【初歩のTA】

TAとはなにか その4

2018年12月25日
参考書籍 『セルフコントロールの医学』 池見酉次郎 日本放送出版社
参考書籍 『続セルフコントロールの医学』 池見酉次郎・杉田峰康・新里里春 創元新書

【初歩のTA】

6、脚本的交流
人生脚本的交流
 戯曲は作家の作品です。演出は、戯曲から舞台創造の為の台本を勘案し、
演出して行く事になります。演出にとって台本は、ある人生の切り取られた時間です。
しかし交流分析では、一人の人物の、幼い時から培われた『基本的構え』※3に
人生体験が加わって形成された、人生の未来設計図を『人生脚本(Life Script)』と呼びます。
いまここから未来に向かって展開されるスクリプトなのです。

※3基本的構え:とは
演劇では登場人物の言葉遣いや行動、判断の基準などの『キャラ建ち』、つまり個性やその特性を、
交流分析では人間の「基本的構え」と言います。これは幼い時から両親とのふれ合いを主として培われた、
自己・人間・世界に対する基本的な反応態度(演劇では適応)のことです。次の四つに分類されます。

一、自他肯定 (私も他人もOKである)
二、自己否定・他者肯定 (私はOKでないが、他人はOKである)
三、自己肯定・他者否定 (私はOKであるが、他人はOKでない)
四、自他否定 (私も他人もOKでない)

 本人は、今ここから自分の人生に何が起こるか、分からない。
しかし人生の中で「ある特殊な結末」を繰り返す人は、自分の『人生脚本(Life Script)』を、
自分以外の出演者を代えながら繰り返しているとも言えます。
言い換えれば、人生の岐路に立って、ある一定の結末が見えるような選択を繰り返す人は、
「そのような選択をしなければならない」という無意識のルールを持っていると考えられる。
これを『人生脚本(Life Script)』という。

そのため、逆に「私は、何が問題なのか」「私はどのように人生を過ごせばよいか」といった
問題を明らかにする手がかりとして、
繰り返される『人生脚本(Life Script)』※4の解明が考えられています。
 私達の芝居の台本は、物語の始まりと経過と終わりが分かっています。もちろん俳優はその経過の一瞬一瞬を、
先の見えない選択の連続として演じて行きますが、終わりが来る事は避けられません。
 登場人物には、ベニスの商人のシャイロックのように、物事への対応・適応を、常に同じ姿勢に保つ人物が大勢居ます。
その人物は、作家によって、『人生脚本(Life Script)』を与えられているとも言えます。
その『人生脚本』を読み解けば、『登場人物のキャラ』すなわち性格や物事の判断の傾向、声のイメージや歩き方さえ見えてくる。
 ただ注意しなければならないのは、あくまで書かれた言葉を解析した結果でしかないということ。
俳優の創造、台詞や台詞を生み出す行為の表現によって、登場人物は成長し変化して行く。
それはシャイロックを単に憎まれ役ではなく、喜劇の向こう岸の悲劇に生きる人物として描かれて行くかもしれない。
結果ベニスの商人をより奥行きのある作品に昇華して行くだろう。

※4…人生脚本とは
・人生脚本とは、幼少期の体験から組み立てられた、人生の基本プランである。
人生の岐路にあって、選択すべきものを無意識に規定する隠れた自己憲法のようなもの。
・人生脚本は本人に自覚されていないものである。
・人生脚本は、敏感であり、決定力のあるものである。
すなわち、子供の頃に、知覚体験した世界と、生きる目的、道徳観によって決められているもの。
これは外から力によって、押しつけられたものではない。
・人生脚本は、両親(または、その他の、本人に影響を及ぼしやすいもの(小説・映画・芝居・等)や体験)によって、
より強靭なものとなる。
・人生脚本は、私達が人生をどのように歩むか、何を求めていくかのスクリプトであり、
こに適合しない現実は、私達の持つ意識内のフィルターによって再定義※4され、または歪められる。
大事な事は、何を求めているかを、本人が自覚していないこともあるということ。
※4再定義:再定義とは、我々が意図的かつ無意識に、物事を望むように歪め、現実を曲解し納得する現象。
もしある人が、「冷たく厳しい世界に対して一人で生きていかなければならない」といった人生脚本を持っているならば、
他人の優しさや労わってくれる状況を、「この優しさは、私から何かを奪う企みの一部ではないか」と再定義(曲解)しているかもしれない。
・ 値引き(ディスカウント):「問題解決に関連する情報を気付かずに無視すること」と定義される。
自分の持つ人生脚本と矛盾する状況を、自分では気づかずに認知から抹消することである。
何かをその価値より悪く受け止めるものである。
値引きは、以下のようなものを含んでいる:受身(無気力)、過剰適合、不安、自意識の低下、怒り、暴力。
 幼少期に芽生える自他に対する「基本的信頼」は、将来の人間関係の安全弁となり、
自他肯定(私もOK、他人もOK)の基本的構えを形成してゆく。ところが、もしこの基礎工事に欠陥があると、
その後の周囲に対する開係のあり方に歪みが生じることになる。たとえば、本来、何らかの優れた素質をもった子供に、
親が不適切な、あるいは拒否的な養育態度「お前はOKでない!」で臨むと、
その子の人格(Cが主体)は否定されたことになり、その子の人格(C)の発展(A、Pへの発展)が阻まれることになる。
その結果、当人は成人してからも、その性格のアンバランスに苦しむことになる可能性がある。
交流分析では、これらのアンバランスは、次の三つの基本的構えの歪みとなって現われると考える。

