DIARY

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   11月29日 2005
   
ビタミンE(VE)は、あまりイーことないみたい。
   以前から、VEは抗酸化物質として知られていて、
「体にいいはず!」と信じられてきた。
にもかかわらず、VEを投与した結果
寿命が延びたり、健康度が上がったという話はまったく聞かない。
逆に、「悪いんじゃないか?」というデーターがパラパラ出ていた。

  そんなこともあって、
僕のところでも、はじめの頃はしばしば使っていたが、
ここ数年は、使うべき疾患(しもやけとか手足の冷えとか)があって
患者から求められたときしか使っていなかった。

それに、もうひとつ、どうも納得しにくいことがあった。
だいたい、世間では、VEを使うと言えば、
「ユベラニコチネートソフトカプセル」ということに相場が決まっている。
しかし、厳密にはこれは天然のVEではない。
この薬は、「ニコチン酸トコフェロール」という一般名である。
ビタミンEで検索すると「酢酸トコフェロール」が出てくる。
どうしてわざわざ、ニコチン酸にしないといけないのか?
昔、製薬企業の人に聞いたことがあるが、忘れてしまった。
とにかく、なんだかあやしげで、使う気がしなくなっていた。

そんなおりに、HOPEという名前の大規模試験の結果が出てきた。
以下は、その試験の概要である。

国際二重盲検試験Heart Outcomes Prevention Evaluation(HOPE)試験
The HOPE and HOPE-TOO trial investigators (2005)
  Effects of long-term vitamin E supplementation on cardiovascular events and cancer. JAMA 293: 1338-1347 )
この試験は、
心血管イベントおよび癌の予防と、ビタミンEとの関連は、
実験動物や疫学的データで示されているにもかかわらず、
臨床試験では現在までのところ明らかにされていないので、
それをあきらかにしていくことが目的である。

試験の対象は、
脳卒中の病歴、冠血管疾患か末梢血管疾患の既往、
または1つ以上の心血管危険因子を伴う糖尿病を有する55歳以上の患者。
除外基準 は、
過去4週間の心不全、
管理されていない高血圧、心筋梗塞、脳卒中、
および過去または現在継続中のビタミンE摂取
あるいはアンギオテンシン変換酵素阻害 薬使用。

試験の方法は、
適格患者をビタミンE 400IU毎日投与群
またはプラセボ群のいずれかに、
無作為に割り付けた。
実施施設が継 続参加を決定した場合、
試験期間を延長し、
同意の得られた患者に対して2003年5月まで、
ビタミンE 400IUまたはプラセボの毎日投与を継続した。
これがHOPE-The Ongoing Outcomes(HOPE-TOO)試験である。
解析はすべてintention to treatによって行った。

一次評価項目は、
癌、癌関連死亡、および脳卒中・心筋梗塞・心血管関連死亡の複合とした。
心血管疾患の副次的評価項目は、
心不全、入院を要する不安定狭心症、
うっ血の臨床症状を伴う入院を要する心不全、
および全死因死亡などとした。

RESULTS(結果)
最初のHOPE試験の参加患者は9,541例であったが、
このうち4,761例をビタミンE群に、
4,780例をプラセボ群に割り付け た。
このうち7,030例がHOPE-TOO延長試験の参加に同意し、
3,520例にビタミンE投与を、
3,510例にプラセボ投与を継続した。
最初の HOPE試験と延長試験において、
癌と癌関連死亡の発生率は両投与群間で有意差はなかった。
主要心血管イベントの発生数はビタミンE摂取の影響を受けず、
HOPEではビタミンE群の1,022件に対してプラセボ群985件(P=0.34)、
HOPE-TOOではビタミンE群の807件に対してプラセボ群769件であった(P=0.31)。
さらに脳卒中、心筋梗塞、心血管関連死亡、
入院を要する不安定狭心症、血行再建術、
および全死因死亡の個別の発生率に関して有意差はなかった。
しかし HOPEとHOPE-TOOの双方において、
心不全と心不全による入院の発生率は、
ビタミンE投与患者のほうがプラセボ投与患者より高かった
(心不全の相 対リスクは、
HOPEでは1.13、95%CI 1.01〜1.26、P=0.03、
HOPE-TOOでは1.19、95%CI 1.05〜1.35、P=0.007)。

