人間の眼は、
本当に静止しているものは見えないという。
世界を見ることができるのは
眼球がいつもすごく細かくふるえているから。
レム運動。
眼ははじめて開いたその日からずっとふるえている。
僕は眼に見えないものを見ようとして
がむしゃらに手をつき伸ばす。
ときには言葉に頼ってみたり。
こころがモノを見るというなら。
こころにレム運動は無いのだろう。
失ったものばかり見てしまうのは、
手のなかにあるものは動かないから。
手のなかにあるものを見ることはできない。
指と指のあいだから
こぼれ落ちていくときだけ
赤と緑のコントラストを放って
それはくっきりと僕らの眼に認識される。
欠くなってからその存在に気がつくこと。
欠くなるときでなければその存在を見ることはできない。
そもそも、眼球なんて2つ揃わなければ
遠近感さえつかめない不完全さ。
ましてやこころに至っては。
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