クライバン・キャットが選んだ名曲名演
「小さな曲」



◎モーツァルト/ピアノ協奏曲第19番

>>ハスキル/フリッチャイ/BPO (音楽の友社/DG ORG 2003他)

 愛らしい演奏です。ピアノの第一音がなんて可愛らしいことか。モノラルながら、 うっとりしてしまう瞬間です。気負いを一切感じさせない自然なタッチ。  無心・純粋といった言葉がぴったりきます。

 ハスキル60歳頃の録音。そういえば、ラローチャがここ数年手がけているモーツ ァルトも無心とは言えませんが可愛い演奏ですね。女性はある年代になると心の中の チャーミングさが増すんでしょうか?

 フリッチャイの指揮もハスキルのピアノとしっくりくる端正な演奏。縦の線が時々 あっていないようですが、味があって、精巧メカの今のBPOとは別物の良さがある と思います。




◎ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第1番

 「雨の歌」、素敵な曲です。

>>デ・ヴィート(Vn)/フィッシャー(Pf)  (CD:TESTAMENT etc.)

 オーソドックスな解釈ですが、ふと棚から取り出して聴きたくなる、そんな演奏で すね。
 ma non troppo, molto moderato の指示を生かした穏やかなテンポ。ゆっくりした 流れの中で美しいメロディを歌いきってゆきます。録音は古いのですが耳を澄ませば 、濡れるようなヴァイオリンの音色が・・・


>>O.カガン(Vn)/S.リヒテル(Pf) (CD:OMAGATOKI SCW-1002)

 ’86年、宮城県の中新田バッハホールでのライブ録音。  烈しく切ない演奏です。まぶたをぐっと閉じて歯を食いしばらなければ、通過でき ない瞬間もあるほど。

 ソナタ楽章では、第2主題に寂しさをほのかに感じさせます。そして、Vnの下降音 型と追いかけるピアノ。ここでは、まだ美しい戯れあい。  展開部になると、徐々に音楽は激しさを帯びてきます。まるで、カガンとリヒテル がエネルギーを注ぎあっているかのよう。

 孤独な存在同士のカガンとリヒテル。ロンド楽章では、もはや別々の音楽を奏でて いるかのように。切ない寂寞感。そして、消えるような終結。

 終演後に録音されている盛大な拍手が物足らないほど、大好きな演奏です。




◎バーバー/弦楽のためのアダージョ

>>トスカニーニ/NBC響. (LP:ATS 101)

 トスカニーニによる’38年の初演の際の記録です。はやくCD化して欲しい一枚 。
 RCAのスタジオ録音は、音が枯れてしまっていて、素晴らしさを感じるには熟練 が必要かな。

 音の波は寄せては返します。そして、ひときわ大きな波が砕け散ったあとの静寂。 何かを失い、呆然と水平線を見やるように。  トスカニーニの演奏からは、たとえばバーンスタイン盤のような浮遊感は得ること はできません。でも、情感に乏しいようでいて、ロマンティックな過去の音楽に執着 する作曲家の孤独な後ろ姿が見えてくるような。

 初演の模様がラジオで放送された日からバーバーはもはや無名の若手作曲家ではな かった。アメリカン・ドリームの記録なんですね。




◎モーツァルト/ホルン協奏曲第1番

>>ジュスタフレ/パイヤール/パイヤール室内管 (CD:BVCC-109 '91)

 パイヤールの新盤のほうです。
 第一楽章第一主題のヴァイオリンの清澄な響きにまずうっとりします。 室内オーケストラならではの魅力。ホルンも「角笛」って感じで朴訥とした語り口が オケとピッタリです。

 最高の聴き所は第二楽章の二番目のエピソード。こんなにナイーブに吹かれたら、 もう降参ですよ。(ジュースマイヤーにより加筆された部分のようですが)




◎ブラームス/間奏曲イ長調作品118−2

 この曲、名演を選び出すのに、理屈も衒いも、おおよそ声高なものは一切不要。 続けて様々な演奏を聴き、こんな風に感じました。  その時、心に染み入ってきた演奏を選べば、きっと名演のはずです。

>>グールド/ブラームス間奏曲集(CD:CBS/SONY '60)




◎モーツアルト/ヴァイオリン協奏曲第5番

>>西崎崇子(Vn)/カペラ・イストロポリターナ(CD:NAXOS '87)

 優しくて、微かに揺れていて、時に鋭く、そして清潔な演奏です。  僅かな瞬間に移ろいゆくモーツァルトの心を感じます。  ソロによるアダージョの序奏が胸きゅんです。




◎バッハ/ゴルトベルク変奏曲

 ゴルトベルク変奏曲の第30変奏が2つの民謡を組み合わせた曲であることは、ご 存じですよね。
 そこで、この曲の楽しみ方のヴァリエーションをひとつ。  演奏に合わせて、歌ってみましょう!

Ich bin so lang nichit bei dir g'west.
Ruck her, ruck her, ruck her.
 (長いことあんたと一緒になれなかったよ。さぁさぁ、こっちにおいで)

Kraut und Rueben haben mich vertrieben,
haett' mein' Mutter Fleisch gekocht,
so waer' ich laenger blieben.
 (ごった煮はもうこりごり。おかみさんが肉を出してくれたら、もうちょっと我慢したのに。)
 母音の後の[e]はウムラウトのつもりです。

 Ich bin so...g'westが1小節から、Kraut und...vertriebenが4小節目からかな 。
(今一つ解らないのです。ご存じの方、ご教示お願いします)

>>Ralph Kirkpatrick(LP&CD:ARCHIV '58)

 この曲の楽譜の校正者でもあるカークパトリック。端正で落ち着いて聴ける演奏で す。折に触れてターンテーブルに載せる1枚。  ドイツ・グラモフォンの音楽史研究シリーズの中の一巻。ですが、研究臭さは感じ られません。彼自身の解釈と演奏法についての解説が、全音から出ている楽譜に20 頁ほど掲載されています。
 「喚起された情緒の範囲を超えた安らぎをさえもたらされている・・・」  うん、うん、演奏が具現化してますよ。

 仕事で燃えたぎってしまった日の夜など、決まったようにこの曲を聞きます。  最初のうちは、バスの変奏を耳が追っているのですが、いつしか気持ちが落ち着い てきて・・・・
 気が付くと、朝。気分壮快なんだなぁ!




◎ドビュッシー/シランクス

>>モイーズ(fl)(CD:EMI TOCE-7491-94)

 SPからの復刻盤で、針音がかなり目立ちますがフルートの音は案外と生々しく、 十分聴けますよ。
 ルーセルの「フルートを吹く人達」にモイーズの名前が出てくるので、以前から気 になっていた演奏家でしたが、やはり素晴らしいですね。フルート吹きにとっては神 様なんですってね。
 牧神パンの狂おしさ、のようなものを感じさせてくれます。






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