CONCLUSION(結論)
血管疾患患者と糖尿病患者にビタミンEを長期投与しても、
主要な心血管イベント、
癌、および癌関連死亡の発生率は低下しなかった。
とくにビタミンEは
心不全と心不全による入院の発生数を増加させ、
さらなる調査の必要性が浮き彫りになった。

COMMENTARY(解説)
Julian D Widder and David G Harrison*
基礎研究によると、
酸化的傷害はアテローム性動脈硬化症をもたらすあらゆるイベントを助長し、
また高血圧症、心筋梗塞、心不全の一因にもなっている。
培養細胞や実験動物を用いたこれまでの試験から、
抗酸化ビタミンはヒトにおける心血管疾患を減少させるという仮定は
妥当であると考えられていた。
残念なが ら、
最初のHOPE試験、
Gruppo Italiano per lo Studio della Sopravvivenza nell’Infarto Miocardico(GISSI)Prevenzione試験、
また近ごろのHeart Protection Study
などの最近行われたいくつかの臨床試験では、
共通して用いられた抗酸化物質の効果を示すことはできなかった。
そして今度は、HOPE-TOO試 験の驚くべき予想外の結果が明らかになった。
すなわち、ビタミンEは、実は心不全の発生数を増加させたのである。
ビタミンEが有害である可能性が示唆され たのはこれが最初ではない。
19の臨床試験について最近行われたメタアナリシスによると、
ビタミンEの1日量が少ない場合は(400IU未満)効果は不明 であったが、
1日量が多ければ(400IU超)死亡率が上昇した。

臨床試験において、
ビタミンEが心血管疾患の予防に効果がない理由は容易に想像できる。
たとえば、
ビタミンEは病原性を有するラジカル(過激な状態)を捕捉しない、
酸化 ストレスは疾患に関与しない、
ビタミンEの投与量が間違っていた、
などが考えられる。
しかし、
なぜビタミンEによって患者の転帰は悪化するのであろうか。
これについては推測する以外にないが、
ビタミンEの化学的特性の一部を考慮することが役立つであろう。
ラジカルとビタミンEの反応により
ビタミンEラジカ ル(tocopheroxyl radical)が形成されるが、
これは酸化促進効果をもちうる
ビタミンEラジカルは
ビタミンCのような共抗酸化物質(coantioxidant)によって
トコフェロールにリサイクルされる。
しかし、
この過程の有効性はin vivo(生体内)下ではまだ証明されておらず、
ラジカルの産生が抑制されない場合は、
せいぜい内在性のビタミンCや他の抗酸化物質が消費されるだけであろう。
さらに、一部の活性酸素種は有益なシグナル特性をもっており、
ビタミンEがこれらを取り除くことで体に害がもたらされる可能性がある。

合成型ビタミンEと天然型ビタミンEの利益の比較に関して論争がある。
この論争の中心には、
天然型ビタミンEは有益であるのに対し、
合成型ビタミンEは有 害かもしれないという前提がある。
HOPE-TOO試験では天然源由来のビタミンEが用いられたが、
それでもなお有害作用がみられた。
これは天然型でさえ 有益ではないことを示唆する。
これに関連して、αトコフェロールの問題もある。
αトコフェロールは臨床試験でしばしば用いられ、
天然由来のビタミンEの主 流を成しているが、
これを投与すると組織からγトコフェロールが排除される。
γトコフェロールは、
酸化的傷害において重要な役割を演じるペルオキシ亜硝酸 イオンの捕捉にとくに有効であるため、
γトコフェロールの排除は問題である。


驚くべきHOPE-TOOの結果に対してどのような解釈をしようとも、
重要な結論は変わらない。
すなわち、ビタミンEは、
確立した冠動脈疾患、末梢血管疾 患、脳卒中の既往、
または糖尿病を有する患者への適応はなく、
これらの患者に投与すべきではない。
総合ビタミン剤にわずかに含まれる場合(おそらく1日 50IU未満)を除き、
これらの患者にはビタミンEを摂取するのをやめさせるべきである。
一般集団におけるビタミンEの利用については、
その有効性はまだ 証明されておらず、慎重な研究が必要である。

Copyright Nature Publishing Group 2005. All Rights Reserved.


