自然観察入門 No3

かたつむりはどこへ行ったの?
地球の温暖化の影響か?足元の自然からの警告!


文: 福田 


写真左から キセルガイモドキの幼貝 ミスジマイマイ コハクオナジマイマイ

キセルガイモドキの幼貝 ミスジマイマイ コハクオナジマイマイ


* はじめに *
 つい30年ほど前までは、梅雨のころになると、朝起きて見ると、塀や垣根に「かたつむり」が銀色の這い跡を残しているのがよく見受けられました。そして、これらの銀色の筋をたどって行くとしばしば、「かたつむり」を見つけることができました。最近はどうでしょうか。「『かたつむり』を最近見ないね?。」と言われてみると、「そういえば見ないね。『かたつむり』は、どこへ行ったのかな?。」
 そこで、平塚の「かたつむり」を調べてみることにしました。


 * 「かたつむり」ってなあに? * 「かたつむり」は、「でんでんむし」、「まいまい」、「かたつぶり」、「かさつぶれ」、「かたつもり」、「かたつぶろ」、「ででむし」、「でんでこない」、「だいろだいろ」、「まいまいつぶろ」、「みゃあみゃあず」、「つんつくつんぐらめ」、「いえかつぎ」、「つのんでえろ」、「かいなめら」、「じっとうばっとう」、「げげぼ」,etcいろいろな呼び名があります。
「かたつむり」の「かた」は干潟(ひがた)の「潟(がた)」のことです。「潟(がた)」は、潮が引いて干上がった土地の事ですから、〔陸:おか〕のいみがあります。 「つむり」とは、「つぶり」または「つぶら」ということばがかわって、「つむり」になりました。「つむり」の「つむ」とは、「ツブ」のことで〔まき貝〕のことをいいます。
「かたつむり」とはつまり、〔陸にいる巻き貝〕ということです。


* 「でんでんむし」ってどうして? * なかなか殻(から)の中から出てこないので、「でよ、でよむし」といって殻(から)から出そうとしました。「でよでよむし」が「でいでいむし」、「ででむし」などといわれるようになって「でんでんむし」になりました。


* 「マイマイ」ってどうして? * 「マイマイ」とは、「まきまき」からいわれるようになったとも、また「まえまえ」からいわれるようになったとも2通りのいわれがあります。
「まきまき」は殻(から)がぐるぐるまいているところから「巻(まき)巻(まき)」というようになりました。そして、「まきまき」が「マイマイ」になりました。
「まえまえ」とは、「舞(ま)え舞(ま)え」のことで[つのをふりふりおどってほしい]とねがうことから「まえまえ」というようになって、「マイマイ」になりました。 かたつむりの図鑑などでは和名(日本語のなまえ)を(○○マイマイ)とよんでいます。
12世紀中(今からおよそ750年まえ)ごろ、後白河法皇(ごしらかわほうおう)の集めた「梁塵秘抄(りょうじんひしょう)」にのっています。
舞(ま)へ舞(ま)へかたつぶり
 舞(ま)はぬものならば
馬の子や牛の子に
 くゑ[ケ]させてん
  ふみわらせてん
まことにうつくしく
 舞(も)うたらば
  花の園まで遊ばせん



そして、各地にいろんな童謡が残っています。


 


○でんでんむしむし かたつむり
 おまえのあたまは どこにある
  つのだせ やりだせ めだまだせ



○だいろ、だいろ、つーのだせ
 なんじがだせば、我も出す。(新潟県)
○めーめーこんしょう、つーのーだーせー。
  こぬかー三升、やーろーに。(愛知県)


* 「ナメクジって」なあに? *
 「ナメクジ」の「ナメ」は、みそを作るときの豆の汁がとろりとして滑(なめ)らかで、この豆の汁のことを「滑;ナメ」というそうです。そして、「ナメクジ」のネバネバがこの汁のようなので「ナメ」というようになりました。
「クジ」は「クジラ」や「クジリ」ということばからでクネクネとネバネバのあとを縁(ふち)どって這(は)うことからいわれたそうですが、はっきりしたことはわかりません。


* ナメクジに塩をかけると、とけてなくなるって、ほんと? *
 ナメクジは塩(食塩)ではとけません。
ナメクジの皮膚(ひふ)が半透膜(はんとうまく;あるものはとおすけれども、そのほかのものはとおさないといったせいしつをもったまくのこと)として、ナメクジのからだの外の塩分濃度(えんぶんのうど;このばあい塩をふりかけたときのしおけのこさ)が、ナメクジのからだの中にある生理的塩類濃度(せいりてきえんるいのうど;からだをたもつためのしおけのこさ)よりもこくなると、浸透圧(しんとうあつ;半透膜[はんとうまく]の内がわと外がわで、片方に溶媒[ようばい;ものがとけるもの]として水、もう片方にものをとかした溶液があると、水は半透膜をとおって溶液側に流れ込む。)そして膜にある一定の圧力(あつりょく;まくをおす力)がくわわると水の流れがとまる。このまくをおす力のことを、[しんとうあつ]といいます。)によってからだの中の水分が外に出てしまい小さくなってしまいます。しかし、とけて小さくなっているのではなく、からだを作っている組織(そしき;きんにくやないぞう、さいぼうなど)の水分がぬけて小さくなってのこっています。


