Live Notes 1999.12.19 (1999.12.22)


JINSEI TSUJI LIVE TOUR 1999  〜 i like you
  
ACOUSTIC STYLE

1999.12.19 渋谷/クラブクアトロ

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一人で行くことになった。かつてと違って、仕事とか、腰とか、みんないろんな事情を抱えているらしい。昔のようにはいかない。アマチュア以外のライブに一人で行くのは生まれてこのかた初めてだった。前売りを買ってないのも初めてだった。初めてづくしだ。他にも先約の予定があったので心に躊躇はあったのだが、"1900年代最後の辻ライブ"という事実が僕を動かした。どうしても行かれない状況であれば諦めもつこうが、"行けるのに行かないと後悔する"という気持ちがどうしても消えなかった。しかし、僕もいろいろ忙しかった。行くことに決めたのは3時間前。家を出たのが1時間前。ギターを担がずバイクを転がし(死語)寒い中渋谷に向かう。公園通り付近の"いろはにほへと"の向かいにバイクを止め、会場到着時には既に10分前。いちおう心配だった入場券。やはり(?)当日券はあった。なんてコンビニエントなライブなんだろう。何故か感激だ。しかも見知らぬ人が入り口で余った券を譲りたいというので、当日券6千円(前売り5千5百円)のところ5千円で譲ってもらっての入場だ。中は、ほぼ満員。これ以上入れてくれるなってくらいに。キャパシティー満杯に入れたら、これはかなり居心地が悪そうだ。客層は相も変わらず男女半々。近年、どこから来るのか二十歳前後の若い世代が目立ってきた。ECHOESというバンドが現役だった頃、まだ小学生だった世代である。

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早速お飲み物券で発泡酒をもらい飲む。こういう場で飲むのはとびきりおいしい。みんなで来てたら、ビールとか飲みまくるとこだが、それを思うとやはり寂しい。ガーっと飲み干すと、コップを捨てる隙も無く仁成が登場。

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オープニングは<Gentleland>。13年近く前の作品。確か、モーニング娘。の一番若い娘が14歳。彼女が赤ん坊だったころの曲ってことになる。年期入ってきた。近年、特に11月の渋公の時は顕著だったが、相変わらず譜割を一部無視したボーカル。最近のこの曲の典型的なボーカルスタイル。個人的には止めて欲しい。コードはやはりA。年齢のせいもあるが、低くなると一気に丸く太い声になる。またシャープな金切り声でやって欲しい。かつてのようにライブ前にはジョギングでもして。

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1曲終わっただけだが、ここで決定的な違いに気付く。なんと歌詞を間違えなかったのである。コピーする側でも既に"謝りたいと悩んでいる〜"あたりは難関。なにせ古い歌である。仁成に至っては、近年この歌を正確に歌い終えたことは無い。断言出来る。それが今日は完璧であった。渋公のあと徹底的に歌詞を頭に叩き込んだに違いない、やっと歌詞に対するプロ意識が戻ってきたか.....と感動しきりの中で、人垣の揺れる向こうに譜面台が見えてきた。こういう時折出現する決定的な格好悪さも、彼らしいといえば彼らしいのだが。

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2曲目。これまでミドルテンポでしかやってなかった<Jack>。ピアノ音(あくまでシンセ)+パーカッション+ギター。ソロ後初めて(?)オリジナルの早いテンポであったためか会場は一気に盛大な盛り上がり。続いて前回の渋公でも出てきた<Shot Gun Blues>。これはもう"本人お気に入り"という感じがする。まったりと自分の世界に入っての熱唱。

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"アコースティックスタイル"という言葉の響きで、何故か勝手に延々弾き語りが繰り返される様な構成イメージでいた。しかし、ギター+パーカッション+(なぜか?)シンセサイザーで、シンセの人はいつもの機材。シンセのリズム(打楽器)系の音はさすがに無かったと思う。従って、音はシンプルでながらギター以外のリズム音がしっかりした全体音になっていて、聴き味は、ギター弾き語りというよりはバンド音的なリズム感覚多めの仕上がり。

