【演出の常識】

《演出・歌舞伎・邦楽・その他用語解説(2)》

      
《参考文献》
『日本舞踊総覧』日本週報社 『歌舞伎事典』講談社 他

『さ・た・な・は・ま・や・ら・わ』

 
さしがね 「差し金」:
黒衣が、黒く塗った細長い棒を使って、蝶・ネズミ・鳥などを操作する。
手習い子などの踊りの場合は、後見が操作する。
幽霊が出る時の、鬼火なども、焼酎火といって、この差し金を用いる。

さしだし 「差し出し」:
面明りともいう。江戸期の芝居は、ロウソクを照明として用いていた。
映像的な顔のアップに近いイメージ作るために、
見得を切った立者役者の顔そばまでロウソク明かりを差し出して、面明かりとした。

ざつきさくしゃ 「座付作者」:
特定の座(劇団)に属し、おもにそのための脚本を書く作者。座付狂言作者ともいう。

さるわか 「猿若」:
歌舞伎の役柄。道化方の前身、歌舞伎の発生期に道化方として登場。
歌舞伎誕生期は、失業狂言師や失業能楽囃子方の大量就職先となり、
能狂言の演出手法がそのまま歌舞伎に活かされた。

さわり 「さわり」:
古典音楽用語。
1) 義太夫節において歌謡的、叙情的な調子に乗った部分(正しくはクドキ)。
それ以外では『ききどころ』の意に使う。
2)三味線の音響装置とそれから出る音。
三味線の一の糸(一番太い糸)を上駒から外し、サワリの山に軽くふれさせ、複雑な一種の雑音をだす。
さびた音色が喜ばれ、調弦にも便利。義太夫で始まり、江戸時代中期以降他流に普及した。

さんまいめ 「三枚目」:
歌舞伎の役柄。おこ(虚仮・こっけい)の演技で観客を笑わせる役で、
道化方が看板の三枚目に揚げられたことによる。

じかた 「地方」:
日本舞踊用語。舞踊において、踊手の立方(たちかた)に対して地の音楽を受け持つ人々の総称。
地は土台、下地の意。囃子方を除く。

じょうるり 「浄瑠璃」:
三味線を伴奏楽器とする古典芸能の語り物の代表的なもの。説経節から発展したと言われる。

しょさごと 「所作事」:
歌舞伎舞踊、舞踊劇のこと。『振事、拍子事、景事』もほぼ同じ意味。
所作とは『振舞い、しぐさ、行い』を意味したが、芸能の特殊な動作を言うようになり、
やがて舞踊的な表現を指すようになった。
江戸中期以降、劇場音楽の発達に伴い、所作事は舞踊劇を意味する言葉になった。
慣列では、長唄の地による舞踊を所作事といい、その他は浄瑠璃物、浄瑠璃所作事などといったが
現在はその区別はあいまいになっている。
拍子事は、地方(じかた)の拍子にのって踊るものをいい、古くは軽業的な要素の入った舞踊をいった。
振事は劇的要素の強い舞踊の演技を指す。

しーんわり 「シーン割り」:
戯曲の場面やある特定のテーマに括れる戯曲時間内をシーンと言う。
シーンは幾つかのピース(部分または挿話)に分かれる。
戯曲分析で戯曲を台本化する際に、シーン割りは有効な手段の一つである。

すもーく 「スモーク」
「ロスコ−」:

煙りや雲霧の効果を出すために用いる。
1)ドライアイスを氷点以上の温度にさらすと、空気より重い白色無臭の煙りが出る。
2)オイルを気化燃焼させ、噴霧器を通して煙を噴出する。

せかい・せかいさだめ 「世界」
「世界定め」:

江戸時代の歌舞伎の顔見せ興行において、
出し物の基本設定となる世界。歌舞伎では太平記や平家物語などの世界を借りて、
当時の現代的なテーマをあたかも歴史劇として上演する事が多い。
その設定を興行演目の出し物決めの時に行うことを『世界定め』と言う。

せんしゅうらく 「千秋楽」:
一つの劇場興行の終わること、またその最終日を一般に千秋楽、略して「楽」という。

だいこんやくしゃ 「大根役者」:
演技の拙劣な俳優のこと。芸、興業の「当たり」に対し、大根は食って当ったためしがない。

たて 「殺陣」:
元々歌舞伎演技のうちの闘争を表す様式的な表現法を指す。
闘争のシーンは「立ち回り」というが、その型をタテと呼ぶ。
今日では模擬闘争、略して擬闘をタテとよぶ。

だんまり 「だんまり」:
歌舞伎の演出法の一つ。
暗やみの中で登場人物が宝物などを互いに探り合いながら争う動作を様式的に表す。
原則として無言なので「黙り」から「だんまり」となったという。