* 貝のなかまの「かたつむり」 *
なかまわけ;地球(ちきゅう)にはいろいろな生き物がすんでいます。これらの生き物たちをとくちょうによって分けることを分類(ぶんるい)するといいます。
貝のなかまはせかい中にひろがっていて、およそ150,000しゅるいが生きています。
日本の中では12,000しゅるいの貝のなかまがすんでいます。


* 貝のなかまわけ *
貝のなかまは、大きく7つのとくちょうのあるなかまに分ける事ができます。
(1)カセミミズのなかま:[溝腹類]
ミミズのような、長いひものかたちでおなかに溝があります。
(2) ヒザラガイのなかま:[多板類]
 8枚のからをもっていて、ひざのようにまがります。
(3) ネオピリナ・ユーインギのなかま:[単板類]
 たいへん深い海の底で、せんすいかんによって見つかりました。
 殻はかさのようなかたちで1枚ありますが、からだのしくみがヒザラガイのなかまににています。
(4) アワビ・サザエのなかま:[腹足類]
 巻き貝のなかま、巻いたからをもっていて、はらの足でうごきます。
(5)ツノガイのなかま:[堀足類]
 つののようなかたちでスコップのよううな足を使って砂の中にもぐり、立って生活しています。
(6) アサリ・ハマグリのなかま:[二枚貝類]
 二枚貝のなかま、二枚のからをもっています。
(7) イカ・タコのなかま:[頭足類]
 イカやタコも貝のなかまです。
 すがたやかたちがちがっていても、体のしくみが貝と同じとくちょうをもっています。タコの[アタマ]にみえるところがじつは[おなか]なのです。
また、イカのつつのなかに[おなか]のしくみがつまっています。イカやタコは足が頭についています。


* 平塚のかたつむり *
 日本にいるかたつむりはおよそ800しゅるいがいるといわれています。
 平塚市にすむ「かたつむり」をしらべたところ、およそ30しゅるいが、すんでいることがわかりました。
ミスジマイマイやウスカワマイマイはふつうにみられる、かたつむりですが、数がへっているようです。ほそくとがったキセルガイのなかまは、以外にも町中の公園にもいきていることがわかりました。中にはゴマつぶより小さいスナガイも海岸の近くで見つかりました。また、杉林のなかでは、ゴマつぶぐらいの大きさのタワラガイやふたをもっているかたつむり[ふつうふたはありません]のムシオイガイ、からだがひらたく、毛のあるオオケマイマイも見つかりました。


* 平塚で見つかったコハクオナジマイマイ *
 平塚の土屋で、殻がうすく、きみどりいろのないぞうがすけてみえるかたつむりをみつけました。ちょうどドロップのあめのようなきれいなヒスイいろをしています。
コハクオナジマイマイというのだそうです。もともと、このかたつむりは、兵庫県より西、九州地方の平塚よりあたたかいところにすむかたつむりです。それが、どうしてこの平塚にいるのでしょうか。
どうやら、外から入ってきたものと思います。そして、エサとなるヤブマオという植物も近年よく見かけるようになりました。地球の温暖化によりエサとなる植物も生えることができ、またコハクオナジマイマイがすむことができるかんきょうになったとも考えられます。そして、年々、コハクオナジマイマイが生きているところも、広がっているようです。


