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二宮町で使われているバッチ炉の危険性


桜美園問題を考える会事務局長  国弘



 平成9年、国は他の先進諸国に10年近くも遅れて猛毒ダイオキシンの削減と発生抑制に着手、ガイドラインを作成して、「ごみ焼却施設は連続燃焼可能な構造に施設を整備し、適正な運転管理を行なうよう」各県に通達を出しました。
 ダイオキシンはそのほとんどがごみ焼却から発生すると言われています。特に300度前後の低温でごみ焼却をするとダイオキシンが大量に発生します。それを防ぐには低温域を通らないようにごみを24時間連続して800度以上の高温燃焼をさせるのが有効です。その連続燃焼と相対するのが「バッチ式焼却炉」(以下バッチ炉)による燃焼です。バッチ炉は朝方炉に点火し、ごみ焼却が終了する夕方に炉の火を消すという1日8時間程度の焼却を毎日繰り返すものです。このように炉を立ち上げて温度を上昇させ、立ち下げて温度を低下させるという方法では一日2回必ず危険な300度の温度帯を通過しダイオキシンを大量に発生させます。そのためこのようなバッチ方式をやめ、連続運転が可能な構造にし連続式の運転管理をするように通達に指示されています。

 バッチ炉には「機械化バッチ炉」と「固定化バッチ炉」の2種類があり、その構造と特徴は大きく異なります。旧厚生省から出されたごみ焼却施設の構造指針では、「機械化バッチ炉は火格子を動力により運転させ、火床の攪拌、焼却灰の搬出等を機械化したものをいい、これ以外のものを固定化バッチ炉という」とあります。機械化バッチ炉は燃焼効率を上げるため、ストーカという金属の格子が動力で作動し、ごみが格子上を燃焼しながら転がるうちに焼却済みの灰が格子下に落ちる仕組みになっています。連続的にごみを投入できれば機械化バッチ炉は連続運転ができるように改造できるのです。「廃棄物の焼却技術」(オーム社)にも「最近では機械化バッチ炉は連続炉と同程度の施設にされる場合が多い」と記されています。

 二宮町にある桜美園焼却炉(以下桜美園)は昭和56年に1〜3号炉、平成8年に4号炉が新設され稼動を始めましたが、すべて「機械化バッチ炉」と称して設置届が提出されています。しかしこれは全くの虚偽届けでした。完成した焼却炉は、構造指針にあるような動力運転の火格子もなければ、機械によるごみ攪拌・灰搬出も出来ない、つまり炉床に何の設備もつくられていないコンクリート床だけの「固定化バッチ炉」だったのです。機械化バッチ炉を建設するといいながら、実際出来あがったのは時代遅れの価格も安い固定化バッチ炉だったということです。補助金不正使用とも言えるこの事実がまさに今日の「桜美園問題」を生んでいます。更にこの炉は立ち上げ・立ち下げによる害よりもっと大きな問題を含んでいます。それは焼却灰を翌朝にならないと炉外に排出できないため夜間ずっと「埋火という低温蒸しだき状態」が続けられ、ダイオキシンが大量に発生することです(写真参照)。この埋火は平成14年規制で禁止されたため、二宮町は急遽平成13年に1億円の費用をかけて炉の出口に形ばかりの自動灰出し設備を設置しました。現在では深夜までには焼却灰を何とか炉外に排出しているようですが無理な小手先改造がたたり改造後2ヶ月も経たない昨年5月には同装置付近から火災事故をおこしました。また灰を押し出す棒が炉の高温でそっくり返り、とり出せなくなった有害物質を含む焼却灰が床に10センチ以上もじゅうたんのように堆積しているのを最近の見学時に発見しています(写真参照)。

 国の通達により多くの自治体は可能な限り連続運転をめざして努力しているようです。二宮町と同規模の施設では24時間運転をすると炉に投入するゴミが不足してしまうためピットにごみを一時貯留し1週間のうち半分だけ炉を稼動させるなど工夫をして国の指示どおりに連続運転をしています。しかし二宮町では「連続運転をすることはガイドラインであって法律ではないから守らなくて良い」という考え方で連続運転にする気はありません。(もっとも今の炉の構造ではそれは不可能なことですが)。行政が堂々と「法律さえ守っていれば指針やガイドラインは守らなくてよい」というあきれた発言をしているのです。本来ガイドラインに基づいて法改正が行なわれたにもかかわらず、このような発言が二宮町議会でも当たり前のように通用してしまうのですから驚きです。 

 もとより指針やガイドラインをきちんと守っていれば、今どきこのような骨董品のような施設が新設されたり更新されたりすることはありえなかったわけです。焼却施設が住宅地にどんなに近くても、炉の構造がいかに旧式でも、煙突が低過ぎて拡散の役目を果たさなくても、また化学物質・重金属類の健康被害がさけばれていても、専門家に依頼した住民による汚染調査で深刻な汚染が明らかになっても、更には住民アンケートで95%の住民が不安を感じていても「法律で規制されていないから問題ない」と切り捨ててしまう二宮町行政なのです。ごみ焼却施設が公害発生施設として大気汚染防止法による規制があることを桜美園勤務5年にもなる施設責任者が知らなかったことからも、これまで町が焼却施設の安全性や住民の健康を真剣に考えてきたのかどうかがよくわかります。現在桜美園周辺の住民がうけている生活被害・健康被害は、二宮町および国の通達をうけて国に代わって指導をするべき神奈川県が町民、県民の健康と命の安全にいかに無神経であったかをあらわしています。

 行政は住民の健康と安全なくらしを守ってくれるものと思っておりました。しかし二宮町では今その期待は大きく裏切られています。残念ながら私達は自分の手で自分と家族を守らなくてはなりません。もっともっと危機意識をもって臨まなければ私達の身のまわりの環境は今急速に悪化しつつあります。二宮町では昨年の町長選挙直前に現町長が「同一地域に長期に不安を与えない」と桜美園の焼却廃止を公式に表明したにもかかわらず、町が昨年度委託した「桜美園将来構想マスタープラン」では、「現在より1.5倍に拡張される敷地内に焼却炉をも含む新たな施設建設10プラン」の計画が公表されています。そのなかには杉並病の発生原因とされるごみ圧縮施設も含まれています。ここまで桜美園が問題視されていても、相変わらず行政の目線は住民の方を向いてはいません。周辺住民は桜美園によってもたらされる危険性をもっと真剣に考え、今以上の被害を出さないように一丸となって発言、行動していかなくてはなりません。桜美園問題は行政への「お願い」では解決されるはずはなく、行政への「戦い」の気持ちで臨まなければ解決することは難しいとつくづく実感しています。
                          我が家の防災対策、環境問題のページ(二宮町・桜美園問題はこちらから)

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