DIARY
1月15日 2010
真実はいずこ?
あっという間に1年が過ぎてしまった。
そして正月も過ぎて、もう、1月半ばである。
本当に時が経つのが早いと感じる。
この1年、医者をしていて、
だんだんと医学の世界も変わってきたなと思うことがある。
いろんなことが変わってきたけど、
しみじみ思うことがあった。
それは、心不全である。
今はまだ、世間では
心不全がそんなに問題視されていないけど、
この先、この病気で亡くなるヒトが増えて来ることだろう。
ヒトが長生きすれば、
当然と言えば当然のことなのかもしれない。
心臓も年を取って、
だんだんと本来の機能を十分に果たせなくなって
肺に水がたまって、苦しくなるし、
少しの運動で息が切れるようになる。
心不全の急性増悪発作のたびに、
心機能は低下して、日常生活のレベルもだんだん落ちてきて、
やがて寝たきりになり、
それでも息苦しくなって、
酸素吸入や人工呼吸器の手助けが必要になり、
徐々に弱ってきて亡くなることになる。
本人にとっても、家族にとっても
なかなか辛い病態である。
癌で死ななくなって、
心筋梗塞でも死ななくなって(心不全の引き金にはなる)
脳梗塞でも死ななくなったら、
(医学が進歩して、ヒトが死ななくなると)
こんな病態も待っているのだなぁ!
と、しみじみ思うのである。
正月早々から、
そんな暗い話をするつもりはなかったのだが、
この心不全という病態の治療も、
実は、常識が大きく変わった。
「常識と思えていることが、 実は大きな間違いで、
さらに新たな常識が出てくることがある。」
という典型であったので、さらに感慨を深めたのである。
今では、常識となった(ということはこれも・・・かも)
慢性心不全にはベーター遮断薬を用いるという治療がある。
ベーター刺激とは交感神経系を活性化する刺激であり、
ベーター遮断はこの逆となる。
交感神経系を活性化するとは、簡単に言えば、
「殺されそうだから逃げないといけない状態」を作ると考えたら良い。
つまり、交感神経系が刺激されると
心臓の1回拍出量がふえて、心拍も増える。
太い血管が拡張して、末梢の血管が収縮して、血圧が上がり、
呼吸効率を上げるために気管が拡張する。
このように、
交感神経系の活性化は心臓の機能を保つために必要であり、
心不全に対して、
それを遮断するβ遮断薬投与は
かっては、行ってはいけない治療であった。
1973年に、2人のスウェーデンの循環器内科医が、
58歳の女性心不全患者に対し、
世界で初めてβ遮断薬を使って治療をした。
彼らはその後、1975年に現在のHeart誌に最初の論文を発表した。
しかし、当時はほとんど注目されなかった。
その後30年あまりの月日が流れて、
この治療の有効性を示す臨床研究が積み重ねられて
今日では、心不全に対するβ遮断薬の有効性は、
クラス1・エビデンスレベルAとして確立され、
収縮不全の患者には必ず実施しなければならない治療となった。
30年かかって、
昔は「禁忌」であった治療が
今では「必須」の治療になったわけである。