ピエ・イエズスを可憐に素朴に歌っている演奏がとても好きです。 ステンドグラスの薄暗い明かりの中で、静かに祈る質素な身なりの娘さん。美しいなぁ〜
>>マーロウ指揮トリニティ・カレッジ合唱団 (CD:CONIFER '89)
1893年版による録音です。サンクトゥスの伴奏のソロ・ヴァイオリンに幸福感 を感じます。
ソプラノは渋めで好悪が分かれる声質だと思いますが、教会で祈る娘の情景はこの 演奏を聴く時に想念されるのです。
◎ワーグナー/マイスタージンガー
>>トスカニーニ/VPO (CD:EKLIPSE EKR 54 '37.8.5)
滅多にない一級品のマイスタージンガー。歌唱法も一部を除いてさほど古さを感じ させません。この曲が聴きたくなった時には、フルトヴェングラー盤かこちらを選ぶ かで悩みそう。
(僅かな録音の「飛び」はあります・・念の為)
なお、おまけとして 1936.8.8 の演奏も一部収録。ロッテ・レーマンがエヴァを歌っています。
『マエストロ、どうか私たちがどんな罪を犯したのか教えてください。先生が何を 望まれるのか教えてください』
トスカニーニは瀕死の小鹿のような眼差しで私を見上げて言った。『炎がない・・・。』
(みすず書房「ロッテ・レーマン 歌の道なかばに」より)
の際の演奏ですね。この演奏が聴けるとは涙ものです。
◎ペルゴレージ/スターバト・マーテル
とうとう、この曲を・・・
カウンター・テナーの声に艶なるもを感じてしまうなんて、人前で話して 良いんだろうか?
ぞくぞくって来るんです。あー、禁断の・・・
>>ボウマン/カークビー/ホグウッド指揮 (CD:L'oiseau-Lyre)
特に第8曲に感じてしまう。
◎ワーグナー/トリスタンとイゾルデ
第3幕前奏は、傷つき、イゾルデと離れ横たわるトリスタンのうずくような悲しみ を切々とうたう場面です。
この音楽に関してはクライバー盤がベストだと思っておりました。苦悩と困殆そのものの冒頭のコントラバスの表情や「嘆きの動機」のあとにくるホ ルン(11小節目)の孤独な音色。これに耳が完全に参っていたようです。
>>バーンスタイン/バイエルン放送響 他 (CD:PHILPS)
第3幕冒頭、3回繰り返される「嘆きの動機」の前半部分。 一度目はフォルテ。二度目はクレッシェンドの頂点。そして、最後は一転、弱音で 始まります。
どんな指揮者もこうするのですが、弱音で奏でられる「嘆き」に震えるような「憧 れ」を感じるのは、バーンスタイン盤だけ。一度目、二度目の最初の音はコントラバスが音量で勝っていますが、三度目は逆に 殆ど聞こえない。弱音ながらチェロの柔らかい音がぐっと前面に出て、一瞬、心をふ るわせてくれます。
トリスタンの「苦悩や困惑」を表わすと言われている11小節目からにも同じよう に、楽器のバランスに意味を感じます。
ここは、ホルンとチェロで演奏される部分。殆どの演奏では、チェロはかすかに聞 こえるだけで、ホルンの物悲しさが勝ります。ところが、バーンスタインは、ここで もチェロの音量を高め、暖かい音色により「苦悩」以外の表情を造りだしているよう に思えます。
チェロを前面に出した、以上二つの部分、音型をよく見ると・・・ 「嘆きの動機」に含まれているのは「イゾルデ」の動機。「苦悩と困惑」に含まれていたのは「トリスタン」の動機。二つを組み合わせれば、第一幕前奏曲冒頭の有名な「憧れの動機」ですよね。
そして、30小節目から。「嘆き」の動機が幾度と無く弦楽器で繰り返されますが 、今度はホルンに注目。
この部分は弦が全合奏しており、ホルンは通常かき消される所ですが、逆に目立つ ようにしっかり吹かせています。
ホルンの音型は、一音足らない「トリスタン」の動機です。では、弦の「嘆き」は?・・・そう、「イゾルデ」の動機の発展。
殺伐とした苦悩の音楽ではなく、求め合う男女が手を伸ばし合うかのような「憧れ 」の音楽へのイメージ・チェンジ。
薄れる意識の中から湧き出でる渇望・・・バーンスタイン得意の表現です。
テンポが遅すぎますか? 聴いていて疲れますか?
目立つのは、第一幕前奏曲の遅さ。名演の誉れ高いベーム盤の10分半に対してバ ーンスタインは14分。殆ど3割増しです。長く引き延ばされる冒頭の動機とフェルマータ付きの8分休符。怯えながらの、し かし、強い愛の交換。こんな感じの始まりですね。この始まり方が、第1幕全体のテンポを決定しています。
幕が開いたあとの第一場も遅いテンポです。水夫の歌も遅い。 そして、イゾルデ の第一声。「誰が私をからかうのでしょうか」。この部分、ドラマの進行上、テンポは一段速まらざるを得ません。結果的にいきなりイゾルデがヒステリックに叫びながら登場するような演奏もあります。しかし、バーンスタイン盤は全体のテンポが遅い為、ヒステリィーには陥らず、不 安げな10代の少女としてのイゾルデ像が見事に描き出されています。
あっさりと通り過ぎがちな「上陸?どこに?」にも、イゾルデの戸惑いの表情が上 手く出ています。
最初の山場は、「ああ名門も衰えて」に来るべきですが、バーンスタインのテンポ 設計では、余力をもってこの部分へ到達できます。
第三場は重要な場面。
イゾルデがトリスタンとのいきさつを侍女に語り、語ることで怒りが再びこみ上げ 、怒りによって自分の境遇の惨めさに気づく。そして、「死の薬」。
ここでも、バーンスタインのテンポはゆっくり。20分程度の場でベーム盤とは4 分も違います。
一語一語ゆっくり語られる「復讐、死、死に伴われ」の迫力。怒りの表出には激昂した口調だけが効果的とは言えません。
イゾルデ役のベーレンスは遅いテンポを生かして、必然的とまで思えるような表現 を残しています。
バーンスタイン盤の遅いテンポ。これは彼の気質や癖によるものではなく、綿密に 考え抜かれた解釈ゆえと思われてなりません。ドラマへの共感あればこその素晴らしい演奏です。
◎ベートーヴェン/ミサ・ソレムニス
作曲時期や規模からして、「最高傑作」と呼ばれるのも理由の無いことではないと は思うのですが、私は未だそう思ったことはありません。
eleison (憐れみたまえ)を短い音符一つで歌わせるキリエ。「信じるぞーー!! バンザイ!」といった感じのクレド。
それでも、抵抗が少なく聴ける演奏としては、
クレンペラー/ニューフィルハーモニアO. (CD:EMI '65)
神様は蚊帳の外の音楽なんだから・・とは、私の勝手な思い込みです。