演劇ラボ

【演出の仕事】

【舞台照明との仕事】

『舞台照明とは「光によって舞台に起こされた効果」である。』と遠山静雄先生。※1
見ると言うことの本質、みせる(見せる・魅せる)と言うことの効果を考えよう。
いま考えなければならないのは、舞台照明の活用と可能性である。

・照明効果の抜き出し(演出の附け帳)
台本の中にある、光についての記述をすべて抜き出してみる。
日光や室内の明かり、ロウソク、暖炉、カンテラ、月明かり、たき火(仕掛けもの)など、
例えば隣りの部屋からの明かりや電車の窓の明かりなど、単に舞台を明るくするだけではなく、
照明そのものが表現の一つとなっている場合もあるので、十分注意深く抜き出して、時系列に配置しなければならない。
しかし照明効果に凝り過ぎて、舞台上で役者が照明の谷間に入ることのないよう注意しておく事が肝要。
照明プラン上では十分な明かりでも、舞台で実際に当り合わせの結果、俳優の顔が暗いとか穴がある場合があるので、
プランナーともども心するように。

照明は観客に、役者や装置を見せるための明かりと、舞台上にあるものを見せないための明かりがあることだ。
イリュージョンとか手品などは、結局錯覚の世界だが、それは光の力、目の錯覚が多いことに注目しよう。

照明による明かりには、時代考証や登場人物に与えられた嗜好から来る制限が生まれる場合がある。
さらに役者をより美しく見せる明かり等もあることを知っておこう。

欧米人の多くは、日本人より光を感じる力が強くて、薄暗い世界でも十分な明かりと感じとれる。
これは日本人の中でも光を感じる受光能力に差があることを示唆している、
そのために舞台上の明かりをどの程度にするかは、十分な配慮が必要だ。

照明について
人が物の存在を認知する方法は幾とおりもある。匂い・音・触る。
しかし照明とは、光があって形や色が見え、それによって初めて物の存在を知らせる。
舞台では、モノは光によって初めて見ることができる。光によって存在することになる。
光がなければ、人は何も見えず、何も存在しない。
歌舞伎等の黒子は、ロウソクの明りの中で、影に隠れて舞台の仕切りを行った。
観客には見えにくく、そのまま黒子は現代でも見えないもの・そこに居ないものとなった。
(註:暗転のような状態の中で声または騒音、小さな雑音だけで芝居を進行させていくものもある。)
舞台に○○が見えると言うことは、私達が○○を観客に見せている、と言うことに他ならない。
注意するのは、○○が、光の当て方によって、それを見る人の位置(客席の場所)によって、
全く違ったもの、●●に見える可能性があるということ。
色も同じ。黄色い服や焦茶の革のソファーなどと簡単に言うけれど、実は総ての色が、
照らしている光の性質と物体の性質とによって決まるので、モノそれ自体に定まった色はない。
舞台上で美しく感じる色も、そうとは感じないのも、実は光の効果の結果である。

舞台照明とは、立体造型のセンスと時間による変化を組み合わせて、『場面』(瞬間)を鮮やかに創りだせる。
蛇足のようなものだが、舞台上の任意の点Aの人物を、上手の客には鬼のように、下手には仏のように、
「見せる・魅せる」ことも可能な筈(演出的に必要かどうかは別にして)。

照明の貴重なもう一つの作用、心理的な効果がある。
「ある特殊な心理」を、舞台と客席が共有したい時には、光を操作することによって可能になる。
色彩の心理効果は、多くのテキストが市販されているから、それらを勉強して頂きたい。
ここでは人間が驚く程単純に、色の影響を受けやすい生き物である認識と、
民俗的な伝統色と言うものが、心理的に大きな影響力を持つことを言っておく。

例えば、白色といっても、サウジアラビアなどの砂漠の民と、日本人のような島海の民と、
ロシアや中国の大陸の人々では、全く意味が違う。
貴い神聖な白というのは日本的だが、白い悪魔というのは私達にはピンとこない。

