藤沢市

またも税金のムダ遣い!?
(仮称)藤沢市有機質資源再生センター建設計画は 本当に酪農家のためのものだろうか?
たった14戸(64戸のうち)13億円!


藤沢の環境を考える会「響・響」  代表:鹿島




はじめに

 牛や豚の飼育は、糞の始末が大変だ。昔のような牧場や牧草地があった頃なら自然循環できたが、現在のような都市近郊での酪農は、下水処理施設をきちんと整備しないと、迷惑施設となってしまう。そこで(今頃になって急に)農水省は、流行のバイオ利用の組み合わせを推奨しながら、家畜糞尿処理を義務づけた。2004年10月31日以降実施される「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」がそれだ。この法律は1999年11月1日に施行され、2004年10月31日(猶予期間5年)までに、畜産農家は家畜排せつ物の適正処理を行える施設を整備することを義務付けるというものである。この事態に、藤沢市は県、国の進めもあって自ら乗り出して、家畜ふん処理施設(仮称)藤沢市有機質資源再生センターの建設計画をたてた。 
 最初の候補地となった藤沢市宮原の百国は、藤沢市の西北部に位置し、その名の通り、昔は百国の米を収穫できたという水田地帯だった。 この宮原を含め、用田、葛原、打戻、菖蒲沢、獺郷の六地区を総称して御所見というが、ここは畑も多く農業や植木業も盛んな緑豊かな地区である。

建設計画の背景

 藤沢市農業水産課では、「畜産農家のうち、養豚、採卵鶏農家については概ね施設が完備しているが、乳用牛、肉牛については45戸(平成13年調査)のうち、施設が完備している農家は3割にもみたない状況の中、酪農家から『金銭的にも場所の問題でも、個人ではこのような施設建設はできない。何とか考えて欲しい。』との要望があったので考えた。」としている。また、農林水産省が、家畜排せつ物等の有機質資源を適正に処理する施設の建設に対し、事業費の二分の一を補助する制度を設けている≫ということが大きな理由で、県と市でそれぞれ十分の一ずつ(PFI方式なので、後の十分の三は事業参加者)負担すれば、酪農家を救える事業になるという。しかし救えるのは、酪農家64戸のうち、この事業に条件付(注)で参加できる14戸の農家だけで、後の農家は規模縮小にしたり、廃業しなければならないことから、私達は、「本当に酪農家のための施設なんだろうか?」「14戸の酪農農家のために13億の税金!」と疑問を持たざるを得なかった。
  (注)条件とは
    @出資金が一戸300万円
    A今後15年以上酪農を続けること
    B家畜ふん運搬車を用意すること

施設の概要

 事業主体:藤沢市
 運営管理主体:PFI事業者
 敷地面積:約15000u
 建築面積:5000u
 施設規模:43トン/日
      家畜ふん 23トン/日
      樹木剪定枝 12トン/日
      生ごみ  8トン/日
 処理方法:メタン発酵併用堆肥化方式
 【注】後に、通常堆肥化施設に変更
 堆肥化製品量:約4350トン/年

