話題を追う

なぜ二宮町民が「桜美園裁判」まで起こしたか


桜美園問題を考える会事務局長  国弘



 「桜美園」は、二宮町にある一般廃棄物処理施設(し尿処理、ごみ焼却炉、最終処分場)の総称です。平成14年5月、周辺住民は施設管理者である二宮町と不動産販売業者のS不動産ホームに対し桜美園の操業停止を目的に、生活被害・健康被害の損害賠償を求めて提訴、平成15年1月には二宮町への指導を怠ったとして神奈川県を提訴しました。今年の5月で提訴後2年が経ちますが未だに裁判は続行中です。ごく一般的な住民がなぜ不慣れな裁判を、大きな時間的、経済的、精神的、肉体的犠牲をはらってまで行政相手に起こさざるをえなかったのでしょうか。
 桜美園周辺のごみ公害問題は、平成4年頃から隣接して大規模な住宅地が開発、販売され始めたころから表面化しました。今日まで10年近くも自治会による町への改善要求や町を指導する立場の神奈川県、湘南地区行政センターに対して被害、不安の実態を訴え抜本的改善を要望してきています。
 桜美園は昭和51年にし尿焼却施設が、56年には焼却炉3基と最終処分場が稼動を始めました。当時はすでにごみ焼却による健康被害が問題になっており焼却炉、処分場ともに国の構造指針が定められていました。しかし桜美園にはストーカがなく燃焼効率の最悪な「固定床式バッチ炉」、更に「ごみピット」もなく高い煙突がないなど、ないない尽くしの劣悪焼却炉が完成、また有害物質滲出防止シートもなく覆土もされないというこれまたないない尽くしの信じられない灰の処分場が建設されました。その操業も適正な維持管理とはほど遠く杜撰極まりないものでした。し尿処理施設は設備の故障は放置、点検のルールもないというひどい状況でした。焼却炉建設に際し公害防止設備(脱煙装置)を設置するよう県から指示があったにもかかわらず、設置はしたが薬剤を使用した履歴はなく、全く作動させていなかったという驚くべき公害垂れ流しの事実も明らかになっています。
 隣接地は平成4年から大規模住宅地となり販売が開始されましたが、桜美園建設以前の昭和46年の都市計画ですでに宅地化が承認されており、くぼ地である隣接地が住宅地になることがわかっていながら公害防止の指針も満たさず杜撰な管理の公害発生施設を集中的に建設したことになります。当住宅地はD生命保険会社が筆頭地権者として区画整理組合を結成し、二宮町と協議をしながら開発を進めてきたものです。販売開始前年の平成3年には桜美園に新設炉一基と新たな最終処分場建設のためのアセスが町により実施されました。新住民の居住が一年後には確実であるにもかかわらず、居住民がいないとして「周辺住民の同意」は区画整理組合理事長名により作成され、平成6年に整備計画書に添付され県に提出、承認されました。そのアセスでは、煙突の高さは90m(実際は20mで完成!)と設定され、また悪臭がないと証明するための同規模対象施設としては「敷地が桜美園の4倍、煙突50mでデロール式機械化バッチ炉(実際は固定床式!)の新潟県の焼却炉」を挙げています。アセスの前提が実際に計画されている内容とはとんでもなくかけはなれたものであったわけです。どう考えても周到に仕組まれたといわざるを得ないこんないい加減なアセスを本当のアセスと言えるのでしょうか。趣旨に反しています。
 住宅販売はD生命保険会社の系列であるS住宅販売会社が行ない、重要事項説明どころかPR用の周辺地図上では桜美園の存在を明記せず販売を続けました。平成5年ごろから入居がはじまりましたが、煙突がなく燃焼の悪い焼却炉からはブスブスと黒煙が立ち上り、昼過ぎにごみ投入が終了し重油の供給がなくなると、し尿焼却の排煙を含む不完全燃焼の青い煙が住宅地を包み、風のない日は住宅地が青いフィルターをかけたようにみえるような毎日が続きました。しかし町は平成9年にはダイオキシン規制の廃掃法改正が実施されるにもかかわらずふたたび完全燃焼不可能の「固定床式焼却炉」一基の新設と、旧処分場の上に重ねて新処分場を建設する準備を着々と進めていきました。処分場用地はD生命が寄贈したもので、住宅地と施設の間をさえぎっていた山林を伐採して建設されたため、住宅地に流れ込む有害な煙のトンネルが出来たような状態となり住宅地の汚染がさらに深刻なものとなってしまいました。平成10年までには全焼却炉にバグフィルターという煤塵除去装置が設置されましたが、燃焼ガス量の変動が大きい固定床式バッチ炉にはその効果は疑問であり、高温燃焼で気化された重金属・ダイオキシンは捕捉できないなど、「取り付けただけ」としか思えないムダな結果となりました。
 洗濯物が臭い、窓が開けられない、家や車が異常に汚れる、化学物質過敏症になった、目がおかしい、体調不良がある、子供のアレルギーがひどくなったなど、「湘南の緑と風」のうたい文句に憧れて移り住んできた住民にとっては「どうして?なぜ?」という怒りは当然のことです。その怒りはこのような劣悪施設を建設したうえ、その存在を隠し、汚染実態を認めず、改善のための方策を明確にせず、住民との話し合いすら拒んできた行政に向けられるのは当然です。緑に囲まれた一見良好な環境でありながら、周辺住宅地のベランダや空気清浄機のフィルターにはいまなお真っ黒な煤塵が付着していることから、桜美園焼却施設との因果関係は明らかですが、町は決して桜美園から排出されたものとは認めようとしません。「法律はあってもザルである」とある県職員が発言したように抜け穴だらけの法律でありながら「指針・ガイドラインは守る必要はない。法律さえ遵守しておれば行政の義務は果たしている」と公言し、住民の苦悩や要望に正面から向き合おうとしない二宮町!ここまで問題点が明らかになりながら未だ抜本的改善に取り組もうとしない怠慢な行政(二宮町、神奈川県)を相手に、「快適に、安全に、健康に暮す」という住民の当然の権利を獲得するためには、不本意ながら裁判が住民に残された最後の手段だったのです。
 我が家の防災対策、環境問題のページ(二宮町・桜美園問題はこちらから)

戻る