DIARY

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   12月21日 2007
   
「どのメニューで死にたいですか?」
   こんな質問をしたら、
きっと、
「ドクハラ」といって非難されるんだろうなぁ!
だけど、聞かなきゃわからない。

コレステロール値を
下げるべきか?下げざるべきか?
心臓循環器の医者は、
「下げるべき」と言っていたが、
総合的には、「やたらに下げるべきではない。」
という判断があった。
なぜなら、
総死亡率はコレステロール値が高い方が低いからである。

このたび、
観察研究のメタ解析としては最も信頼性の高い
Prospective Studies Collaboration(PSC)が、
血清脂質と心血管系イベントに関する解析を
Lancet誌12月1日号で公表した。

解析対象となったのは、
観察開始時に心血管系疾患の既往がない
40〜89歳の89万2,337人である。
わが国からのデータも含まれているが、
主として欧米人の成績である。

1,160万人・年のサンプル(平均追跡期間13年)中、
55,262例が血管系イベントで死亡していた。
内訳は
「虚血性心疾患死」が33,744例、
「脳卒中死」11,663例、
「その他の血管死」が9,855例


それによると、
虚血性心疾患死のリスクに関しては、
従来、循環器科の医者が言っているように、
血清総コレステロール(TC)低値であれば、
年齢を問わず虚血性心疾患死のリスクは低かった。
つまり、
「コレステロール値は出来るだけ下げる方がいい」
という話になる。

しかし、
脳卒中死リスクに関して言えば
脳卒中死とTC値は、
40〜59歳で弱い正の相関が認められるのみで、
それより高齢では相関していなかった。

さらにまた
試験開始時の収縮期血圧別に検討した場合。

まず、
「145mmHg未満」では
TC値が37.8mg/dL低値であれば
脳卒中死リスクも低くなっていた。
つまり
「高血圧症でない場合は、
 コレステロール値を下げた方が
 脳卒中死が起こりにくい。」
ということになるが、
このグループは、
元々、脳卒中死が起こりにくいグループなので
積極的に下げる必要はないと考えられる。

一方、
「収縮期血圧が145mmHg以上」であった場合、
コレステロールを下げると、
脳卒中死のリスクは逆に大きくなっていた。

つまり、
「高血圧症である場合に
 コレステロールを下げると
 脳卒中死が起こりやすい。」
ということになる。

さらに、
「非血管系死亡」は42,865例であったが、
TCが37.8mg/dL低値だと
リスクは10%有意に増加していた。
(95%信頼区間:1.08〜1.11)。

つまり、「非血管系死亡」に関しては、
コレステロールを下げると起こりやすくなる。
ということである。
もちろん、
「癌があって、全身状態が悪くて
 食べられなくて、コレステロールが低くなっている。」
というような状態の人は最初からカウントはしていないが
その前段階の人が
集団に紛れ込んでいる可能性までは否定できない。
でも、そうであっても数は少なくて
有意差が出るところまではいかないはずである。


以上をまとめると、
1.虚血性心疾患死に関しては
  コレステロールを下げた方が起こりにくくなる。

2.しかし
  脳卒中死に関しては、血圧が高い人では
  コレステロールを下げると起こりやすくなる。

3.また、
  非血管系死亡も
  コレステロールを下げると起こりやすくなる。


というようなわけで、
心筋梗塞で死にたくない人は
コレステロールを下げるのがいい。
しかし、そうすることによって
脳卒中で死にやすくなるし、
それ以外の非血管系死亡の危険も上がる。
ということになる。

僕なら、
脳卒中で死ぬより、心筋梗塞で死ぬ方が、
ずっといいけど・・・・。

まぁ、そういうわけで、
冒頭の
「どのメニューで死にたいですか?」
という質問が出てくるのであるが、
実際には、もろにこんな質問は出来そうにない。
はたして、やんわりと質問して、
どれだけわかってもらえることやら・・・・。

