【初歩のTA】

TAとはなにか その3

2018年12月25日
参考書籍 『セルフコントロールの医学』 池見酉次郎 日本放送出版社
参考書籍 『続セルフコントロールの医学』 池見酉次郎・杉田峰康・新里里春 創元新書

【初歩のTA】

《性格・心理状態・状況からみた分類》
性格・心理状態・場の状況などとの関連によって、交流は変貌します。

交流は基本的に、
(1)相互の信頼に基づいて営まれる、心身ともに深くふれ合う「相互的交流」
(2)真実のように見せかけながら、実は多少の演出を行なう「ドラマ的交流」
の二つに区別することができると言われます。
私達の芝居の演技には、あたかも(1)で有るように、観客に見せる、感じてもらえるように
表現することもあれば、
明らかに、(2)のように真実らしくあって実は嘘である事が解る、表現が必要なときも有ります。
交流分析では、『相互的交流・真実の交流は、日常生活では、現実問題として不可能に近いといえます。』
と云われていますが、芝居に真実の交流を感じるときがあるのは、
人が真実の交流を希求しているからかもしれません。

A.相互的あるいは真実の交流とは:
相手との間で、信頼と愛情に基づいて、ありのままの自己表出によって行なわれる交流です。
自我構造の面からいえば、P、A、Cの背後にあって、それらを観察し、
統合する「本来の自分」(セルフ、S)をふまえた人格的なふれ合いです。
そこでは、個人の性格形成過程での問題、文化的背景や人種の違い、さらには、思想や宗教を超えた、
人間同志としての交流にまで深まることが望まれる。
究極的には、人はみな「死にゆく存在」であり、「支え合って生きる存在」という自覚をふまえて、
人間実存に則した交流。

B.ドラマ的交流とは:
相互的交流・真実の交流は、日常生活では、現実問題として不可能に近いといえます。
人はみな、多かれ少なかれ、本当の自分の考えや感情とは食い違ったアクション・リアクションを
『やり取りする』ことによって、人間社会での適応をはかっているものです。
このような交流をドラマ的交流と呼び、『意識的または深層意識的に、自分の本当の考えや感情を、
多少とも自他に対して偽った行動を、習慣的ないし強迫的に反復するもの』と考えられています。
普段、営む交流のほとんどが、ドラマ的交流に属するといっても過言ではないでしょう。
また、このような複雑で微妙なドラマ的交流について、十分な知識と理解を私達が持たないところから、
様々なトラブルやストレスを招く場合が多いのです。

ドラマ的交流では、まさに戯曲のようにハッピーな展開・悲劇的な展開・ミステリアスな展開があります。
『事実は小説より奇なり』と云われる通りです。
その中でも、『こじれる人間関係の悪循環』を、交流分析ではゲームと名付けます。
好計、謀略といったものから、皮肉、風刺、ある種の社交辞令、性格的な歪みにもとづく
「意識的または深層意識的」なこじれる交流などを雑然と含みます。
一方これらは、精神分析でいう防衛機制との関係が深いものと考えられています。
また人生をドラマとして捉え直したとき、人生は広義のゲームそのものであり、
そこに交流分析のより深い意味があると考え、交流の内容を、社交的、教育的、医学的など、
それぞれの立場に応じて使い分けること。同時にそれらの相互関係を整理、統合することが試みられました。

その結果、ドラマ的交流は次のように再分類されました。
ドラマ的交流
1、共感的交流 
・相手に対する思いやりに基づくP主導の交流。

2、相補的交流
・意識的な努力または演技を行う事によって、交流を保つもの。
 特色1.お互いのやり取りの奥に、表面化してはならないホンネが隠されている。

 特色2.表面では多分にP的、C的な形の演技が行われているが、
背後でそれを仕切っているのは意識的なAである。

 特色3.お互いにこの固定化したパターンから逸脱しないように配慮している。
予想していた反応や期待していた返事が返ってくるので、
スムーズで協調的かつ共感的な人間関係が作られやすくなるという好ましい結果が得られやすい。

