受賞のことば         

 

 受賞に際しまして、ひとこと御礼申し上げます。このたびは、栄えある創設四十周年記念中古文学会賞を賜りました。創設四十周年記念事業委員会ならびに関係各位に厚く御礼申し上げます。

 受賞論文は、源氏研究の記念碑的な名著、山田孝雄博士の『源氏物語の音楽』において、ほぼ定説化されて来た、わが国、琴楽史における『源氏物語』の琴楽描写に関して、山田説を批判的に継承、発展させたものであり、日本琴学史という近接学際領域の成果を援用しつつ、その位相を明らかにしたものであります。これはわたくしに言う〈文献史学〉構築の一階梯となるものであり、今後の中古文学研究のひとつの方向性、指針を提示したことになるかと思うわけでございます。この成果は、この数年全力を傾注いたしました『人物で読む源氏物語』全二十巻や、本論文の前提をなす『光源氏物語 學藝史 右書左琴の思想』に関わって下さった、同学の中古文学研究者ならびに編集者のご教導による成果であるとも言えましょう。

 受賞に際し、関係各位に深甚の謝意を表すると共に、わたくしに中古文学研究の方法論を伝授し、学問的情熱を灯し続ける原点であるところの恩師・萩谷朴と、わたくしの両親とに、受賞の報告が出来ることを、人生最上の慶びとして、今日の日を胸に刻みつつ、また明日からの精進を誓うものでございます。本日はほんとうにありがとうございました。

 2006年10月07日                                               上原 作和