結局のところは、
「ピンピン、コロ!」
を望んでる人のコレステロールは
下げないでおくことになりそうだ。




   12月17日 2007
   
葉酸の続き
   この前は、「葉酸を摂った方がいい」という話だったが、
今回は、「葉酸をやたらに摂るといけない」という話。

   米国とカナダでは、前述のような理由で、
ほぼ10年前から
小麦粉などの穀類製品に葉酸が添加されている。
しかし、
両国とも
これに伴って、大腸癌の発生率が上昇した。

というのは、
葉酸は摂取の時期により、
益にも害にもなりうるからである。

すなわち、

小児期や青年期に
豊富に葉酸を摂取することは、
大腸など臓器の癌発生を
生涯にわたって抑制すると考えられている。
しかし、
中年期以降は、細胞に損傷があると考えられて、
この時期以降の葉酸の摂取は、
腫瘍の進行を早める可能性がある。

   というようなわけで、
僕ら、おじんは葉酸をたくさん摂ってはいけない。
5日の日記は、
あくまでも、主に「これからおかぁさんになる人向け」
のことである。




   12月 5日 2007
   
今日は「よ」で始まる栄養学
   何のことはない「葉酸」と「ヨード」の話である。
まずは、葉酸
葉酸は、はビタミンM、ビタミンB9とも呼ばれ、
水溶性ビタミンに分類される生理活性物質である。
タンパク質やアミノ酸の代謝や赤血球の産生に関与している。
成人の一日必要量は0.2mg。
ほうれん草なら200g(約4株)、
インゲン豆なら150g、
サツマイモなら650g(約3個)食べないといけない。
(べつに、いけなくもないけど・・・。)

なぜ、今日葉酸を取り上げたかというと、

「妊娠を計画している女性、
 または妊娠の可能性がある女性は
 神経管閉鎖障害のリスク低減のために
 葉酸0.4mg/日の摂取(一般成人の倍)が望まれる。」

という記載が、
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2005年版」
にあるからである。

   しかし、0.4mgの葉酸を摂ろうと思ったら、
ほうれん草で8株、インゲン豆なら300g、サツマイモなら6個
これらを混ぜて食べても、
とってもやないけど、食えまへんで!

   ほな、何でそんなことを今更取り上げて言うのか?
というと・・・。

神経管閉鎖障害は
胎児の神経管の閉鎖不全によって起こる一連の疾患である。
その中には無脳症、脳瘤、二分脊柱等があり、
いずれも重篤な神経障害で、
もし発症してしまったら
親も子供も一生背負わないといけない重い障害である。
そして、
この神経管閉鎖不全発症のリスクを高める要因
として妊娠初期の葉酸摂取の不足が、
以前から指摘されている。
そして、
この疾患の子どもを出産した母親が
次の出産に際し、
1日4mgという大量の葉酸を
妊娠前から妊娠12週まで服用すると、
障害の再発のリスクが72%も減少する。

しかし、
これだけのことが判っているにもかかわらず、
現実は、
ある調査によると
我が国では、90%以上の妊婦は
葉酸の摂取が不十分なのである。
(そりゃぁ、そうや!、調査せんでも、こんなに食えへん。
 10%足りてる人がいるのが不思議なくらいである。)

さらに
胎児の神経管の閉鎖は妊娠6週末で完成する。
ということは、
妊娠に気付いてから、葉酸を服用しても、遅すぎる。
妊娠1カ月前からの服用が必要である。

我が国の神経管閉鎖障害は、欧米よりは低いものの
一定の頻度で発症している。

というようなわけで、
妊娠可能な女性は
サプリメントの形ででも
葉酸を0.4mg/日常用したほうがいいのである


おーい、まき(最近結婚した姪っ子)、
これを読んだら、葉酸のサプリを買いに行きやぁ!