・ 自己否定・他者肯定 (私はOKでないが他人はOKである)……自己卑下、劣等感、抑うつに悩む人たちの心境。
・ 自己肯定・他者否定 (私はOKだが他人はOKでない)……独善、他罰主義、他者不信などの心境で、攻撃的、
反社会的な言動に走りやすい。
・ 自他否定 (自分も他人もOKでない)……虚無的な心境で、人生に絶望した自棄的な生活や、自殺など招きやすい。

 基本的構えの歪みが、人格に深く根を下ろすようになると、われわれの交流は、多かれ少なかれ、
人生脚本の影響を受けることになる。これが「人生脚本的交流」である。
われわれが人生脚本的交流に陥っているときは、自分では止めたいと思いながらも、
たえず否定的な構え『私は・他人は・OK・OKでない』を確認しようとしたり、
悲劇的な人生の結末に向かってばく進したりすることになる。

破壊的人生脚本の基礎
世の中には、人生脚本的交流をはげしい形で演じ、ついには自己を破滅に導くような悲劇的な結末に終る人びとがいる。
たとえば、
1.積年の努力の末、周囲の支持を得て手にした高い社会的地位を、常識では考えられないような形で失ってゆく政治家たち。
2.心臓病、胃潰瘍をわずらいながら、次から次へと事業を拡大し、ついには再起不能の状態へとわが身を追いこんでゆく実業家たち。
3.月賦、借金など、つぎつぎと負債を重ね、さらには悪質な金融業者の餌食となって、一家心中に終る人びと。

なぜ、ある人達は、人生の計画を自らの統御の下において、かち得た成功を維持することができないのであろうか。
成功した人生を得るのに必要な能力を十分に備えていながら、このような悲惨で、
不可思議な結末を迎えねばならぬ理由は、どこにあるのだろうか。
 リア王やハムレット、マクベス、オセロは、彼らの悲劇が彼ら自身に内包している問題の顕現とは言えないだろうか。

素質
人生脚本をもとにして、人の性格形成をみると、自分の素質を充分に生かして、自己を実現するか、
あるいは、破壊的な人生脚本に操られて一生を自分らしくなく過ごすかは、
その人のもって生まれた素質と、幼時に親たちとの間で経験した、重要な意味をもつ交流のあり方に、
どの程度支配された生き方をするか、によって決まるものと考えられる。
破壊的な人生脚本の形成にあたって、遺伝、体質、気質など、本人の素質が演じる役割を、
常に考慮することが必要である。ある人びとは、ストレスや困難な生活条件に耐えうる、
生来的なたくましさを持ち合わせている。また、外界のさまざまな変化の下で、
素早く順応できる素質の人もあれば、これについてゆくことができずに、障害を起こしやすい人もいる。
また、生来的に、物事の道理を深く考えて進む思弁型の人、外界の具体的な事象を分析し、
その法則などをさぐる能力にすぐれた科学者タイプの人、さらには、
直観力や美の表現力にすぐれた素質を有する芸術家タイプの人などもいる。
いうまでもなく、こうした素質の厳密な分類はむずかしい間題であるが、ここでは、
人生脚本の形成の基盤となると思われる具体的な例をいくつかあげておこう。