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オールスタンディングなので、人の隙間からは何とか見える程度。それでも会場自体が狭く音が長く反響しないことと、更にボーカル重視のセッティングのために言葉が聴き取りやすいことで、やはりホールに比べてボーカルと一対一になりやすい。引き込まれる。まぁそもそも、最近はあまり席とかも気にならない。それより自分なりに気楽に、心身ともに苦労せずに楽しめるのが本来の音楽の楽しみ方なんだと思う。チケットがプラチナ扱いされるライブなんかには、もし取れても行く気にならなかったりする。この日も"聴こえればいいや"ぐらいの気持ち。それでもいいやって気持ちで望むと気楽なもんで、たまに目を閉じたりして聴くんだ。耳を済ませて歌声に神経を聴覚に集中させて。

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この日の序盤までのMCは、はっきり言ってダラダラしていた。チューニングしながら盛んに"武士道"がどうのとか、"昨今の日本の〜"とか難儀なゴタクを並べ、その殆どが悲しいことにスベりまくった。いつも通りに戻ってきたのは中盤以降。2日前にフランス大使館で開催された仏首相の来日晩餐会に呼ばれ、仏首相と席を共にしたという、本人曰く「これは自慢なんですよ。」というクダリあたりからである。仏大使館の20テーブル程の会場で、なんと本人もびっくりなことに辻の席はメインのテーブルあった。同テーブルに主賓である仏首相をはじめ、在日仏大使、土井たか子やトヨタ会長、日産の会長、等々、そうそうたるメンバが顔を揃え、最近、昔のもこもこパーマのヘアースタイルに戻りつつあるあの髪を指差し、「叔父様方の中で俺だけこの頭だよ。浮いた浮いた。」と語った。招待は先日のフェミナ賞受賞の流れなのだろうが、かつて明確に反核/反仏を歌った人物だと思うと、世の中は実に不思議なものだと感じる。もう一つ印象に残ったのは、札幌のホテルで出会ったというゴスペルを歌う盲目の女性マッサージ師の話。彼女の重みのある言葉と歌声に、感動して涙が出てきたという話だった。今後の作品に反映したいほどの衝撃だったらしい。蛇足的だが、慶応大学で現代芸術の非常勤講師をやっているそうで、「今日は監督ではなくて先生と呼んで欲しい。」と本人の弁が。「(自分の生徒が)来てるかなぁ?」と呼びかける場面も。「せんせー!!」と答えた一団はいたが、その真偽は定かでない。

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<Jack>以外の選曲は、ほぼ渋公のものと同様。<かつて>を歌い終わると、「言い歌だよね。自分の歌だけど。」と陶酔。確かに良い歌だ。<do you like me>→<i like you>の順序も相変わらず。初めて生で聴いた(演るのも初めてか?)<ミーイズム>。何かのB面だった曲で強く生きる女性を歌った歌なのだが、詞が判りやすく説得力があり、個人的に大好きである。特に辻好きの女性のライフスタイル傾向を思えば、これはたまらない歌である。前出のゴスペル女性に感化されたからこその選曲に思えた。その他、"仕事なんかに命かけない"というフレーズがストレスフルな社会人の心にグサっと突き刺さる<modern life>。<どの方角から誰が来るのか分からないから全部開いてる>,<Love and Chain>等々と続く。

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終盤に、辻プロデュースの女性歌手 yuma の登場。♪あ〜りあ〜り〜あ〜りあ〜♪と歌う。以前この歌をFMで聴いた。心の準備が無かったら驚嘆する歌声である。10年程前に、あるバンドがゲストボーカルに使った外国人女性の声を連想する。その邪念を感じさせない真っ直ぐ空へ突き抜けていくような歌声は、とてもとても好きな声質なのである。風変わりな風貌で変わった性格でシャープな感じの身体と心を持った女性を想像していたのだが、あまりにそのへんにいそうな普通風の"ほんわり"とした感じの娘だった。しかし、生で聴くと格段に音程不安定であり声量のバランスも悪かった。(他の会場の時はもっと良かったらしい。) まだまだこれからと期待したい。持って生まれたボーカルの才能という点で個人的には高く評価しているので、しっかり伸ばして欲しい。今後のプロモーション次第では大化けする可能性もあるかもしれないが、落ち着いてゆっくりと大成して欲しい。あくまで個人的意見であるが。