要するに、VEは、
人に対しては、
効果がないばかりか、
心不全を悪くする方に働く様だ。

以前にも書いたけど、例えば、体に鉄が多くあると
VEやVCは酸化した鉄を還元してしまう。
この還元された鉄が、また酸化されて
この時に体の酸化が同時に進行してしまう可能性がある
と僕は推測している。

まぁ、いずれにしても、VEを摂取することは
いいことはないみたいである。

巷では、VEを飲んだら、肩の凝りがとれたり、
目がすっきりしたりする
というコマーシャルが流れているけど、
どれだけいい加減なものか!

そういえば、風邪に効く風邪薬がいっぱいあるし、
関節に効く飲み薬もいっぱいあった・・・・。

製薬企業やマスコミって、
所詮そんなもんなんだろうと、思い知らされてしまう。






   11月28日 2005
   
一安心!
   実は、9月の始めに横浜で認定内科専門医の資格試験を受けた。
初めのうちは、
何となく受けるのがめんどくさくて、
「それに、もし受けて落ちたらかっこわるい。」
という理由で受けなかった。
そのうち、受けることすら忘れていた。
ハッと気づいたら、
受験資格の入院サマリーを何処かになくしてしまっていた。
入院サマリーとは、
研修病院で受け持った患者一人一人について、
どんな病気で、どんな経過で入院して、どんな治療経過で、どうなったか。
を記録したもので、内科医の財産とも言えるものなのだけど、
受験の資格審査以外には使うことがない。
開業して、もう専門医なんて要らないとも思っていたから、
まったく使うこともない内に、何処かに行ってしまった。
最近になって、
認定内科専門医は公に表示できる資格となった。
しかし、受験しようにもサマリーが無くなっていた。

そんなおりに、
(やっぱり同じような人はたくさんいるみたいで)
多くの要望によって、
認定内科医に限り
一回だけ、サマリーが無くても受験資格が与えられた。

  チャンスは一度きりである。
しかし、試験はかなり難しい。
質問の選択肢の中には、
今まで、見たことも聞いたこともない様な疾患がパラパラある。
しかも、
医学の発展とともに医学の常識がころころ変わる。
一年前の知識は、すでに古くて間違いになることもある。
勉強しないと絶対に受からない。

去年の年末から準備を始めた。
問題集を買って、やり始めたが、量が膨大である。
統計の問題では、
どうしても回答の解説が理解できなくて、
出版社に問い合わせたこともあった。
出版社から、さらに出題者に問い合わせてもらって、
実は解説が間違っていたこともあった。
(おかげで少し自信がついた。)

とにかく、一夜漬けが利かないし、
覚えないといけないことが山ほど有る。
しかも、
「覚えなくてもいい」と思えることを覚えるのは
なかなか難しい。
例えば、
急性白血病の中でM2といわれるタイプのものは
染色体のt(8;21)(q22;q22)の転座が30〜40%ある。
M3では、t(15;17)(q22;q21)で云々。
なんていうのがある。
これが
Mは0から7まで、Lは1から3まである。

こんな事覚えたからって、
日常の診療に何か役にたつことなんてあるわけがない。
それでも、
合格するためには、ある程度は
何処かの、「おたく教授」の
けったいな問題にも対応しないといけない。

とにかく、それなりに準備して受験した。
試験は、朝10時から始まって、
第1時限110分
昼食後
第2時限100分
30分の休憩後
第3時限90分
合計300分である。
こんなに長い時間、試験を受けたことは、
国家試験以来である。
途中で、頭が疲れてきて、最後の方は頭が豆腐になっていた。
もう考える気力もなくて、
一通り回答したら途中退場してしまった。

退場してから、
「試験結果は、何時どんな形で公表されるのか」
聞いてないことに気づいた。
内科学会のHPを見たが乗ってない。
問い合わせたら、11月末に発表とのこと。
「なんでそんなに時間がかかるんだ?
解答用紙は、マークシートだから
コンピューターで採点するのだろう?」
と思ったが、しょうがない。

