有働式生活療法

〈生きたヒトとしての生〉を最大限に
謳歌するための〈全人間的アプローチ〉

 また一方、現代の高齢者医療における治療の根本的問題として、〈多病息災〉の多臓器複合
障害を有しながら、かろうじてADL自立である高齢者が潜在的に多い点があげられる。これが
青壮年者の医療と大きく異なる点である。

 例えば、このような高齢者が肺炎などの急性期疾患を発症して入院したとき、治療者が
ADLに関して配慮することなく臓器レベルの専門家として肺炎の治療のみで満足している
と、原疾患が治癒した時には患者は〈寝たきり状態〉となってしまい、その結果、在宅への軽
快退院ができないといった例が増加しているのである。

 すなわち、高齢者医療においては、原疾患の治療開始と同時に他の臓器の精査(特に腎・肝
機能予備能検査などは、その後の薬物療法にも関わるため重要である)を考慮に入れながら、
同時にADLの改善にも関心を抱き治療を開始することで、入院中の長時間臥床による〈廃用
症候群〉を医原性に作らないことが肝要といえよう。つまり、今後、全患者数の半数以上を
占めると考えられる高齢者医療においては、〈多臓器複合疾患〉の病態を踏まえてバランス感
覚のよい全人間的アプローチによる治療を試みる点が、単一疾患の治癒という単純な治療パ
ターンで済む青壮年患者の医療と大きく異なるのである。

 実際の意味において、〈有働式腹臥位療法〉は1998〜99年の冬季のインフルエンザによる高
齢者の続発性肺炎に対しても、われわれの施設(筆者の前任地:医療法人親仁会みさき病院)
において多大な効果を発揮した。

 つまり本療法は、低ADL(高齢)患者の残存能力を最大限に生かし良質のQOLを提供できる
統括的治療法といえよう。さらに、臨床的に多岐にわたる効用・効果を発揮するという特徴を有
し、今こそ現代医療の現場において求められている〈具体的解決策〉の1つといえるものであ
る。

 また、前述のように世界一の長寿社会を誇るまでに至ったわが国であるが、その平均余命の
延びの実体とは、欧米ではみられないような、世界一の〈寝たきり高齢者〉の存在があったと
いっても過言ではない。実際、近年では世界的にも痴呆や身体機能障害のない、健康で自立
した状態を重視した〈健康寿命〉という概念が平均余命を比較する上で重要視されており、この
結果によると、この〈健康寿命〉において、世界一の座を占めるのは、もはやわが国ではな
いのである。

 このような状況をかえりみて、合併症が生じて、はじめて治療を開始するという、後手後手の
サイクルで行われてきた従来の老人医療の受け身的傾向を反省するとともに、高齢者が寝た
きり状態で延命治療を強いられることなく、〈生きたヒトとしての生〉を最大限謳歌することを可
能にするための〈全人間的アプローチ〉の1つとして、また、今後ますます増加の傾向にある要
介護者に対して、いつでも・どこでも・誰にでも・安価に施行可能な、寝たきり状態予防の〈具体
的方策〉の1つとして、今回、〈有働式生活療法〉を紹介したい。

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