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予想通りのラストは、<鳥の王>→<ガラスの天井>→<サボテンの心>。この辺は定番化しある。狭い会場ということもあり、いや、みんなアルコールのせいか?"サボテン"のときの大合唱はすごかった。史上最大とも思えた。個人的にはこうした合唱があまり好きではないのだが、つられて歌ってしまった。

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アンコールで、<ZOO>。こちらの大合唱はもっと凄まじかった。再度のアンコールは、yumaも交えて英語の歌。なんだったか?、♪めぇーりーめりーくりすまーす、えん、はっぴーにゅーいやー♪、という歌。残念ながら、コピーとはいえ少々完成度が低かった。でもとにかく大盛り上がりでのエンディングであった。

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この日の辻は何だかハイテンション。それを押し殺すかのように最後の最後に「今日ここに来てくれた人が今日ここに来て良かったって思って帰ってくれて、今日一日幸せな気持ちでいてくれたら僕も幸せです。」と、これまでに無いような神妙なニュアンスで語る。「僕は今、幸せではない。」と言わんばかりのな内容を一時の尾崎のような口調で語る。大丈夫か?って不安すら覚えた。「自分はいろいろな人に支えられている。」といったクダリでも(まぁ、これは以前からそうだが。)妻子の話は一切出ない。また人生の転機を迎えてしまっているのかもしれない。

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今回はアルコール飲んで聴けるって楽しみもあった。一人ではやはり寂しくもあり残念な気持ちもしたが、久しぶりに空っぽになって歌を聴くことが出来た。来年はやらないって以前の発言があったようだが、あっさり「来年もツアーをやるつもりです。」と言いきった。次回はホールでもビール持ちこんだりして、もっとハイになって騒いでみるか?

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完成度としては近年のライブ同様に、う〜ん。。。といった感もあったのも事実で、まぁいろいろな方向からの見方はあると思うが、今回のライブに限っては理屈抜きに楽しめた。温かみがあった。アットホームなノリがあった。時間が経つのが早かった。とにかく楽しかった

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聴きながら選曲についていろいろ考えていた。千年の切れ目ということもあり回顧の気持ちも手伝って思い返してみると、誰もがそう思うところだとは思うが最近のライブの選曲に古い曲が目立つことに気付く。ソロになってからの曲にしてもを成している曲は7〜8年前の曲である。昨年のアルバムの曲でさえ僅か2曲で程である。バンド時代の曲もじわじわと増えつつある。バンド復活の話やらバンド時代の曲を演奏したりすることも一面では大いに結構なのだが、演る方にも聴く方にも、そろそろ新たな確固たる一時代への欲求を感じるようになってきた。それは小説の中にではなく音楽の中にのみあるように思う。MCで、自分はやっぱり音楽だ、という旨のことを改めて発言していた。毎回のように言ってはいるが、今回のは少し重みが違うように思えた。1999年初頭のトークライブでさかんに"ミレニアム"を口にしていた仁成。これを期に、何かを切り替えようとしているように思えてならなかった。聴衆も、仁成も、このままではいけない時期に、このままでは良くならない時期に差し掛かっているような気がしてならない。何より、これまでの作品(遺産)全てに勝るとも劣らない作品を、歌として聴かせてくれることが全ての答えになると思う。誰もが欲しているのはきっと、良い意味での【脱却】であように思う。

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寒空の下、青山通りをバイクで飛ばしながら思った。
 「良いライブだった。1900年代最後の良い思い出になった。行ってよかった。」


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