* かたつむりのかんさつときせいちゅう *
かたつむりのかんさつをするときに気をつけなければならないのは、寄生虫[きせいちゅう]とのかかわりがわからないとたいへんです。
「かたつむりや、ナメクジはきたないからさわってはいけません。」などと言ったのでは、かんさつなど、できるはずもありません。かたつむりやナメクジはきたなくありません。かたつむりやナメクジに寄生「きせい;からだのなかにすみつく」する虫が、"わるさ"をするのです。この寄生虫の一生のしくみをしることがかたつむりのかんさつにはかかせません。大人から子供たちへ教えてあげることも大切な事です。
では、寄生虫の一生を見てみましょう。ナメクジやかたつむりに寄生する虫のおもなものは、広東住血線虫[かんとんじゅうけつせんちゅう]といいます。大きさは雄が体長20〜25mm、幅0.32〜0.42mm、雌が体長22〜34mm、幅0.34〜0.56mmの細い虫です。そして、ふつう
T ネズミ[終宿主;]
(1)成虫はネズミの肺動脈[はいどうみゃく]内に寄生しています。
(2)肺動脈内で産卵された卵は
(3)血液の流れにのって
(4)肺[はい]に、はこばれ
(5)およそ6日後に孵化[ふか;たまごからかえる]して第1期幼虫になります。
(6)第1期幼虫は肺から気管、食道を通って
(7)糞[ふん]にまじって外に出ます。
U ナメクジやかたつむり[中間宿主]
(1)外に出た第1期幼虫はナメクジやかたつむりの[中間宿主]に食べられると、ナメクジやかたつむりのからだの中で
(2)2回脱鞘[だっしょう;さやをぬぐ]します。第2期幼虫、第3期幼虫となります。
(3)第3期幼虫のことを感染幼虫[かんせんようちゅう]といいます。感染幼虫に発育します。
V淡水のエビ、カニ、プラナリア、野菜
        [待機宿主]
(1)ネズミの糞[ふん]から出た第1期幼虫が、小川や池の水に入ると淡水のエビ、カニ、プラナリアの[待機宿主]の体に入り、そこで第2期幼虫[=感染幼虫]になります。
(2)野菜[待機宿主]にかけられた第3期幼虫[=感染幼虫]のいる小川や池の水から、また、第3期幼虫[感染幼虫]に感染した、かたつむりやナメクジが野菜につきその糞やネバネバの這いあとに第3期幼虫[=感染幼虫]が出てきます。
Wネズミ[終宿主]に食べられる。
(1)ネズミが中間宿主、待機宿主を食べると、感染幼虫が口から消化管をとおり、血流により骨格筋に運ばれ筋肉の繊維をこわし末梢神経に沿って骨髄に入り、脊髄、脳幹をとおり頭に入ります。
(2)感染幼虫は3日以内に脳につき、3、4回目の脱鞘[だっしょう:さやをぬぐ]して幼若幼虫[ようじゃくようちゅう:こどものようちゅう]になります。
(3)幼若幼虫は、感染してから10〜11日目に頭蓋骨の下にあるクモ膜下腔に移動します。成長しながら2週間がたつと
(4)成長した幼弱幼虫は脳静脈に入り、静脈洞から頚静脈より心臓に行き、そこから肺動脈に入ります。そこで成虫が寄生します。
(5)そこで感染後約33日で雌は卵を産み、
(6)感染後約40〜45日で第1期幼虫がネズミの糞に見られるようになします。
X ヒトのからだへはいるばあい。
知らずに、手でさわったヒトが手を洗わずに食べ物を手で口に入れてしまったり、野菜や果物をよく洗わずに食べてしまうと、感染幼虫や卵がヒトのからだの中に入り込み消化管から吸収され血液中に運ばれると、筋肉から末梢神経を通り、脊髄をとおり脳に移動します。ネズミの経路と同じようになると思われています。
30年ほど前まで私も声の良くなる薬だとナメクジを食べたことがありました。しかし、このような寄生虫の話を聞き、たいへんおどろいています。時々、ナメクジやかたつむりがあぶないという話が新聞などで、話題になることがありますが、このような寄生虫のはなしがほとんどなく、ナメクジやかたつむりが、わるものにされているのを聞くと腹立たしさを覚えます。このことが、子供達の教育にもあらわれているのが現状です。現代のヒトは抗菌性の生活用品が普及しすぎて免疫力がかなり衰えています。手を洗うときでも、洗いすぎて外部のばい菌をやっつけてくれる常在菌までも殺してしまっているのです。かたつむりにつく寄生虫のことを良く理解しながら観察をしましょう。そして、いつまでもかたつむりのうたがのこりますように願っています。



  気をつけよう!
       これだけは!
深い森や林の中に一人では入らない。
おとなの人といっしょに調べよう。
がけのふちには近づかない。
大雨の後や風の強い日には調べるのはよそ  う!
夕方遅くならないように。
ナメクジは手でつかまないように。
またナメクジは持ち帰らないように。
かたつむりをさわったら、よく手を洗う。



さあ、みんなで、 かたつむりをさがしに行こう。


かたつむりの参考書
〔こども向けの本〕
○かたつむり;小菅貞男
講談社カラー科学大図鑑5
○かたつむり観察事典;小田英智
自然観察事典13;偕成社
〔一般向け図鑑〕
○原色日本陸産貝類図鑑;東 正雄 保育社
* バイブル的な本、日本産681種掲載
ちょっと分厚く値段も高い本なので図書館で見るほうが良い。

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