ラモのクラヴサン曲集(その2)

クラヴサン曲集(1724年)



ブチッケ:今晩は。おやおや、皆さんお揃いで。

デデ:お、ちょうどいいとこへ来た。まま、ずずいっと奥の方へ。

B:ほら、土産だよ。寿司屋のおやじがデデのとこ行くんなら持ってけって。

D:ダンケ、ダンケ。今みんなでラモのクラヴサン聴いてたんだけど、ブチッケも一緒にどう。

B:ほいほい。

CoCo:1724年の曲集は、譜面にははっきり書いてないけど、二つの組曲になってるね。

ガンバ:ホ調とニ調ね。

C:組曲にまとめる必然性は感じられないけど、ここらへんからラモらしさがよく出た曲が多くなるね。

D:それじゃ、ホ調の方から。最初のアルマンド、クーラント、ジグあたりはすっ飛ばして、「鳥のさえずり」あたりから。

B:中野振一郎もこれを弾いてたな(優しい恋わずらい Denon CoCo-78200)。

D:それじゃ聴いてみようか・・・

B:切れ味がすごいね。小鳥がピチュピチュさえずっているさまをなぞっただけの曲だけど、なんか優雅とか、かわいらしいって言うのとはちょっと違う凄みを感じるね。モルデントの鋭さがそれを一層際だたせている。後半に入ってすぐのブレーク、休符よりちょっと長めに感じるけど気のせいかなあ。

G:基本的には8+8で弾いてきて、後半の繰り返しのところで2カ所、上鍵盤を使うでしょ。あれがすごく効果的。

D:うめそうなトリだニャ。

G:ったくう。デデはうまいか、まずいか、だけで物事を判断するんだから。

D:きのう食った隣のカナリヤうめかったニャ。

C:ギルバートのも端正な演奏だね(Ar 427 176-2)。

B:後半のブレークの秘密がわかったぞ。中野の演奏では休符の前のgの音にすごくアクセントが乗っているんだ。だから、直後の休符が印象的なんだよ。

G:うん、そうか。ギルバートはグジョンの1749年ていう楽器を弾いてるけど、アルヒーフの録音は楽器の音色をうまく捉えていないわね。

B:でも、Denonの録音みたいにもやがかかったようなのよりはましだよ。

D:ルセの演奏は思い入れたっぷりだね。彼には珍しくゆったりしたテンポで、しかもルバートを多用している。だけどその分、例のブレークのところは中途半端かな。後半の鍵盤交替は中野の演奏とほぼ同じだね。楽器はエムシュの1751年。典型的なフレンチの音味かな。いわゆる、シャランシャランて感じ。ところでクリスティーもラモを弾いてるんだ。ちょっと聴いてみて・・・

C:これはおもしろいね。まず出だしの三小節ぐらいは序奏って感じで、思い入れたっぷりに弾いて、それから徐々にテンポを上げていく。レジスターはたぶん8+4だと思うけど、すごくデーハーな音だよね。

D:楽器はグジョン/スヴァネンって書いてあるけど、けっこう硬めの音ですっきりしてるね。クリスティーのソロってこれ以外に聴いたことないけど、少し長めのフレーズ毎に対比をくっきりと付けるやり方だね。即興的な感じもするし、少しロマンチックかな。じゃ最後にボーモン君のを・・・

G:ワーオ。この音って本当にステキ。今度はリュッカース/タスカンね。今まで聴いたうちで一番硬質で乾いた音だけど、すごくきれいね。たぶん8+4かしら。クリスティーとは対照的に、フレーズをかなり短めに取ってるのね。だからどの音も均等には聞こえない。それに左手のアクセントの付け方がいいわね。ビートが利いてるうぅ・・・って感じ。コープマンの演奏にも通じるものがあるのかな。バロックってこうじゃなきゃね。

C:それは、楽器の性能にもよると思うけど、この楽器は確かにすごくレスポンスが良さそうだね。それによく鳴ってる。でもこの曲に関しては、僕は中野の演奏が一番好きだな。

B:まあ、私も正直なところそう思いますな。

D:それじゃ次のリゴドンにいってみるか。まずボーモン・・・

B:これは短い曲だけど、ホ長調の第2リゴドンとの対比をどうつけるかってのが聞き所かな。ボーモンは8+4のレジスターで通してるね。わずかにテンポを落としているけど。それとrepriseごとにdoubleを挟んで弾いてるけど、こういうのって普通なのかなあ?

D:じゃあ、ルセのを聴いてみよう・・・

G:うぅううぐ。こりゃすごい。満艦飾。超ドハデ。超特急ネズミ。じゃなかった「のぞみ」。

中野振一郎(特別出演):(関西弁で)なんやて。のぞみ?ありゃほんとにすごいでっせ。乗ってるとガラスがピシピシピシピシって割れてくるんや。

G:たぶん、前の「鳥のさえずり」と後の「ミュゼット」との対比をつけたくてこうなったんだと思うけど。第2リゴドンでは、何カ所か鍵盤を交替してフレーズの対照をくっきり描いて、おもしろいわね。

D:それと、やっぱり第2リゴドンを通して弾いて、その後でドゥブルに入った方が自然かな、ルセみたいに。

G:でもルセは第1リゴドンにリピートしないのね。ドゥブルでおしまい。これもちょっと尻切れトンボじゃない?