事例:日常的な挨拶・職場の上下関係・契約(ギブ&テイク)
事例:暗黙の了解
親:「部屋は片付いてるの?」(PからCへの交流)
子:「分かってる。やっとくよ!」(CからPへの交流)

事例:情報の提供
A:「この問題を解くにはどうすればいいんですか?」
B:「その問題なら、この公式にデータを当てはめると答えが出てくるよ」

3、風刺的交流(satirical transaction)
・真の気持ちや願望を直接表現しないで、遠回しに相手に伝えようとするもの。
裏面では主導権をAが握っている。

 事例:間接的な不満の表現
 事例:風刺的交流の値引き(ディスカウント)
・相手、あるいは相手の問題の存在を無視する。
・相手、あるいは相手の問題の重要性を値引く(より低く評価し、 表明する)。
・問題解決の可能性を否定する。
・自分側の関心や問題解決能力を婉曲に否定する。

仮面型の風刺的交流
・不信感を遠回しに伝える。
・不自然なお世辞や賛辞。
・からかい、冗談。(婉曲な敵意や嫌悪)

 事例:婉曲なアドバイス。

4、功利的交流
・外面をいかに取り繕うとも、あくまでも自分の利益を得る為になされ、
時には相手から強引に奪う事も辞さない、自己中心的な交流。

 事例:セールス型…A主導型の交流であり、結果には双方に責任があると見なされる。
 特色:相手を操り、こちらの術中に嵌めるため、自分の欲求や動機を意識的に隠して、
表面的には相手が自分の意志で選んだ形に持ってゆく所。

 事例:奸計(謀略)型…相手を陥れようという、明らかな意図を持って行われる企み。
AまたはC主導型の交流。

・奸計(謀略)型交流となりうる交流パターン。
1.:ヒステリー糾弾
「あげ足とり」、「あら探し」、「因縁つけ」、「言いがかり」、旧悪の告発など。
日頃から、目を皿のようにして相手の過ちを探し求め、それが見つかるや、
内心では小踊りせんばかりに喜び、それを利用して相手を痛めつけるものである。

2.:責任転嫁
「ごね得」。自分が損をしたのを、すべて相手のせいにし、
機会あるごとに損をとりもどしてやろうと企てる。
自分を被害者だと主張し、不当な補償金をかち得ようとする、など。

3.:はい、しかし(でも)
肯定してから否定する、「あまのじゃく」ともみえる自己顕示系。
何でも反対主義。わざと他人の言うことに逆らって、我意をたて通す。
争うために争い、否定するために否定するといった、悪意にもとづく交流。

4.:思い込み
簡単な暗示や相手の恐怖心をあおって、自分の利益を増そうとする手段。
ある種の宗教が「たたり」や「災難」を楯に、教勢の拡大をはかるなど。
そこには、しばしば、因縁だからこわいというようなことが、一種のおどし文句として使われている。
洗脳にもちかい。

5.:決裂
計画的に、会談や交渉を「物別れ」させ、相手を非難したり、我意を通す口実とする。
多くの戦争、あるいは騒動などに、この種の陰謀が隠されていた、といえよう。

6.:ラポ
(異性による誘惑)「美人局(つつもたせ)」。「色仕掛け」。
何らかの目的を果すために、相手の色情を利用して、だますもの。

7.:追い詰め
「つるし上げ」、「つめ腹」。相手が失言や過ちをするように巧みに操作し、
何かしっぽをつかむや、徹底的に問いつめ、責めあげる。あるいは、義理の「袋小路」に追いこんで自滅させる。など。

