゃあっ!?」
荷物か何かのように肩に担ぎ上げられるなどおそらく初めての経験に違いない。ラケシスは悲鳴をあげ、三兄弟も驚きに目を見開いた。唖然とする彼らを、ベオウルフは怒鳴りつけたのだった。
「何やってる、とっとと逃げねえか!」
「!?」
怒鳴りつけられてようやく我に返ったクロスナイツ達は戸惑いながらも馬首を翻した。それ以外になしようがなかったからだ。うち、一人が振り返る。
「ベオウルフ殿……と申されたな。ここはあなたを信用することにする。だが、王女の身にもしものことあらば我らとて容赦はしない。そのあたり、よく覚えておいてもらおう」
彼らの中でもっとも冷静沈着だった次男の言葉に、ベオウルフはにやりと笑って答えた。
「傭兵は仕事はきっちりこなすもんだぜ。安心しな」
馬蹄の音が遠ざかっていく。そのうちに、担ぎ上げられて呆然としていたラケシスがようやく我に返ったようで身をよじって叫んだ。
「……無礼者っ!早く下ろしなさい!」
「わぁったからそうキンキン叫ぶんじゃねえよ」
担ぎ上げたときよりはいくらか丁寧に鞍の後ろに下ろしてやると、ヘイゼルの瞳がきっと睨み返してきた。
「誰が退却すると言いましたか!?命令です、このままアグスティ城へ向かいなさい!」
本人は毅然と言い放ったつもりのようだが、ベオウルフから見れば子供が背伸びをしているようにしか見えないのは仕方ないだろう。小さく吹き出して、言った。
「姫さん、そいつぁきけねえな」
「私にはラケシスという名があります!理由を述べなさい!」
ぴたり、と笑いを収める。彼女に向き直った彼は今度は真顔で言った。
「じゃあ教えてやるよ。ひとつ、俺の雇い主はシグルド公子でラケシス姫、あんたじゃない。従ってさっきのパラディンどもと違ってあんたの命令に従う義理はない。ひとつ、シグルド公子の命令はあんたをこっから連れ戻すことだ。それにもうひとつ、あんたには自分のやったことの顛末を見届ける義務がある」
「義務……ですって?」
「たとえどんな理由があったにせよあんたは自国に他国の軍隊を引き入れたんだ。本来ならその行動のすべてに責任を持たなきゃならんはずだ。違うか?」
「……それは……」
思いがけない正論に言葉に詰まってしまったラケシスに、彼はにやりと笑って付け足した。
「……ってわけだ。命令権を振りかざす前に義務を果たすんだな」
ベオウルフが馬の腹をけると、馬は二人分の重さが苦しいのか一声嘶いてから走り出した。後ろを振り返ることはしない。だが、ラケシスが身をよじるようにして遠ざかるアグスティ城を見つめているのは気配でわかった。
悔しさは、わからないでもない。兄の囚われている城を目前にして引き返さなければならない無念。ロングアーチの攻撃程度ですくんで動けなくなってしまった自分への怒りと無力感。そんなものがこの小さな少女の胸を占めているのだろう。
自分が無力であることを知れば、人は強くなろうとする。逆にいえば、無力であることがわからないうちは本当の強さは手に入れられない。この少女は強くなるだろう。ベオウルフはそう思いながら、手綱を引いた。
ノディオンまでの丸一日、二人は終始無言だった。ベオウルフとしても、兄を救えずに落ち込んでいるだろうラケシスにかける言葉をもたなかったのだ。元来が口下手で不器用な男なのである。
正直に言えば、ノディオン城の城壁が見えてきたときは少なからずほっとしたものだ。とにもかくにも無事連れ帰ることには成功したのだから、あの口うるさいパラディン三兄弟も文句は言うまい。
城門の前では先に戻っていたイーヴ、エヴァ、アルヴァの三人が気遣わしげに二人を待っていたが、姿を見とめるなり駆け寄ってきた。
「姫様、ご無事ですか!?よもやお怪我などは……」
「……平気ですわ。どこも怪我などしておりません」
冷静に答えたラケシスに三人がほっとしたような表情を浮かべるのをベオウルフは何の感動もなく眺めやった。傭兵である彼から見れば忠義一徹の彼らの姿は時にはこっけいにも見えるのだが、さすがに口には出さない。
「……心配をかけましたね。ごめんなさい……」
「いえ、そのような……もったいないお言葉、我等三兄弟、恐縮の限りでございます」
「シグルド様から何か連絡はありましたか?」
「はい。無事アンフォニー城を制圧なされた由にございます。明日昼頃までにはこちらにつくとの早馬がまいりました」
「そう。ではゆっくり休んでいただかなくてはね。お迎えの準備をしましょう」
イーヴが差し伸べた手につかまって馬を下りたラケシスが、ふとまだ馬上にある彼を見上げて尋ねる。
「……あなたはどうなさるんですの?」
「俺はこのままシグルド殿に合流する。あんたが無事だったことを知らせなきゃならんからな」
「そうですの。助けていただいて感謝いたしますわ。……でも」
きっ、と眉を吊り上げた次の瞬間、右手が一閃した。精一杯背伸びをしての平手打ちがものの見事に彼の頬にヒットする。
「ひ、姫様!?」
「今後二度とあのような無礼なふるまいは許しませんからね!」
ラケシスは唖然とする彼にそう告げて、ぷいっと背を向けた。目を丸くしてその姿を見送ったベオウルフは、ぷっと吹き出した。
「く、くくく……さすがはエルトシャンの妹だぜ」
あきれた気の強さだ。この分なら、心配するまでもないだろう。