日本の年金制度を糾そう(9)

[3]国民年金制度の問題点と解決策 (前号からの続き)


年金問題を糾す会 杉内




1. 問題点?
 (1)‘04年の通常国会で政府・与党が強行採決して 通した[年金制度改革関連法]では、「国民年金の保険料は、’04年現在 月額1万3300円づつ納付しているのを、‘05年4月から毎年280円/月づつ上げていき、2017年には月額1万6900円にし、以後は据え置く(14年間で3600円/月も上げることになり、アップ率は27%にもなる)となっています」。
 (2)この年金制度については、国民は制度の中身を 相当誤解しており、その結果が[国民年金制度への未加入や長期滞納]という問題を引きおこしております。しかし、原因は、年金制度を良く知らない[厚生年金と国民年金の両方とも]ことから来る驚くべき誤解がこのような(しかも、原因は厚生年金制度にあるのに、直接関係無い国民年金の対象者に未加入や滞納者を惹起している)やっかいな問題を起こしているのです。
   (a)国民年金の財源は、現在でも1/3を国が負担 しており、国家が運営し保証しているので、日本にある全ての年金の中で一番安全[100%]で、しかも有利(前述のように、財源の1/3を国庫から支出。こんな有利な年金は他には無い)な訳ですが、何故こうも国民から不信の眼で見られているのでしょうか?
  (b)理由は、誤解が全てを狂わせているのです。
   @[財源の1/3を国が負担している]ことを国民 の大半の人々【注】が知っていない。しかも、数 年以内に《国庫負担の比率を1/2に引き上げ る》ことが数年前に国会で議決されていて、今政 府は財源探しをしています。
    【注】社会保険庁が3年に一度行う[国民年金被保険者実態調査]で《年金制度の周知度》が明らかになった。(‘04年5月5日の新聞各紙)
    ★[国が国民年金の財源の1/3を負担して いること]を知らない人が58%も居たのです。この調査は、国民年金に加入している人を対象に行った調査ですが、「私はつい最近、知人[50歳代主婦]にこのことを知っていますか?と聞きましたところ、《えぇ?そうなの!》との反応に、びっくりした」ことを記憶しています。
    Aこのことに関連して私達が指摘したいのは、[国民年金制度への未加入又は長期の滞納]等で抵抗している人達の殆どは、このこと[国が1/3負担]について知らないし、本当の国民年金制度の中身を知らないで感情的に反対し、周りの友達にまことしやかに流言・飛語をばらまいている人達が居ることです。
    B何故これらの人々は「年金制度に不信感 を抱いているのでしょうか?」。
     (イ)5年毎に繰り返される厚生年金制度の見直し[制度の基本に関わる仕組みの改悪や保険料のアップ]の際のゴタゴタを横目で見ていて、《国が管理する制度は、早晩破綻に追い込まれる[ここで原因となった厚生年金制度だけでなく、ゴタゴタに無関係な・自分達が加入又は加入すべき国民年金制度をごっちゃにして、即ちこれら二つの境を取り払い[国が管理する年金制度はすべてダメになる]と一括りして]》との強い不信感を抱き、行動として、⇒拒否反応【本来は無関係だった国民年金制度の方に飛び火して、納付方法がゆるいところを突かれて、若い世代の国民年金制度への未加入・長期滞納】という形で出てきているのです。
     (ロ)若い世代の根強い不信感を取り除く方法は、唯一私達が提案している『年金制度を糾そう(7)(+αNo.22)、(4)日本での[具体的な解決案]』を実行し、 [5年毎の見直し]を不要にする以外にありません。即ち、厚生年金制度を確固なものにすれば、国民年金制度の加入者 側の方へもゴタゴタを見せるものは無くなり、終息に向かいます。
2.[国民年金制度]は、そんなに欠陥だらけでしょうか?
  (1)‘04年の通常国会で[年金制度改革法を審議] している時に、[国会議員の国民年金制度の未加入期間が何年間あったか]がマスコミを通して騒がれ、結果として百人を超す国会議員の名前が出て[与・野党の議員数の合計で]一部の人々では、党の役職や政府の役職を辞した人々も多かったことは記憶に新しい事ですが、  《原因は》
   (a)国会議員の国民年金制度への認識の無さが一番問題な訳ですが、
   (b)一部で指摘する[国会議員には特別の年 金制度がある]ということも一因ではあるよ うです。この問題は、政府が特権を廃止する 方向で検討を進めていますね。
   (c)私は次のようにとらえています。   『基本的には、厚生労働省の担当官僚の[年 金制度への取り組み方が間違っていた]からです』。どう間違っていたかと言いますと、   「異なる年金制度の移動(厚生年金脱退⇒国 民年金への加入)のフォローをしていなかっ た」。彼ら(厚生官僚)は、
    @国民年金への加入漏れ・長期滞納で困るのは各個人で、将来、年金加入期間不足で無年金者になっても、厚生労働省は責任を持てないし、
    A年金制度の移動のフォローは個人の責任において行うべきと突放していた。      【注】 40年程前は、コンピューターの性能[各種の記憶容量も今の1/100位だったし、処理能力も遅かった]も低く、コンピューターで管理・フォローすることは難しかったことも大きな要因だった。
    Bしかし今は、コンピューターの性能も格段に向上し、しかも今では全国民(何らか の年金制度に加入していれば)に共通の【基礎年金番号】が付けられているので、コンピューターで管理・フォローすることは可能になったのですから、厚生労働省のやる気の問題だけで、民主党が大げさに騒いでいる[年金制度間の統一なくしては不可能]という程ではないのです。