8.:世話焼き
「恩着せ」、「貸しづくり」。見せかけの援力をほどこしておいて、
後から巧妙に恩返しを迫り、相手の行動を支配、束縛する。
 
9.:仲間割れ
「漁夫の利」。「分断工作」。巧みに相手をけしかけて、
双方に争いを起こし、その隙につけこんで利益を横取りする。

10.:法廷
「虎の威をかる狐」。争いの解決にあたって、当事者双方の間に権力者、
暴力団などを介入させ、その威光をかりて、自分に有利にことを運ぼうとする。
相手の弱みにつけこんで、「○長を呼べ」と一足飛びに、責任者を持ち出して圧力をかける方法、など。

5、防衛的交流
防衛機制
人間は、幼時から思春期にかけて、外界に適応して自分を守り生かしてゆくために、
心の仕組みが発達してくる。精神分析では、それらを「防衛機制」と呼ぶ。
防衛機制は、不適応による心の破綻から自分を守り、心身のバランスを保とうとする働きであり、
その大きな特色は、無意識のうちに働くことである。
防衛機制は交流分析では、P、A、Cの記号を用いて、それらの内容を図式化することができる、
という特長がある。以下、交流分析的に防衛機制のそれぞれを説明しましょう。

・抑圧
性格の安定をおびやかし、破局を招く恐れのある、危険な本能的欲求や、過去のいやな記憶など(C)が、
意識に上がらないように抑えこんでしまうこと。
これによって、自分の中で処理できない衝動を、不安や罪悪感を起こさないように、意識の外に追い出すことができる。
抑圧は、大部分の他の防衛機制の基礎をなすもので、これが過度に、あるいは、不完全な、形で行なわれるとき、
不安や緊張をもたらし、ノイローゼや心身症を形成するうえで、重要な働きをする。
抑圧は特に性的な、あるいは敵対的な願望や記憶、またそれらに関連する感情を、
自動的に意識の領域から排除し、無意識のうちにとどめておこうとするものです。
抑圧の規制の代表的なものとして、「転換性障害」が著名です。抑圧された情動や葛藤が、
身体症状に置き換えられて生じる現象です。

注:転換性障害(心の問題が身体の故障に転換されて顕現する)
子どもの場合、身体的にも精神的にも未熟なため、心理社会的なストレスを自覚できず、
しかも言葉で表現しにくく、行動や身体症状になって現れやすいのです。
一般には年齢が高くなるにつれて患者数は増え、男性よりも女性の患者さんのほうが多く2倍にも上るといわれています。
診断は身体的な疾患が認められないことが条件です。その上で、あたかも身体疾患を持っているような症状が認められます。
たとえば、何らかのストレスや心理的な要因が引き金となって、運動機能や感覚機能が損なわれています。
具体的には、運動麻痺、部分的脱力(力が抜けて歩けない・手が挙がらないなど)、物が飲み込めない、
声が出ないや、触覚・痛覚の消失や聴覚障害、視力障害などです。また、子どもに多いのは発作やけいれんなどがあります。

・反動形成
ある欲求や態度(C)がそのまま表情や行動に現れると、社会的・道徳的にあるいは自己保身の障碍となる為、
無意識にその欲求と全く反対の態度(P)をとったり、行動したりする事。
一般に「○○すぎる」という性格的傾向「親切すぎる。丁寧すぎる。几帳面すぎる。
潔癖すぎる。」などには、此の機制が働いている事が少なくない。

・投射
自分のものとは認めがたい欲望や態度(C)を、他人に投射して
相手がそのような欲望や態度をとっているとみなすこと。
此の防衛機制が極端な性格の反応として固定化すると、
被害妄想等ある種の精神疾患に重要な役割を果たすようになる。

・否定、否認
或る事実や出来事、願望、行為などを、自分が認めると不安が高まる場合、
それを空想や別の行動に置き換えて、精神的に否認しようとする事。否定は無意識のうちに作用する。

・取り入れ、または同一化
自分が尊敬する人等、優れた人と自分と同一視し、その考え方や行動をまね、
他者の諸特性を自己のものとし,それに従って変容する心理的過程をいう。
特色としては、自分と他者を混同する傾向が強い。