数日前に、内科学会誌が届いた。
そこに内科認定専門医合格者一覧が載っていた。
「ああ、これか?」と思ってみたら、
大阪府に僕の名前がない!
ものすごくがっかりして、
それでも、「そんなはずないだろ?」と何回も見返した。
やはりない・・・。
試験問題の中には、「地雷」といわれる選択肢がある。
「いくら他が良くても、この回答をしたらあかんやろ!」
という選択肢を選んでしまう場合である。
これをやっちゃったんだろうか?
地雷は踏んだ本人には自覚がないから・・・。

他の可能性としては、総合点はクリアしていても、
全分野でくまなく基準以上の得点がないと不合格になる。
一分野でも基準以下だと不合格になるので、
これにかかったのだろうか?

でも、少し発表が早いような気がする。
よくよく見たら、僕が受けた試験ではない。
一安心とともに、なんか不安が大きくなった。
そんなわけで、
この数日、本当に悶々としていた。

今日、やっと通知が来た。
おかげさまで、
来月から、新しい認定書を掲示できるようになった。
表の看板にも表示出来る。

一安心である。



   11月25日 2005
   
本当に腹が立つ!大切なのは何?
   昨日の深夜に何気なくフジTVを観た。
「身体障害者の介護費用が増大してくるので、
 一部負担金を徴収する。」
という法案についての番組であった。
もともと、身体に障害がある人達である。
そのほとんどの人達は、生計を立てる仕事が無くて、
質素で倹約をして生活をしている。
その人達から、
さらに介護の負担金を取ろうとするとんでもない法案である。
この人達には、生きていくために絶対的に介護は必要なのである。
それも、最低限人間らしく生きていくための介護である。
うんこをしたいときにうんこをする。
うっかりでてしまったら、速やかにキレイにしてくれる。
そんな介護である。
「しんどいから、代わりに買い物に行ってとか、
 掃除洗濯をして!」
というものではない。
今の介護制度では、
介護の人がいない時間に、うんちが漏れてしまったら、
介護の人が来るまで、そのまま何時間も待っていないといけない。
こんなことさえも十分にケアできていないのに、
今度は、さらに介護を減らすために金を取るという発想!
もうあきれてものも言えない。
この人達を支える金がないほど、日本はお金がないのか?

考えてみたら、医療制度改革も、年金制度も同じである。
安心して年をとることが出来ない国、
病気になったら、切り捨てられる国なのだ。

小泉にとって、
国民一人一人の
「生活」や「幸せ」「安心」などは、
どうでも良いのである。
国家が大切なのだ。
国連の常任理事国になったり、
ちゃんと戦争が出来る国になったりすることが優先なのである。
そのためには、病人や年寄りは要らない。
この人達に出す金は惜しんでも、
銀行の不良債権には平気で大金を使う国なのである。
おかげで、今年の銀行の決算は2兆6千億円の過去最大の黒字である。
銀行は、この黒字で、
不良債権処理の時に使ってもらったお金を返してくれるわけでは決してない。
「銀行は大事にするが、病人や障害者は切り捨てる政府」を選んだのは、
他ならぬ国民なのだから、しょうがない。

ちなみに、民主党と社民党と共産党は、
この法案には反対していた。


  そういえば、腹立ちついでに、もうひとつ。
今話題の、欠陥マンション問題。
建築設計士や企業が責められているが、
一番責任が重いのは国の方針である。

そもそも、建築物のチェックを
行政機関がしていたものを民間に移行した。
(やっかいなものを民間に押しつけたのだろうが・・・。)
当然、
民間のチェック機関は、
業者からたくさん委託された方が儲かる。
業者は、「早く、安く、そして、簡単にパスさせてくれる」チェック機関を選ぶ。
わざわざ、チェックの厳しい機関に委託することはないのである。
そうなれば、ザルのような検査機関が出てくるのは必然である。
こんな事は、誰が考えてもわかることである。
今回のことは、今の制度のもとでは、
誰かが必ずやってしまうことなのである。
つまり、必然的に起こったことなのである。
だから、
この先も同じことが起こるに決まっているが、
国は、「民間に移行したことに問題はない。」と平気で言っている。
この、感覚の鈍さというか、
厚かましくも平気で間違ったことを通しきろうとする官僚体質を
何とか出来ないのだろうか!