経過

 上記施設概要をもって候補地宮原での住民説明会が行われたのは、2003年5月1日のことであった。(これ以前には、2月から自治会連合の長・副委員や御所見地区各種団体の三役、地元議員参加の話し合い、地主と近隣住人との話し合いなどがあった。)
 説明会で反対意見が出たことや地権者の同意を得られなかった事から、宮原自治会は7月23日、会長名で「同計画の撤回について」という請願書を、山本市長、藤沢市議会新政会、JAさがみ青木運営委員長宛に出した。
反対理由として
@ 計画を策定する上で市民・企業・行政の三位一体の取り組みが協働で行われていないため、現場の声が生かされていない。
A 藤沢市2020マスタープランに沿った計画内容になってない。
B ランニングコスト等投資効果の根拠が明確でない。
C 施設規模の算出根拠が明確でない。特に生ゴミ・植木剪定枝の総量受け入れが疑問。
D 排泄物処理法の執行期限だけを意識した取り組みであり、多方面からの検討が不十分。
                                         等々
 この結果、宮原百国を断念した藤沢市は、百国から目と鼻の先に位置する宮原矢田を次の候補地として、ここの地権者から同意書をもらうべく奔走し、8月25日には地権者対象に海老名市本郷で説明会を開いた。(藤沢市宮原矢田地区の地権者は海老名市本郷の住民がほとんどで藤沢市住民は少ない。ほかに茅ヶ崎市、綾瀬市)    そして、11月15日になって再度宮原地区で、候補地を変えてからの全体説明会を開催した。ここでは、質問・意見は一人一回と限定されたため、住民の十分な発言はできなかったが、それでも反対意見が多数出た(議事録、住民のテープ記録より)が、国・県には「住民合意はできている」と報告している。(=国・県との話し合いより)
 もっとも、2003年10月29日に藤沢市経済部長の名で神奈川県環境農政部長に宛てた「団体営畜産経営環境整備事業の予算化について」という要望書の中の<周辺住民自治会等との調整について>という項目で、「詳細計画を住民に説明すれば、必ず少数の反対者が出ると思われるが、市としては全員の理解を得ようとは思ってない。また、地域の連合自治会長からも『地権者の合意がとれ、隣地の同意も得られているなら、周辺地区の同意は不必要』とのアドバイスも受けている。」と明記しているくらいだから、推して知るべしである。
 ちなみに、この連合自治会長とは、宮原で住民の意見を集約して「同計画の撤回について」という請願書を出した人と同一人物である。

議会へ陳情・請願

 住民説明会や自治連からでは、住民の声が反映されないことから、2003年12月議会に、地元住民は「計画の見直し」を求める陳情を出し、民生常任委員会で議論されるものの、多数決の力関係で不了承となる。この時の市の説明では、
  施設規模:45t/日 (家畜ふん23t
           剪定枝14t
           食品残渣8t)
  計画処理量:16000t
  処理方法:通常堆肥化方式
とされていた。
 その後、住民はこの問題を広く市民に知ってもらい何が問題なのかを共有する目的もあって署名活動を開始した。そして、今年2月議会に8299名の署名を添えて「見直しを求める請願」をした。ここで紹介議員が次のような討論をしている。
【@ これまで、議会の中でも山形県長井市のレインボープランの事例など示し、計画を民主的に進めるよう提案してきた。市民や事業者や畜産農家、行政等が、同じテーブルについて話し合うことが重要なのに、行政の進め方は、庁内の中で検討委員会をつくり、ほぼ畜産関係者が核となり、一部の事業者のみと作り上げたものにしか見えない。本来なら平成11年から調査、話し合い、モデル試験、実証を経なければならなかった。これは、議会でも言ってきたが、やってない。行政側に「民主主導」「モデル的に実証」の考え方が基本的にない。】
【A また、候補地となっている土地は1996年から是正勧告を受けた土地である。それが、今まで放ってあって昨年8月1日から31日まで、たった一ヶ月の短期間で是正が終わるなどということがおきている。とても是正されているとは思えない。日程の運び方からしても、議会への説明責任が果たされてない。】
 しかし、どのような討論がなされようが、議会の力関係で、この請願も不採択となった。農業用地に産廃を廃棄させて、8年も放っておく事自体、市町村・県の職務怠慢である。

施設建設の問題点

 議会での討論も含めて、農業関係者から指摘されている問題点も数多くある。地元宮原で有機農業を営む相原成行氏は
【@ 家畜ふんは、休むことなく毎日出るもの。運び込むには、かなりの労力をここに費やさなければならない。それぞれの畜産農家の近くに分散して造ることが望ましい。】
【A 簡易型でお金をかけないで対応する方法もある。】
【B 市側の調査でも、生産された堆肥の利用は、ほとんど見込まれていない (市は半分は利用すると見込んでいるが、調査の根拠が疑問である)。これは新たなごみの生産をするだけ。】
【C 大規模共同利用施設は、全国的に見ても赤字経営が多い。理由は、過剰投資、計画のずさんさ、堆肥生産技術の低さ、品質の不安定等が挙げられる。】
等、20項目近い指摘をし、「本当に酪農家のための施設であるかも疑問だ。」と首を傾げる。