 
   ついでに、ヨードの話。
ヨードは甲状腺に取り込まれて
甲状腺ホルモンの材料になる。
足らないと困るが、摂り過ぎもよくない。
日本人は、まずほとんどの人が
「摂りすぎ」 と考えてもいい。
摂りすぎると、橋本病の発生が多くなるし、
老人では(意外と多い)軽症の甲状腺機能低下症になる。
特に自覚症状は出てこないことが多いが、
甲状腺ホルモンは、体の代謝を調節するホルモンなので
正常が100%としたら、
軽度低下の人は80%位で生きていることになる。
「何となくからだがしゃきっとしなくて、
 足が重くて、寒がりで、毛がよく抜ける。」
などの症状が複合的にあると思われる。

   恥ずかしい話だが、
「ヨードを摂りすぎないように!
 昆布はあんまり食べないでね!」
なんて、偉そうに話をしていたが、
具体的にどのくらいか、把握していなかった。

成人のヨード必要量は、100-150μg/日

昆布の佃煮2−3枚で15000μg
(でも、神宗の昆布、旨いなぁ!
 5−6枚はしょっちゅう食べているような・・・。)
昆布だしのみそ汁で3000μg

つまり、
桁違いの量を摂取しているみたいなのである。

ほかにも、ヨードは、
海草類や回遊魚・貝に多く含まれている。

というわけで、ヨードの摂りすぎには、ご注意!





   12月 1日 2007
   
法医学
   学生の頃の苦手な科目は
法医学と産婦人科だった。
後者は、ただ単に興味がなかったから。
法医学は、興味はあったけど、とにかく気味が悪い。
写真を見るだけで、吐きそうになったものである。
(いまでもそうだけど、全く根性がない。)

幸いなことに、法医学の教授は、厳しい人ではなくて、
「死亡診断書がちゃんとかけたら合格にしてあげる。」
「死亡診断書の直接死因欄に『急性心不全』とだけは書くな!」
というスタンスだった。
(死ぬときはみんな『急性心不全』だから死因とはいえない。)

   おかげで、
教科書を開かなくても、法医学の単位は取れたが、
最近になって、
やはり法医学は大切で、
今の社会にはどうしても必要なものだ
ということがわかってきた。

   そうでなければ、
司法や検察が暴走してしまうことがあるからである。

(もちろん、
 他殺か自殺か事故かなどの判断をして
 捜査すべきモノは捜査するということにおいても大切である。)

例えば、
警察の昇任試験では、刑法例題が出題されるのだそうだが、
その例題は、以下のような問題なのだそうだ。

 「Aは、Bを拳銃によって殺害しようとした。
  Aによって発射された弾丸は、Bには当たらなかったが、
  連れていた犬にあたり、
  Bはそれにショックを受けて、心筋梗塞を発症し、
  その場で死亡した。
  それを確認したAは現場を立ち去った。
  Aに問われうる罪責について述べよ。」

 答えは、殺人なのだという。

これは、
警察の立場上そうあってしかるべきなのだと思う。
ここで法医学の登場なのである。
法医学的には、
Bの心筋梗塞と犬の死亡には
医学的に、因果関係の成立は不可能
と判断するのである。

要するに
アクセルとブレーキが必要なのである。

    そういえば、最近AIという手法が出てきた。
Autopsy Imaging (解剖画像)の略である。
死体をCTなどでスキャンして
死因やその状態を解明する方法である。
解剖は死因究明の最も有効な手段だが、
死体を切り刻むことで、
その状況は失われてしまう。
そこで、
解剖する前に
死亡したそのままの状態を
CTなどで画像に収めておくわけである。

    これは、最近急速に普及してきているようで
異常な死以外にも、
病死でも、家族の同意が得られれば、
行われる傾向にあるようである。

   このことで、
新たな死因や病体の解明が進んで、
おそらくは、
一般臨床医学にも恩恵がもたらされるものと期待している。








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