このことも、国民の幸せをまったく考えてないことの結果である。






   11月21日 2005
   
かるく、やばい!
  先週の週末は、お勉強会で、メタボリック シンドロームが演題だった。
この言葉は、
われわれ、医者の間では耳慣れた言葉だけど、
一般の人には、耳慣れているのかどうか、判断できない。

  話はそれるけど、
だいたい、医学の世界では業界用語がいっぱいあって、
病気の説明の時に、それを多用して説明すると、
医者は説明して判ってもらえているつもりでも、
相手には半分も伝わってなかったりする。
例えば、「頻回に」という言葉は、
(僕自身も、つい最近まで、辞書にある言葉だと思っていた。)
「頻度が多い」という意味である。
「予後」などもよく使われる。
「予後がいい」と言えば、
「死んだり、重大な健康障害を残さない。」と言う意味である。
自分にとっては、常識なので、相手にも常識だと錯覚してしまう。
しかし、医学部に入る前には、
「予後」なんて言葉は見たことも聞いたこともなかったはずだ。
話をしながら、
頭の中で吟味して言葉を選んで説明するようにしているけど、
相手に、どれだけわかってもらえたのかは、
やはり謎のままだ。

  ところで、メタボリック シンドローム。
米国高脂血症治療ガイドライン
(ATPIII:Adult Treatment Panel III, NCEP National Cholesterol Education Program)
では、
下記5項目のうち3項目が該当するとメタボリック・シンドロームと診断ができる。
 1)ウエスト(腹囲)が男性で85cm以上、女性で90cm以上
  (ウエストは、臍のレベルで水平に測定。腰の一番くびれたレベルではない。
   おなかを引っ込めて測定しないで、普通の緊張状態で測定する。)
 2)中性脂肪が150mg/dl以上 (早朝空腹時測定)
 3)HDLコレステロールが男性で40mg/dl未満、女性で50mg/dl未満
 4)血圧が最大血圧で130mmHg以上または最小血圧で85mmHg以上
 5)空腹時血糖値が110mg/dl以上

WHOの診断基準もあるが、
今、一般に日本で通用しているのは上記のもので、
こちらの方が、一般の人にもわかりやすい。

   このメタボリック シンドロームの意味することが、
何であるかが重要である。 
要するに、これら一つ一つの異常は、
今までは、

「かるく、やばい!」
ものばかりなのである。

病院に行って、検査で引っかかっても、
「薬は要りませんが、生活習慣に注意して、
食べ過ぎないように、ほどほどに運動もしておいてください。」
と言われて、安心して家に帰されるものなのである。


   しかし、
これらの複合は、決して安心できるものではない。
血管の動脈硬化は加速度的に進んで、
そう遠くない将来、

はっきりとした「やばい病気」
が出てくる。

それが、単に
はっきりした糖尿病だったり、高血圧症だったのなら
まだいい。

   心筋梗塞だったり脳梗塞という形で現れることも
決して希ではないことが問題なのである。
要するに、メタボリック シンドロームの根本の状態は、
「内臓脂肪の蓄積」が問題なのである。
最近の研究でわかったことなのだが、
脂肪細胞は、それ自体でいろんな因子を分泌している。
例えば、
PAI−1(plasminogen activator inhibitor)
これは、血栓融解を促進する物質を抑制する。
つまり、血栓が起こりやすくなる。
Adiponectin
最近見つかった動脈硬化を押さえる物質。
脂肪細胞から分泌されるけれど、
脂肪細胞が増えると血中濃度が下がるという、まか不思議な物質。

 内臓脂肪が増えると、
これらの物質を介して、
動脈硬化の進展や血栓の形成が起こることになる。

   ちなみに、
「診断基準に2つは該当してるけど、3つからだから大丈夫」
などとは思わないで欲しい。
要するにそのようなことが該当しだしたら、
それは、生活習慣そのものが問題なので、
該当項目が3つに増えるのは時間の問題でしかない。

  40歳、50歳台で、大きな病気はなくて、
外見はそんなに太ってないけど、
おなかだけがポチャッと出ていて、
仕事が忙しくて、帰宅が遅くて、
夕食を食べたら風呂に入って寝るだけの毎日。
血液検査では、
「中性脂肪が高いけど、薬を飲むほどではないから、
腹八分にして、運動の習慣を!」
と言われるが、特に守っているわけではない。
そういえば、
血圧も130台/80台後半でこちらも、
「薬を飲まないで、生活習慣の改善を!」
と言われている。
そんな人の中に、若くしてぽっくり逝く人が増えている。

  一つ一つは、軽くやばいだけど、

複合では、
とってもやばい!