1. 鋭い感受性
外界からの刺激に対して、非常に敏感に反応する。感情の交流をめぐって、過剰な反応や、深刻な受けとり方を示す。

2. 神経質
内気で遠慮深く、自制心がつよい一方、完全欲、神経過敏、取り越し苦労などを特色とするもの。非常にものごとにとらわれ易い。

3. 分裂気質
内気、小心、きまじめ、無口で、とくに親密な人間関係を保ちにくいもの。感情を閉鎖し、自らの中に閉じこもり易い。

4. 執着気質
非常に几帳面、徹底的で、行動や考え方に柔軟性がなく、現実的な態度がとりにくい。うつ病によくみられるもの。

5. てんかん性格
とくに身体疾患としてのてんかんが、性格特性や問題行動の一因となる場合。癲癇、乱暴、衝動性と関連が深い。

6. 過活動性
何らかの身体的素因にもとづくものと思われるが、生来、活発で、じっくりとした落着きを欠くもの。直観的に行動する。

7. 失感情傾向(アレキシシミア)
大脳の神経生理学的な障害にもとづく病態で、感情や身体感覚に気付いたり、それらを表現することが困難なもの。心身症の発生と関連する。

 実際に悲劇的な人生脚本ができるプロセスを考えてみよう。同じメッセージでも、
例えば元来感受性の豊かな子供の心には、人一倍つよく響くものと思われる。
親が厳しい道徳教育を施して、罪悪感を刺激するようなしつけを行なうと、この種の素質をもった子供は、
「自分をいじめよう」とか、「人生を楽しんではいけない」といった過剰な受けとめ方をする場合が考えられる。
結果自己懲罰的な人生脚本の形成が始まることになる。また、息子がカンシャクを起こすたびに、
父親がやさしくたしなめて「怒らないでイイ子になりなさい」と言ったつもりでも、
子供の方は「感情を表わしてはいけない」といったメッセージとして、それを心に刻み、
将来きわめて消極的な人生を送ったり、心身相関の病気をくり返したりする、
といった非生産的な人生脚本へと発展するかもしれない。

禁止令(injunctions)
 破壊的人生脚本の源をたどってゆくと、二つの特徴的な要素が見えてくる。
一つは、気質などの素因の中にある。もう一つは、子供が両親などから繰り返される破壊的な「禁止令」の中にある。
 禁止令とは、子供が幼い頃から親との間で体験してきた苦痛な体験や、親の病的な養育態度などを、
子供の側からとらえ、それを言葉で明確に言い直したものである。たとえば、乳児が、
未熟な女性のもとで望まれぬ子として生まれ、ついにコインロッカーに入れられたとする。

この子は幸いに餓死直前に救出されたとしても、体全体で強力なメッセージを親から与えられたことになる。
この場合、親は言語で表現することはなくても、それ以上に強力な行為を通して、
「生きていてはいけない」という内容のメッセージ(禁止令)を子供に伝えたものと考えられる。
あるいは、年中、親から「泣くな」とか「さわぐな」とか、咎められて育つ子は、
おそらく「自然な感情を表わしてはいけない」といった類の、不合理な至上命令を親から受けることになる。
この禁止令は、親の非理性的なCから発せられるものだ。禁止令の代表的なものは次の様に考えられる。

1・存在するな。
幼い頃に虐待を受けたり、「お前さえいなければ、私は離婚していたのに」などと
親の不幸の原因にされたりした子どもは、この禁止令をつくってしまう。
自分は生きていてはいけないという思い込みから、自分の体や命を大事にできなくなる。

2・女(男)であってはいけない。
「本当は、女の子が欲しかった」と言われて育った男の子や、母親が「女は損よね」と
よく言われていた女の子など、自分の性別やアイデンティティを否定された経験がある人が持ちやすい禁止令だ。
自分の性や自分自身に自信が持てなくなる。異性の友だちばかりで同性の友だちが少ない人や、
部活やサークルなどで同性だけの集団にいるのが苦手だった人は、この禁止令の影響を受けている可能性が高い。
また、自分に自信がないので、まわりの評価や常識、世間体に左右されやすい。

3・子供であるな。
「あなたはお姉ちゃんなんだから、しっかりしなさい」「もうお兄ちゃんなんだから、泣かないの!」などと言い聞かされた、
下に弟や妹がいる人がつくりやすい禁止令。いわゆる「堅物」になりやすい傾向があり、
「自分がやらねば!」という責任感が強い余り、それが足かせになる。

4・成長するな。
「子供であるな」と逆に、「全部お母さんがやってあげるわよ」と過保護に育てられたり、
末っ子で甘やかされて育ったりした人が持ちやすい禁止令。
「子どものままでいるために、何もできないほうがいい」と考えるようになる。