※1遠山静雄(1895年-1986年)
日本における舞台照明の創始者。広島県出身。大正時代から新劇、邦舞、洋舞の照明を手がけた。
1950年(昭和25)より30年間日本大学芸術学部講師を務める。
著書に『舞台照明五十年』『アドルフ・アピア』などがある。
私は、幼い頃より東横劇場の照明室から、遠山先生にステッキで追いかけられ、大学でも説教されていました。

照明の活用を、ストレートプレイの演出は月並みにしか考えない傾向がある。
役者がより豊かな表現を創造できる可能性の一手段として、真剣に捉えなければならない。
照明について、光によって見せたいモノがどう見えるか体験しよう。
座学だけではなく、劇場での体験も必要だ。具体的なプランが出来たら、専門パートと打合せ。
知らない事は知らないと教えてもらうように。
照明の座学での資料を参照して欲しい。

2021年の『楽屋』記録が残っていたので、添付する。
演出プランは下記の通り。出演した役者は、最低限の立ち位置は守るけれど、
演技の勢いで何処にいくかわからない。
おおよその可能性を想定して、どのアクティングエリアでも、
照明が役者を追いかけられるようプランした。地明りやタッチは、2003年と同じ。

地明り



フォロースポット



タッチスポット


・Qシート照明「楽屋 流れ去るものはやがてなつかしき」スタッフ用(舞台監督との打合わせ用)

Q1開演。客電OFF 幕が上がり舞台中央の大鏡タッチサスFI LホリブルーFI 大鏡イルミCI
Q3#01終りで 地明りFI 中央平台スポットFI 大鏡タッチサスCO
Q4#02「灯りをともしている」にかぶせて 下手登退場口スポットCI
Q6#13終り 女優C、下手へ退場して下手口スポットCO
       下手前のスポットFI(女優A・Bあて) 中央平台スポットFO
Q7#51女優B中央平台前へマクベス夫人の台詞にかぶせて 中央平台前スポットFI 台詞終りでCO
Q8#60女優A中央平台前へマクベス夫人の台詞にかぶせて 中央平台前スポットFI 台詞終りでCO
Q9#88始まりで 女優A 大鏡の前へ出て 中央平台スポットFI
Q12#107終りで 中央平台スポットFO
Q13#174にかぶせて 下手から女優D登場 下手口スポット CI
Q14女優D、上手奥の椅子にすわって 下手口スポットCO  上手奥スポットCI
Q15#200終りにかぶせて 中央平台スポットCI地明かりF・DW(50%)下手前のスポットCO
Q16#201終りに地明かりF・UP下手口スポットCI 中央平台スポットFO 上手奥スポットCI
Q17#202終りに 女優C、下手より登場 下手口スポットC・O 上手前スポットCI(女優Cあて)
Q19#329終り 女優D 下手へ向かって歩き出して 下手口のスポットCI
Q20#332終り 女優D 下手へ消えて 下手口のスポットCO
Q22女優C 大鏡の前中央平台に。中央平台スポットCI地明かりF・DW(50%)上手前スポットFO
Q23女優C #340終りで。地明かり F・UP、 下手口スポットCI
Q24女優D、枕を抱いて下手より登場。下手口のスポットCO
Q26女優C #345終りで。下手口スポット CI 
Q27女優C下手へ退場。下手口スポットCO中央平台スポットFO下手前スポットFI(女優A・Bあて)
Q29三人、大鏡の前に立つ大鏡タッチサスFI 中央平台スポットFI  LホリレッドFI
Q30音楽の雰囲気変わって 三人、いつのまにか寄り添って立つ。地明かりFO 
Q31#466途中から終りにかけて大鏡タッチサスと中央平台スポットFO 暗転LホリレッドFO
Q32暗転のなか、三人退場して 大鏡タッチFI  LホリブルーFI 
Q33音楽終り 大鏡タッチサスFO  LホリブルーFO
Q34拍手を聴いて カーテンコール 地明りCI
Q35役者引っ込んで 幕下りる 客電FI

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