化学平衡



 化学平衡という考え方は,反応速度の研究からはじまった。
 しかし,反応速度の測定は非常に難しいことから,研究は下火になった。

 平衡定数は当初,反応速度のつりあいから求められたが,これは誤りである。
 証明は熱力学によりなされるもので,以下に熱力学を使い証明する。



 <数学の基礎>

 @ 積の微分
   y = fg という関数があるとする。

   dy = (f+df)(g+dg) − fg
      = fg + fdg + gdf +dfdg − fg

   dfdg ≒ 0 とすると,

   dy = fdg +gdf

 A 全微分と偏微分
   z = f(x,y) という変数が2つある関数を考える。

   dz = (∂z/∂x)dx + (∂z/∂y)dy

   これは,z方向の山に登るとき,「x方向に登ってからy方向に登る」ことと似ている。



 <自由エネルギーの圧力変化>

 平衡定数は,自由エネルギーのつりあいから求められる。
 自由エネルギー(G)とは,反応の「推進力」を表すもので,「エントロピー(S)増大の法則」から自然に求められる。

  G=H−TS=E+PV−TS

 ここで,Hはエンタルピーというもので,内部エネルギーと膨張した仕事の和で定義される。

 積の微分の公式を使って,
  dG=dE+PdV+VdP−TdS−SdT … @

 ここで,熱力学第一法則より,
  dE=Q−PdV … A

 可逆過程では,Q=TdSが成り立つので,Aは,
  dE=TdS−PdV

 したがって,
  dE−TdS+PdV=0 … B

 Bを@に代入すると,
  dG=VdP−SdT … C

 全微分dGは,
  dG=(∂G/∂P)dP+(∂G/∂T)dT  … D

 CとDを比較して,
  (∂G/∂P)=V … E
  (∂G/∂T)=−S … F

 とりあえず,ここでは「圧力変化」を議論する。

 EをPで1気圧から積分すると,1molの理想気体では,PV=RTが成立するので,
  G−G゜=∫VdP=RT∫dP/P=RTlnP

 したがって,
  G=G゜+RTlnP 〔1molあたり,温度一定,理想気体〕 … G

 ここで,G゜は1mol,1気圧での自由エネルギーである。



 <平衡定数の導出>

 以下のような化学平衡を考える。

   aA + bB ⇄ cC + dD

 1molあたりのXの自由エネルギーをGとすると,
 平衡では,左辺と右辺の自由エネルギーの和は「つりあう」ので,
  aG+bG=cG+dG

 ここで,Gを代入して,
  a(G゜+RTlnP)+b(G゜+RTlnP)=c(G゜+RTlnP)+d(G゜+RTlnP

 したがって,
  cG゜+dG゜−aG゜−bG゜=−RTln(P/PCA

 ここで,cG゜+dG゜−aG゜−bG゜=ΔG゜とおくと,
  P/PCA=exp(−ΔG゜/RT) … H

 Hの右辺は,温度一定ならば一定値をとるので,
  P/PCA=K とおき,「圧平衡定数」と呼ぶ。

 すなわち,
  ΔG゜=−RTlnK  … I

 なお,温度一定で,「圧平衡定数」と「濃度平衡定数」が比例関係にあることは,高校の教科書にも記載されている。



 <溶解度積>

 Gは理想気体の話で,溶液では,

 G=G゜+RTln[X] 〔1molあたり,温度一定,理想溶液〕

 ここで,G゜は1mol,1mol/Lでの自由エネルギーである。

 AgBr(s) ⇄ Ag + Br

 K=[Ag][Br]/[AgBr(s)]

 固体の濃度は殆ど変化しないので,K[AgBr(s)]=Kspとおくと,

 Ksp=[Ag][Br]

 と書ける。

 Iと同様に,

 ΔG゜=−RTlnKSP

 溶解度積は小さいので,自由エネルギー変化から求められる。
 もしくは,標準電極電位の差ΔE゜が分かれば,
 ΔG゜=−nFΔE゜なので,
 ΔE゜=(RT/nF)lnKSP

 より計算できる。

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