   今からでも遅くないので、真剣に生活習慣の見直しを!






   11月15日 2005
   
今年も、インフルエンザワクチン(有効率に騙されないで!)
   インフルエンザワクチンの接種シーズンになって、
うちのような”ツブクリ”でも、てんてこ舞いの忙しさである。
うちなんか、「ワクチンはやるだけ無駄!」と宣言して、
そのように宣伝しているところでさえこの有様だから、
まさに、インフルエンザ狂想曲だと思ってしまう。

   さて、このインフルエンザワクチンだけど、
昨シーズンのデーターが手に入った。

   全国43医療施設で、
インフルエンザワクチンの予防接種を受けた人 1万4364人と、
受けなかった人 3101人を登録した。
その後、
今年4月30日までにインフルエンザにかかったかどうかを調べた。

   その結果、
接種を受けながら発症したのは696人(発症率4.8%)。
逆に受けない人のうち発症したのは206人(同6.6%)だった。
接種でインフルエンザにかかる率がどの程度低下するかを見る
「有効率」は約27%となった。

  どうも、この有効率というのがあやしげな言葉である。
普通に聞くと、100人に使ったら27人は罹らなかった。
という風に聞こえる。
そうではない。
ワクチン接種者の発症率   4.8%
ワクチン非接種者の発症率  6.6%
これを割り算して、4.8÷6.6=0.727
これが相対危険比である。
相対的な危険がどれだけ減るのかは、
1−相対危険比=1-0.727=0.23
これが、相対危険比減少 
つまり、これを有効率として出しているのである。
この値を使うといかにも効いていそうな感じになってしまうが、
これを絶対危険減少で表すと、
6.6-4.8=1.8と少ない。
さらに治療必要人数(NNT)
(一人をインフルエンザに罹らないようにするために
 何人にワクチンを打つ必要があるかという数)
は、  1÷0.018=55.55555
つまり、55人に打つと一人罹らないですむということになる。


   要するに、去年も効いていない。
一昨年もそうだった。
ワクチンの型と、実際に流行ったインフルエンザの型が違ったのだろう。
と言われているが、 はたしてそうだろうか?
4年前と3年前は効いたそうである。
実は、そこに統計の怖さがある。
具体的には、
4年前
ワクチン接種者の発症率   0.3%
ワクチン非接種者の発症率 1.2%
有効率(相対リスク減少):75%
NNT:111人

3年前
ワクチン接種者の発症率  1.9%
ワクチン非接種者の発症率 5.9%
有効率(相対リスク減少):68%
NNT:25人

2年前
ワクチン接種者の発症率   1.7%
ワクチン非接種者の発症率  2.4%
有効率(相対リスク減少):29%
NNT:143人

4年前は有効率75%だったけどNNTは111人
3年前は有効率68%でNNTは25人

世間一般には4年前と3年前のワクチンは
よく効いたことになっている。
有効率が高いからだ。
でも、治療必要人数には大きな差がある。

   この有効率と言う言葉は、
誰が定義したのか調べても出てこないし、
正式なものではないようだ。
正式には「相対リスク減少」のことである。
この「相対リスク減少」を使うと、
効いていないワクチンが
いかにも効いているように見える。
だから、
「相対リスク減少」を
「有効率」という言葉に置き換えて使っているとしか思えない。

    我々医者も、よく製薬企業のデーターで
この「有効率」に騙される。
幸い僕は、このトリックに気付いて騙されなくなったが、
いまでも、多くの医者が騙され続けている。

つまり、
もともと、たいして効いてない薬を
いかにもよく効くように見せかけるために、
「相対リスク減少」を「有効率」という言葉に
置き換えただけのものなのである。
実に巧妙で、びっくりしてしまう。
このことに誰も異を唱えないのはどうしてなんだろう?




