#08 レム運動

人間の眼は、
本当に静止しているものは見えないという。
世界を見ることができるのは
眼球がいつもすごく細かくふるえているから。
レム運動。
眼ははじめて開いたその日からずっとふるえている。

僕は眼に見えないものを見ようとして
がむしゃらに手をつき伸ばす。
ときには言葉に頼ってみたり。

こころがモノを見るというなら。
こころにレム運動は無いのだろう。

失ったものばかり見てしまうのは、
手のなかにあるものは動かないから。
手のなかにあるものを見ることはできない。

指と指のあいだから
こぼれ落ちていくときだけ
赤と緑のコントラストを放って
それはくっきりと僕らの眼に認識される。

欠くなってからその存在に気がつくこと。
欠くなるときでなければその存在を見ることはできない。

そもそも、眼球なんて2つ揃わなければ
遠近感さえつかめない不完全さ。
ましてやこころに至っては。



- previous home following -


Copyright 1996-2000 Miki OKITA. All Rights Reserved.