  (2)勿論、直さなければならない所はあります。
   (a)国民年金制度が多くの問題を抱えている ことには、直視しなければなりません。
    @[サラリーマンの妻[第3号被保険者]が基礎年金の保険料の納付を免除されていること]による不公平だという批判。
    A国民年金制度への未加入者[理由もない のに]に対する抜本的な加入促進策
    B長期の滞納者に対する徴収方法の改善
     ★国税庁と社会保険庁が統合されて、強制徴収するか
     ★国民年金を納付しなければ、国民健康保険の保険証も交付しない(両方の同時徴収)
   (b)民主党が‘04年の参議院選、’05年の衆 議院選で提案していました[《国民年金制 度》を《[厚生年金制度]と[公務員が加 入している共済年金制度]の二制度》との 統合をすべきで、そのためには国民全員を 巻き込んだ消費税アップ[約3%アップ] も止むを得ない]との提案には、大反対で す。
    @政治理念として、[三制度の統合を目指す]こと自体は私も方向としては良いと思います。
    Aしかし、今の政府・与党が言っています ように、多くの難問題を抱えており(私も そう思う)、そう簡単には行きません。「国 民の将来の生活保障を考えて、[無年金者 を無くす手法を追い求めること]は必要で すが、だから[消費税率を上げるのは容認 されるべきだ]という議論はあまりにも短 絡的です。」
    B無年金者を無くすために、「若い働ける 間に老後に備える努力を[国民年金保険料 を納めること]せず、簡単に国民全部に負 担を掛ける消費税率アップを引き当てて、 努力もしない者を助けるという考え方《民 主党の提案》」には賛成できません。結果 的に老後に無年金者になり、《生活保護》 を適用し、国民の拠出した税金で賄わなけ ればならなくなっても、止むを得ないでし ょう。
    C民主党は、福祉先進国のスウェーデンに倣ったと言っていますが、少し誤解しているようです。
     スウェーデンは、「大学進学の費用は全て 国費で賄い、子育てに必要な保育所の完備 や児童手当を厚く支給し、老後の病気の治 療・介護を含め手厚くする等社会保障全般 に亙って面倒を見る中での基礎年金の国 庫負担を結果的に高い消費税[食料品が 12%の税率、その他は25%とのこと]で 賄っています」。しかし、《揺り籠から、墓 場まで》保障しているということの一部で あることを考えないで、その一部の美味し い所[基礎年金=国民年金を国庫で全額負 担=消費税率アップで]だけをピックアッ プしてくるのは、如何なものでしょうか。 今のままでも、数年先には(今でも国庫負 担率は1/3で)国庫負担率は、1/2迄に引 き上げられるのです。何が不足なのでしょ うか。
    D民主党は、現在の[国民年金制度への未加入・長期滞納になった理由]を重視しており、その除去のためにこのような提案をしてきたようですが、
    E私には、「この未加入や滞納は、若い世代の風評による全くの誤解や無理解が原因(前述の通り)と思っており、全く背景の捉え方が違うのです。
    F民主党が改革が必要だと言って「取り上げた、[無年金者対策]や[最近急増しているフリーターやニートの若者〈国民年金に加入していない人口が多い〉をせめて国民年金に加入させようという対策]は、政治理念としては間違っていませんが、‘04の通常国会で改悪されたのは[厚生年金制度の保険料率は上げられ、給付は逆に減っていく]ということに対して厚生年金制度の加入者が怒って参議院選では野党の中核の民主党に投票したのに、全然民主党が対応してくれなかったことにがっかりしている訳で、今回の衆議院選で岡田代表[当時]が[郵政民営化よりも、社会保障問題、就中《年金問題が大事だ》と言って訴えても、中身がピンと外れ[国民年金制度を厚生年金制度、共済年金制度の二制度との統合が必要だ。しかも、消費税率を3%程度上げてでも対応すべきだ]だったため不発に終わった」ばかりか、他の要因もあって与党に大敗したことは衆知の事実です。
3.『国民年金制度の改革は次の手順で行います』
  (1)国民年金制度は、前述しましたように、厚 生年金制度ほど大きな問題点を抱えていない(厚生年金制度の若い世代の加入者[2000年生まれ]は、自分が支払った保険料が老後に年金として約42%も戻ってこないと深刻だが、国民年金制度の加入者で、自分が支払った保険料分が老後に戻ってこないという具体例はない)ので、[前述の2.−(2)−(a)で改正が必要だと提起した問題点]は、厚生年金制度の抜本的な大改正を成し遂げた後で、着手したい。
  (2)民主党が提起した[三制度の統合は、政治理念としての必要性は理解できるが、難問が多く、消費税率を上げてまでやる必要性は認められない]ので、時間を掛けてどういう方法なら出来るのか検討は進めていきたい。 ただし、「民間企業等に勤務する人々が加入する[厚生年金制度]と、公務員・私立学校に勤める人々が加入する[共済年金制度]はほとんど類似しており、これらの統合は比較的に容易で、政府・与党も同じ認識で既に統合に向け着手しており、推移を見守りたい」と存じます。

                                          以上(2006年1月)
                                          

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