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二宮町・桜美園 ごみ焼却炉周辺の健康被害


桜美園問題を考える会事務局長  国弘



 物は簡単に捨てないでいつまでも大切に使うのが当たり前だったのに、私達はいつのまにか飽食、使い捨てに何の疑問ももたない生活に慣れきってしまいました。高度経済成長期のめざましい石油化学工業の発達とプラスチック類の発明が生活に豊かさを与えた反面大きな変化による弊害をを与えてきたことは確かです。
 今「ごみゼロ社会」が標榜されながらも、私達のごみ箱はあふれ、毎日多くのごみが焼却炉へ持ち込まれています。「焼却すれば跡形もなく灰になる」とごみの行方に関心がもたれることはなく、ごみを燃やすことにより石油化学製品(プラスチックなど)から新たな有害化学物質が作りだされていることにも気づいていません。しかし焼却炉は、変化する温度帯のなかでさまざまなごみが化学反応を起こし続けているという「化学物質合成プラント」なのです。そして残った灰、煙突から排出される見えないガスのなかにもダイオキシンを含む多くの有害化学物質が存在しているのです。また製品の着色顔料、添加剤、安定剤として重金属類が広く使われているため、焼却炉からは有害な重金属も排出されています。とくに最近の焼却炉は高温で燃焼されるため重金属類は気化して煙突から大気を汚染しています。しかしどのような状況でどのような有害物質が排出されるかは因果関係もふくめ本格的な研究がなされず不明なため、日本では焼却することの危険性がとりあげられることがなく、それがますますごみへの無関心をうみ、「ごみゼロ社会」への道のりを遠いものにしていると思われます。
 焼却炉から排出される有害物質には煤塵、塩化水素、一酸化炭素、硫黄酸化物、窒素酸化物、ダイオキシン、重金属の水銀、鉛、カドミウム、砒素などがあり、煤塵は喘息、有害重金属はかつての数々の公害病との因果関係が明らかになっています。
 しかし焼却炉周辺では多くの有害物質による複合汚染となっておりそれによる身体的症状はさまざまであり、一般的には粘膜刺激症状である目や喉の不快感が多いようです。たとえば、目がしょぼしょぼする、目がかすむ、目が痛い、目がかゆい、喉がいがらっぽい、咳がでる、鼻水がでる、皮膚がかゆいなどがごくあたり前に起きる症状です。また頭痛、耳鳴り、めまいなど自律神経、中枢神経の異常によると思われる症状も多くみられます。よくある症状のため風邪気味だから、年をとったから、ちょっと具合が悪いだけなどと焼却炉との関係を疑うことさえしない方もたくさんおられます。
 二宮町の桜美園ごみ焼却施設周辺では、異常に低い煙突から盆地状の住宅地に排煙が流れこむために隣接する緑が丘住宅地の住民には体調不良を訴える方が多く、それは居住年数に比例して重篤度も増しています。一般的な不快症状に加え、がん、喘息は長く住んでいる住民ほど多く、古くから屋外で飼われていた犬たちはその多くが早死にしています。
 有害物質が体内細胞の老化を促進し、免疫機能の活性化を阻害し、さまざまな病気を起こさせるのだと思います。
 このように焼却炉が原因で多発していると思われる異常現象があっても、それは個々の体質に起因しているのではないかという反論により、焼却炉との因果関係を100%明らかにすることは現実には極めて困難です。そこで、発生源による健康被害を証明するには、その地域の住民が他の地域と比べてどのような特異性があるかを調べる「疫学的手法による調査」が有効といわれています。これは先述のごく当たり前の症状を医師によってプライバシーを守りながら医学的知見に基づき見極め、集計して原因、発生条件等を統計的に明らかにするものです。本来行なうべき二宮町が疫学調査を拒否しているため、桜美園周辺住宅地では地域自治会により実施することが決定しています。
 また最近は「化学物質過敏症」と言う病名もよく耳にします。東京都杉並区の不燃物中継圧縮施設周辺での体調不良が問題になり「杉並病」と呼ばれるようになりました。ごみは燃やすだけでなく圧縮するだけでも有害物質が発生するのです。「化学物質過敏症」は最後は脳の神経をおかす大変恐ろしいものなのです。
 しかしそのメカニズムがはっきりしないためか、あちこちに建設予定のプラスチックリサイクル施設建設計画に際しては国でも化学物質による被害発生の想定がなされていないようです。
 二宮町では桜美園ごみ処理施設周辺の将来構想マスタープランが公表され、桜美園は住宅地に余りに近く地形的にも汚染物質が滞留し健康被害が避けられないにもかかわらず、汚泥再生メタン発酵施設、プラスチックリサイクル施設、ごみ積み替え施設などさまざまな新施設建設計画が明らかになっており、周辺住民への杉並病を含む健康被害の懸念があります。
 しかし二宮町長が清掃施設管理相談員として委嘱している(社)全国都市清掃会議(全都清)の技術課長であるA氏は、ダイオキシンについては「分析学者は有毒説を唱えるが、臨床学者は直接被害がないと言っている。火山が噴火して地上に堆積しているが、自然界では何ら被害はない」とか、「杉並病は何でもいっしょくたに圧縮したのが原因であり、分別リサイクル施設や圧縮施設では個別に圧縮すれば問題ない。全国でも有害物発生はない」と言っています(相談票より)。が本当に信じていいのでしょうか?測定不可能な程度の超微量で人体に影響を及ぼす化学物質なのです。ごみ処理施設周辺での疫学調査は行政の手で行なわれているのでしょうか?「被害の想定をしていない」と「被害がない」とでは大きな違いがあります。住民参加による実態調査を行なうことをせずに、全都清派遣の相談員のあいまいな指導に基づき、住民の健康に大きな影響を与える二宮町のごみ処理計画が進められていくことに大きな不安を感じています。
 安全性の確認ができないままに予防策をたてることもできず、捨て続けられるごみをリサイクルの名のもとに圧縮・焼却していく現在の日本のごみ処理政策が、知らず知らずのうちに日本人の精神と身体をむしばんでいっているような気がしてなりません。「住民の健康と安全を守る」という行政の果たすべき役割はいったいどこへいってしまったのでしょうか。
                                         我が家の防災対策、環境問題のページ(二宮町・桜美園問題はこちらから)

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