農政事務所の話

 神奈川県の湘南地区農政事務所の畜産部畜産課では「これは、廃掃法でいうと《一廃と産廃の混合施設》です。でも、農振興地域なので《農業用施設》として建設します。(04年5月18日聞き取り)と言う。確かに、正式名称は「農村総合整備事業−畜産環境総合事業−資源リサイクル畜産環境整備事業」となっており、農水省の補助金事業が酪農家の負担を軽減するためにあるような農業施設かのように見える。しかし、この施設は公共事業として造られた(PFI方式)後、民間に渡る予定で、立ち上げから《良質な堆肥を作るため》として大手スーパー、デパート等民間からの食品残渣を受け入れることになっており、産廃施設に移行するのは容易で、まさに県の職員が言ってるような「一廃と産廃の混合施設」なのである。
純粋に「酪農家のため」というには、あまりにも無理がある計画であることが見えているのは、この問題に取り組み、酪農家にとってどのような施設がいいのか様々な角度から学習し、考え、また国や県とも話し合いを持ってきた住民の一部だけである。

国の廃棄物行政の流れ

 同施設が産廃処理のための施設になるという裏づけは、国の廃棄物行政の流れと神奈川県の廃棄物処理計画を見ると解る。
 ここ数年の国の廃棄物行政は、大きく様変わりし、一般廃棄物と産業廃棄物を一緒に処理してしまおうとする流れに向かってまっしぐらに進んでいる。特に、首都圏では産業廃棄物の処分場が、ここ数年で満杯になってしまい、新たな処分場の建設が見込めないことから、産業界と結びついた政府が、法律の枠を超えて考え出したのが、一廃と産廃の統括処理だった。そして、このための施設を税金で造っておく必要があると考えた政府は、「循環型社会」を謳い文句に、廃棄物処理施設の建設に力を入れている。
 様々な手法を使って。

神奈川県の廃棄物行政

 そして、この計画のお先棒を担いで環境省とともに走っていたのが神奈川県の廃棄物行政である。
 2000年4月、神奈川県が<廃棄物の県内処理100%>を打ち出した同じ頃、廃棄物担当理事に任命された竹口理事は、プラントメーカーを含む大企業40社余の任意団体である環境技術研究会と、地球環境戦略研究所(IGES)と一緒に廃棄物の「総合処理対策」を研究し始めた。
 この研究会で、まとめられたものが2001年3月に出された「神奈川県廃棄物処理対策−全体構想」である。この構想は、全県を広域の一区として、4分別したごみを
 @ リサイクルセンター
 A パワーセンター
 B 有機質資源化センター
 C 処理困難物センター
で処理するというものだ。全体構想は環境省発案のナショナルプロジェクトなのに、国が動くと違法なので、神奈川県にモデル案を作るように指示したのだ。
 この藤沢市有機質資源再生センターは、上記Bに位置づけられるため、県は力を入れて藤沢市を指導しているのではないだろうか。

まとめ

 このように見てくると、県が藤沢市にどうしても、この事業を成功させてほしい訳が見えてくる。
 紙面の関係上、国・県の動きを非常に雑駁にしか説明できないが、これが産廃処理のための施設産業になることは、おそらく間違いないことだろう。一度造ってしまったら、これを維持するために走らなければならない。そして、やがて民間に渡ることになったら、ここで何が行われようが、環境にどんな影響が出ようが、事故が起きようが(大手スーパー、デパートの食品残渣が持ち込まれるので、大和のジャスコのような事故がないとは限らない)、住民は情報公開すらとることはできない。困るのは周辺住民だけで、造るのに奔走した行政には、その責任は問えない。
 近隣の平塚市では、すでに8割の農家が11月の法施行に向けて、その対応を済ませているという(大半が攪拌ロータリー方式)。
 藤沢市が、大事な法手続きを水面下で行ったり、計画の情報を市民と(議会にさえ)共有することなしに大型処理施設建設にこだわる背景を追求していくのは、私達住民の役目であろうし、(報道・メディアは行政情報を伝えるのみ)、その矛盾が暴露されるのも近いと思っている。

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