5・成功するな。
うまくいったときには褒めてもらえない一方で、失敗したときは慰められたり、励まされたりする。
そんな経験を繰り返すと生まれ易いのが「成功するな」の禁止令。
親が成功に関心を示さず、失敗したときだけ手をかけると、子どもは勝手に「成功してはいけない」というように思い込む。

6・重要であるな。
テストでいい点をとった時や先生に褒められた時、子どもは親に喜んで報告するだろう。
そんな時に「ふうん」と親の反応が薄いと、子どもは認めてもらえないことにショックを受ける。
度重なると、「自分は重要であってはいけないんだ」とこの禁止令が発動される。
常に目立たないよう心がけ、責任を負うのを嫌う。

7・みんなの仲間入りをしてはいけない。
「あの子と口をきいてはいけません」と親が友達を選んだり、「この子は恥ずかしがり屋だから」と親が
子どもの心を代弁してしまったりする例はあるだろう。
そうなると、知らず知らずのうちに、子どもは同世代の子の中で、もまれる機会が少なくなる。
この禁止令を持つ人は、職場やグループに溶け込めず、一人で行動することが多くなる。

8・近づくな。
「忙しいから後にして」「静かにしてちょうだい」など、親に距離を置かれたり、
あまりふれあう機会がなかったりする人が持ちがちな禁止令。
大人になってもプライベートや本心を周囲に打ち明けられないタイプになる。

9・健康であるな。
病気のときだけお菓子やジュースを好きなだけ食べさせてもらえた人や、
親が体の弱い兄弟姉妹の面倒ばかり見ていた人に多い禁止令。
病気や怪我で同情を引こうとしたり、突飛な行動やおかしな発言で周りの注目を集めようとしたりする。

10・考えるな。
「親に口答えするな!」「黙って言うことを聞いていればいいんだ!」と子どもを一喝する威圧的な親は少なくない。
始終ヒステリックに怒鳴りちらす親のもとで育つと、この禁止令は生まれやすい。自分で考えるのを放棄してしまう。

11・感じるな。
転んで、痛くて泣いているのに親に無視されたり、「我慢しなさい!」と抑え込まれ、
素直に欲求や感情を出せなかったりした人が持ちやすい禁止令。
自分の感情を抑えこむのが癖になり、物事に無関心・無感動になってしまう。

12・(なにかを)するな。
親のしつけが厳しかったり、過保護で些細なことまで注意したりするような家庭で発生しやすい禁止令。
「木登りなんて危ないこと、やめなさい」「あの子と遊んではいけません」「怪我するからサッカーはやめなさい」など、
行動を規制されるたびに、「自分は何もしないほうがいいんだ」という禁止令をつくってしまう。
大人になっても積極性に欠け、人の意見に従ってばかりになる傾向が強い。

13・自分のことで欲しがるな
片親の家庭や、幼い頃に病気や怪我で親に経済的な負担をかけてしまったなど、
自分のために苦労や我慢をし続けている親を見ていた人が持ちやすい禁止令。
自分の欲求を素直に言えないだけでなく、幸運を人に譲り、幸せを自ら壊すような行動をとってしまう。
加えて、エピスクリプトというものがあります。
人生脚本のメッセージの中で特に有害なものです。
禁止令を伝え、更に、「あなたにこれが起こればいいのに。そうすれば私に起こらなくてすむ」という付け加えです。

 演出を仕事として選んだ私達には、このような心の傾向をもった人は少ないかもしれない。
しかし、創造を志す私達や俳優の中には、破滅的な人生脚本から自ら抜け出す為に、
無意識に、無自覚に、変身(自分を書き換える・自分を変える)を期待して、演劇の世界に飛び込んできた人も居るかもしれない。
 芸術創造に必要な資質は、鋭敏な感性と勇気だ。私達は私達自身も含めて、傷つき折れ易い創造者の心を、
素直にたくましくなるよう、慈しみ守り育てなければならない。
ヴァフタンゴフは言っている。
『私達が学ぶあらゆるシステムの目的は、俳優が自力で完全な自由へ到達することです。
俳優がこのコンディションから外れないように注意するには、非常な大胆さが必要です。
必要なものを全てを創る「芸術的本性」というものの支配下に身を置かなければなりません。
演出も俳優も「決して分かりきった事」に身を縛り付けてはならないのです。
演出は常に俳優の中の大胆さを伸ばすことが大事なのです。』


TAとは、その5
隠居部屋あれこれ
演劇ラボ