ちゃり 「ちゃり」:
道化た演技や笑劇的な場面をいう。人をからかう茶化すの意味や、
茶の作法を心得ぬ者の滑稽をいう茶化場(ちゃけば)からの転訛と言う。

ちゅうのり 「宙乗り」: 宙づりともいう。俳優が身体を宙に吊って、舞台から花道上空を客席奥へ、
または舞台の空間を飛んでいくさまを見せる。
宙乗り
宙乗り
ちょぼ 「ちょぼ」
歌舞伎用語。チョボとも書く。
人形浄瑠璃の脚本を歌舞伎が演じるとき(丸本歌舞伎)や、
義太夫を取り入れた歌舞伎脚本の場合に、
舞台の上手に設けた床、もしくは御簾の中で語られる義太夫本、またはそれを語る人をいう。
文楽と異なり、原則としてせりふの部分は語られず、節付も違っているので、
文楽の太夫とは別のものとして扱われる。
語源は、義太夫本にちょぼちょぼと朱点を打って語る部分を記したからともいわれるが、
明らかではない。

つけちょう 「付帳」:
上演に必要な諸道具や約束事を項目別にまとめて書き付けたもの。

つけとつけいた 「附と附板」: 演者の行動や物音を強調するために、特別の拍子木で附板という
2尺に1尺程度の長方形の板の上を打つ。
関東では大道具師、関西では狂言方によって操作される。
附と附板
附と附板
てきすとれじー 「テキストレジ−」:
戯曲を台本化する際に、上演の為のさまざまな条件から戯曲の台詞や設定を
変更しなければならない時がある。
演出の権限で行われるこの台本化の作業を、テキストレジ−と呼ぶ。

どうぐちょう 「道具帳」:
舞台装置のデザイン、大道具製作のための設計図。

とうざい 「東・西」:
客席の位置を示す語で、舞台に向って右側を東と云い、左側を西と呼ぶ。
ある意味この呼称が私達の舞台芸術の発生を示唆しているとも考えられる。
西は西方浄土阿弥陀仏世界であり、東は東方薬師如来浄瑠璃国を意味する。
現世・来世・過去世を具現化するものであり、色であり空でもある世界とする。

とおしけいこ 「通し稽古」:
芝居の稽古方法の一つ。途中で止めないで上演時と同様に始めから終わりまで通して稽古すること。

とがき 「ト書」:
戯曲や脚本(台本)にあるせりふ以外の登場人物の動きや場面説明、照明、音響などの指示を言う。
歌舞伎でせりふにつづいて(ト何々....)とかならずトを頭において説明書きをしたことに由来する。

とこやま 「床山」:
板金のかつら下から作り、かつらを結い上げ、扮装を手伝い、仕掛け物の手入れなどを担当する。

とんぼ 「とんぼ」:
宙返りのことで歌舞伎では『とんぼを切る』といい殺陣の技術の一つ。

なだい 「名題」:
歌舞伎役者の階級。
名題を最高位として以下「相中上分」「相中」「中通り」「下立役」となっていた。
劇場の正面に名前を印した看板に絵姿とともにのることから。
立者ともいう。大立者は、ここが語源か。

にんぎょうぶり 「人形振り」:
語りの芸能として優れた浄瑠璃作品から、歌舞伎は多くを移入して義太夫劇の分野を成立させたが、
その中で一場面またはそのクライマックスだけを、役者が人形風に演技することをいう。
『本朝廿四孝』奥庭の八重垣姫、櫓のお七などが有名。

はやがわり 「早替り」:
一人の役者が同一場所で二役以上の役を瞬間的に衣装かつら共に替って勤める。
お染の七役(ななやく)で『於染久松色読販』(おそめひさまつ うきなのよみうり)などが有名。

はやし 「囃子」:
はやしたてるから生じた語という。
歌や舞踊を盛り上げるための打楽器が主体となる音楽を指す。
歌舞伎の場合は、能の囃子の影響のもとに発展し、
狭義では管楽器および打楽器のみの鳴物を指すが、
広くは唄、三味線も含める。
歌舞伎囃子には舞台に出て舞踊の伴奏を行なう出囃子と
黒御簾(くろみす)内で劇の進行に合わる影囃子(下座)があり、
その手法には能の囃子そのもの、およびその歌舞伎化したもの、
里神楽や祭の囃子、さらに歌舞伎独自のものがある。
胡弓、大太鼓、摺鉦(すりがね)、拍子木など能の楽器以外のものも
多数使用される。

ひきぬき 「引き抜き」:
役者が演技中に一瞬で衣裳を替えること(道成寺など)。
衣装のとめ糸を引き抜き、その衣装を取ると下から衣装があらわれる仕掛けになっている。
同様な仕掛けで帯を境に衣裳の上半身が裏返しに垂れて
下半身を覆った変装となるのをぶっかえり。『関の扉』の黒主などに用いられる。