・合理化
何かと理由をつけて、自分自身の正当性を確保したり、ほかのものに責任転嫁をしたりすることです。
自分自身が受け入れたくない現実(失敗や欠点)を、受け入れられる形に無理矢理変形しようとする。
自分でも認めたくない欲求や感情、行動(C)等を、もっともらしい理屈をつけて正当化する(A)の働きです。
単純な言い訳・哲学的な信条・論理的な正当な考え・あるいは誤っているものまで、様々なものがある。

・置き換え
或る一つの対象に向けられた感情や態度を、無意識に受け入れられ易い他の対象に移し替えることをいう。
たとえば、親に対する怒りを「抑圧」している場合、親と似た人に怒りを感じたりします。
上司に対する「怒り」を、部下や妻子に対して発散する、いわゆる「八つ当たり」も、「置き換え」の典型です。
その他、様々な恐怖症[高所恐怖症・閉所恐怖症・動物恐怖症etc]も、
自分にとって受け入れがたい親や兄弟姉妹などの対象に向けた、憎しみ・恐怖・性的欲求等の不安を
、一見それらの対象と無関係な動物や状況に置き換えることによって生じる可能性がある。

・取り消し(やり直し)
取り消しとは、不安や恥や罪悪感を感じさせるような欲求を抱いたり、行為を行ってしまった後、
それと反対の行為を行うことにより、それを打ち消し、なかったことにしようとする防衛機制です。
つぐないや、やり直しの心理と考えられます。
親が子供を叱って、怒りすぎた思った後にお菓子やおもちゃを与えてご機嫌を取るのも当てはまります。

・分離(感情分離)
ショックなこと、辛いことがあったときにそのまま感じるとあまりにも辛いので、
感情を感じないようにしてしまう状態のこと。例えば、 親しい人が亡くなってしまい、
その事実を受け入れることができず、涙が出てこない「分離」が起きている状態。
起きている出来事と感情が離れてしまっているということです。

・知性化
自分を直視することを避け、知性の世界や、観念的な世界に逃避してしまうことです。
専門用語を乱発したり、やたらに難しい言葉を使ったり、言い訳的な言説に終始したりします。
一見ものごとを理解しているように見えたりしますが、本質的なことは何も理解していません。
 難しい表現を使ったりすると、自分自身でも何かを理解したような気になりますし、
誇大感を膨らませることもできます。しかし、その背後にあるのは優越感を持ちたいという気持ちであり、
支配したいという願望です。これは見捨てられ不安から来る、無力感の裏返しだったりします。
観念の世界に逃げ込んでしまうと、自分の感情をありのままに直視することが難しくなります。
乱発する知的な言葉は、本質的な問題へのめくらましとして機能します。

・退行
過去への逃避であり、現在の問題を避けるために楽しかった過去に生きようとする。
赤ん坊や子供のように振舞って、依存的な態度を示すことがある。
一人っ子だった家庭に、次の子供が生まれるときに、上の子供が示す態度として有名。

・補償
自分で認めたくない弱点や劣等感、不安などを長期にわたる過度の努力によって補おうとする働き。
勉強ができないという劣等感を、スポーツをがんばって、他の人より優れることで補おうとするようなこと。
 かなり一般的なもので、うまくいった場合、その人にプラスになることが多いと考えられます。
しかし、あくまで劣等感を補償するための行為なので、挫折しやすいということもあります。
 また、「強い葛藤」があって、その不安や恐怖から逃れるための「補償」行為の場合、
どうしても強迫的になり、不自然なまでに熱中したり、ほかのことをまったく無視したりします。
そうなってしまった場合を、「過補償」または「過剰補償」といいます。

・感情の内向
外に向けてきた衝動(怒りや性的欲求、C)を、方向転換して自分に向けて開放する事によって、
心の安定を得ようとする働き。うつ病をはじめ、自殺、自己叱責、事故頻発傾向、
ある種の犯罪等には、他人に対する敵意や増悪の感情が内向して、劣等感、自己批判、自責などを生じて、
重要な役割を果たす場合がある。



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