   11月12日 2005
   
そういえば、波照間
   今月初めのとびとび石連休?に波照間に行ってきた。
波照間は、人が居住している島としては、
日本最南端の島。
さすがに、南西諸島は、まだ夏だった。
風はさわやかだったけど、
日差しは真夏のそれほどではないが、強烈だった。
それでも、半袖・短パンで十分だった。
夜に風の吹いているところでは、
少し肌寒いと感じることもあったが、
苦痛ではなかった。
向こうでは、まだ、6時過ぎまで暗くならない。

   波照間で、一番きれいだったのは、星空だった。
山のない島なので、雲がない。
周りに明かりがないところに行くと、満天の星空である。
ちょうど新月の後で、月明かりもほとんど無かった。
あまりにも、星が明るいために、
どの星が星座の星なのか、星座の確認がしにくいほど、どの星も明るい。
天の川も、ちゃんとミルキーウェイとなって見えているし、
よく見ると小さな星であることもわかる。
天文台で、説明を受けて、
初めて、僕たちがいる銀河以外の星雲、アンドロメダ星雲をみた。
ちょっと感動ものであった。
はくちょう座も、夏の大三角(デネブ・ベガ・アルタイル)もわかるようになった。
ちょっと嬉しい収穫であった。

   海は、きれいだけど、特にこれといったものはなかった。
お世話になった、石野ダイビングは、
53才のお父さんと22才の息子でやっている。
二人とも、BCDは付けないでハーネスだけで潜っている。
おやじさんは、まさに「海人(うみんちゅう)」で、かっこいい。
僕たちにごちそうしてくれるために、スピアガンを持って
海に入って、あっという間に大きなイシガキダイを捕っていた。
獲物を持って海の中を進んでいく姿は、めちゃ、かっこよかった。
今回の海の中の写真で、
一番期待しているのは、この時の写真だけど、
上手く撮れているかなぁ?








    11月11日 2005
    
3xPC
   ずいぶん長い間さぼってしまった。
今月初めは、波照間に行っていて、
パソコンとは無縁の世界にいた。
帰ってからは、
なんだか、毎日やたら忙しかった。
はやらないで、つぶれそうなクリニックのことを「ツブクリ」というのだが、
「ツブクリ」を自認している当院では、
毎日やたら忙しいと、職員も僕も「ヘトヘト」になってしまって、
日記の更新どころではなくなってしまう。
どうやら、
インフルエンザのワクチン接種が始まったのが一因のようだ。
僕のところでは、
「ワクチンは効かないから、打たなくてもいいですよ。」
と言っているのだが、そんな僕のところで、この有様だから、
「よそではもっと大変なんだろう。」
と要らぬ心配までしてしまう。
   
   ところで、「3xPC」だけど、
これは、
「一日3回 毎食後(post cibos)に薬を服用してください。」
と言う意味で、
薬を処方するときの業界用語である。
過敏性大腸症候群の患者(僕もそうだけど)では、
よく食べる度にトイレに行く。
僕の周りの医者には、この病気である連中が多い。
それで、「おまえ、どのくらい”くそ”する?」
とかいう話になったときに、この回答がけっこう多い。

食事をすると、消化管にその刺激が感知されて、
胃腸の運動が起こるわけだけど、
過敏性大腸症候群の患者では、
この反応が強く起こって、
食事をすると、しばらくして、下痢が出現することになる訳である。
しかし、吸収障害のための栄養障害などは起こらない。

最近、この過敏性大腸炎の患者の一部は、
実は、果糖不耐症であるという報告が出てきた。
(確かに、僕は、ミカンを食べたらてきめんにそうなる。)
果糖不耐性は、
果糖が豊富に含まれる食事を続けた結果、
果糖の吸収に問題が生じ、
腹痛や膨満感、下痢など、
過敏性腸症候群に似た症状を来すというものである。


僕もそうである可能性がある。
食事から完全に果糖を取り除けば治癒するけど、
つい、美味しいから食べてしまう。

まぁ、いいか!
別に困ってないし・・・。

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