ぶたいかんとく 「舞台監督」:
演出者の下でその事務的な面を担当し、舞台稽古、初日以後は舞台上演で行なわれる全ての行為を
統括、監督する責任者。

ぷろろーぐ 「プロローグ」:
劇、小説、映画、音楽など本編に入る前に、ある事柄の説明やほのめかしによって、
本編を始める準備する序・前口上などをいう。

ぷろんぷたー 「プロンプター」:
Prompterは客席から見えない所で舞台上の俳優や歌手にせりふや歌詞、
きっかけなどを伝えるサポートスタッフ。

ぽどてきすと 「ポドテキスト」:
役者が台詞・ト書きによって推理する、登場人物の行為の目的、本心、感情、
もくろみを明らかにする、潜在的テキスト。
演技創造の基本的な材料。
【ポドテキスト】参照
まつばめもの 「松羽目物」:
明治になって能、狂言を題材に歌舞伎舞踊化したものを松羽目物と総称する。
能から船弁慶・紅葉狩・土蜘蛛など。狂言から素袍落・二人袴などがつくられた。

みえ 「見得」・「見栄」:
見得はドラマを中断する読点、感嘆符と言われる。
荒事から誕生したため、基本の見得ミエを元禄見得という。

みざんすつぇーな 「ミザンスツェーナ」:
登場人物の舞台上の軌跡を、ミザンスツェーナとよぶ。
【舞台上のグループわけと行動軌跡(ミザンスツェーナ)】参照
みちゆき 「道行」:
日本古来から好まれた様式を特殊化して用いた歌舞伎の舞台表現様式。
文芸的には軍記物・歌謡・謡曲・浄瑠璃などの芸能に見られ、
能と狂言にも重要な構成場面を占めている。
古代からの冠婚葬祭の練り、仏教の行道(経行)、伎楽練行にも辿り得るもの。

めーきゃっぷ 「メーキャップ」:
舞台化粧。舞台の上に立つために演者が顔を作ること。
各役柄の演技表現の為に必要とされる化粧。

もちどうぐ 「持道具」:
演者が身につけ、またはもっている小道具。

もどき 「もどき」:
初めに演じられた由緒正しき曲目、構成、演技を批評的に砕いて物まねし、
その対象から滑稽味を誘い出す構成。またはその役。パロディー。

もどり 「戻り」:
歌舞伎の作劇法の一つ。大悪人が実は善人だったという趣向。
あるいは、善人に立ち戻るというケースもある。

ろっぽう 「六法、六方」:
1)歌舞伎で男または女の主人公が花道を特殊な歩き方で歩く芸を六方という。
伊達や勇壮なさまなどを誇張したり美化した、荒事の要素をもつ所作で、
名称は天地と東西南北の六つの方向に手を動かすことに由来する。
基本は両手のカイグリで、大きく両手を離した型で表現する。
基本動作は、左足を出すときは左手を、右足を出すときは右手を、
それぞれ出す、俗に「なんば」というもの。
『勧進帳』の弁慶の飛び六方(とび ろっぽう)
『天竺徳兵衛韓噺』の徳兵衛の泳ぎ六方(およぎ ろっぽう)
『義経千本桜』「鳥居前」の佐藤忠信実ハ源九郎狐の狐六方(きつね ろっぽう)
『宮島のだんまり』の傾城浮舟太夫実ハ盗賊袈裟太郎の傾城六方(けいせい ろっぽう)
『歌舞伎十八番之内 不破』の丹前六方(たんぜん ろっぽう) など。
その他、『だんじり六法』などの名が残る。

2)万治(まんじ)・寛文(かんぶん)年間(1658〜73)を中心に
江戸市中を横行した男伊達(だて)。六法者とも書く。
大撫付髪(おおなでつけがみ)、惣髪(そうはつ)、茶筅髪(ちゃせんがみ)に、
ビロード襟の着物などを着て、
丈も膝(ひざ)のところぐらいまでにし、褄(つま)を跳ね返らせ、
無反(むそり)の長刀を閂(かんぬき)に差し、
大手を振って歩いた。この格好から六方者という名称がおこったといわれる。
御法(ごほう)(五法)を破る無法者(六法者)の意味ともいう。
俗に『傾き者』・『丹前者』という。


勧進帳花道弁慶の飛び六法
わごと 「和事」:
上方独目の演出・演技形式で、台詞中心の女性的な、線の細い写実性の高い演技を特徴とする。
坂田藤十郎が、1699年(元禄12年)に演じた『傾城仏の原』が、その初期の代表作である。
写実性を重んずる「傾城事」、身分の高い貴公子が遊蕩に耽って家を出、
賤しい姿に身をやつして女と戯れる「やつし」、おかしみ(滑稽味)の要素を伴うことで、
「和事役は三枚目の心で演ずべし」といういい伝えもある。





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