D:それじゃギルバート先生のを聴いてみようか・・・

B:おっとりと構えた昔風の演奏ですな。私はこんなのも好きですよ。第1と第2の対比はほとんどなくて、ただ第2で左手にレガートを多用してますな。繰り返しも譜面通り。ただし、ドゥブルのあと第1には戻らない。

G:ふむふむ、ここらが妥当なセンかな。クリスティーはどう・・・

C:これはなかなかエレガントな演奏だね。テンポをゆったりと取って、部分的にイネガってる。基本的に8+8だけど、第2リゴドンの繰り返しで上鍵盤を弾いてみたり、いろいろ細工してるね。

D:ギルバートがレガートで弾いてたところは、ことごとく鋭いスタッカート。同じ譜面を使っても、感じ方っていろいろあるモンだニャ。僕はこの弾き方けっこうしっくりくるね。次は、ロンド形式のミュゼットとタンブラン・・・

B:ボーモンのミュゼットは、ロンド主題をバフ・ストップ、その他はたぶんB8'。演奏会だとなかなか、バフ(牛革)なのかフェルトなのか聴きわけるのは難しいけど、このレコードだとはっきりバフだってわかるね。

D:ホント〜???豚の皮じゃない?ひょっとしたらトリだったりして。たれつけて食うとうめえのよお〜。

B:お前、本当に食欲だけだなあ。バフだと調整の仕方にもよるけど、フェルトほど完全には音が止まらないんだ。たとえて言うと三味線のサワリみたいな感じかなあ。ジーンって音が多少残るんだ。この味がなかなかいいんだなあ。

D:そんなにうめえのかあ〜

G:ゆったりしたテンポでドローンの音を聞かせてるわね。テーマもきれいだけど、ドローンのズワーンっていうのがいいわね。それから第3ルプリーズっていうのかなあ。最後のところでトリがさえずるようなトリルをたっぷり聞かせるのもいいわね。

C:タンブランっていうのは、ビゼーの「アルルの女」で使う、あの胴の長い太鼓だろ。これもドンどこドンどこ土俗的な雰囲気がいいね。ボーモンはこれも普通よりは多少遅めのテンポで弾いてるね。

G:出だしに4小節分低音だけ聞かせて、それから主題を弾きはじめるのもしゃれてるわ。どれが太鼓の音かっていうと、低音じゃなくてメロディーラインの方よね。低音はミュゼットと同じようなドローンで。

D:そうそう。だからこの2曲って、長調・短調、遅い・速い、っていう対の曲みたいだね。ルセはどうかな・・・

B:ルセのミュゼットはバフを使わずにB8'。そのあとはFとBを交互に使ってるね。ボーモンよりももっとゆったりとした、ロマンチックな演奏じゃないかな。とくに最後の鳥のさえずりの所は、これでドーダって感じ。思い入れたっぷりだね。タンブランの方も思ったよりは速くない。第2ルプリーズメロディーラインが右手・左手と何回か交替するところの和音の弾き方がいいね。キレがある。

G:最後の一節だけF8'でちょこっと繰り返すのもしゃれてるわ。クリスティーはどんな感じかしら・・・

C:ふ〜む。ミュゼットはやけにゆっくりと情緒たっぷりだね。これだけ遅いと一つのルプリーズのなかで鍵盤交替ができる。というか、音色を変えないと時間がもたないのかな。

D:例のさえずりの所もテンポと関係なく歌い込んでるけど、でもなんかとってつけたみたいだな。タンブランはここまでの三人が驚くほど同じテンポ感だね。以前は、この曲をすごいテンポで弾くのが流行ったことあったけど、もうああいうのはなくなったのかな。

G:ギルバートのミュゼットも端正な弾き方ね。不均等リズムはぴったり2:1。さいごの鳥のさえずりの部分もイン・テンポね。

C:タンブランもちょっと遅め。絶対にテンポを崩さないけど、よく聞いてるとフレーズの作り方がすごく几帳面だね。

D:じゃ最後に田舎風。ギルバートから・・・

B:これも几帳面ですな。ロンドだけど第2ルプリーズの16分音符の音型がそのまま伴奏の左手に残って、最後のロンド主題になし崩しになだれ込む。この感じがいまいち出てきませんな。テンポをもうちょっと上げないと・・・

D:それじゃルセを・・・

G:これは結構いける。テンポはもちろん軽快だし、16分音符になってからの弾き方が面白いね。ロンド主題が回帰してきても、伴奏の左手を8+8で弾いて、テーマは上鍵盤。バリバリバリっていう低音の合間から、始めの主題がかすかに顔を出すって趣向かな。まあ、メロディーラインよりもリズムやテンポ感を重視する弾き方も面白いよね。クリスティーはどんな感じかなあ・・・

D:どうなのかなあ。クリスティーはあまり録音を意識していないというか、綿密にレジスターのプランを練っていないんじゃないだろうか。自分の楽しみで弾いているっていう雰囲気。気ままに上下の鍵盤を弾きわけているけど、それがあまり効果的ではないね。それから、フレーズの作り方もちょっとすっきりしないなあ。「字あまり如何」って感じの所もあるし。ボーモンはどうだろう・・・

G:うん。やっぱこれかな。二段を弾きわけているけどルセみたいにカプラーを使うとやっぱりどこかアンバランスなところが出てきちゃう。その点ボーモンはBとFの音色の違いだけで聞かせて、しかもフレージングがすごくしっくり受け入れられるから、音楽が流れるわね。

C:僕はルセみたいにデーハーにやるのも好きだけど。


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