総務庁行政監察局による勧告
1998年5月、総務庁行政監察局から、厚生省と文部省に対して「児童福祉対策等に関する行政監察結果」という勧告がなされました。このページでは、この勧告の中で保育園に関係のある部分について紹介します。
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児童福祉対策等に関する行政監察結果の紹介
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内容をかいつまんで書いてみました。
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総務庁勧告の感想
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こっちは感想です。
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幼保一元化への道?
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文部省と厚生省が協力をはじめました。
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児童福祉対策等に関する行政監察結果の紹介
1998年5月11日付で、総務庁から、
児童福祉対策等に関する行政監察結果 という勧告が、厚生省および文部省になされました。
この勧告のメインは、「あまりに実際の保育ニーズに保育園は対応していない」というお叱りです。
以下、総務庁のお叱りについて解説してみました。
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三歳未満児
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言うまでもなく、育休・産休明けから働く親には必須のニーズです。 その一方で、人手を要するために、保育コストがかかります。
総務庁によれば、保育所に対して交付される補助金は、 三歳未満児は安すぎるとのこと。
普通に考えれば、コスト意識の高い私立の方が嫌がりそうなものですが、 実際には逆。公立園の方が三歳未満児を受け入れていません。
三歳未満児の保育は、私立園の方が積極的な傾向にあります。 所沢市、尼崎市のように、私立園は0歳からOKだけど、公立園は1歳から、
という自治体もあります。
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22時までの夜間保育
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全国でたった、38個所しかありません。それも全部私立園。 スーパーやデパートの営業時間を考えてもわかるとおり、
かなりのニーズがあることは自明です。 現に、夜間保育を実施している園では、目いっぱいの子どもを受け入れています。
ところが、なんとかしようという気がぜんぜん自治体にはない。はぁ。
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延長保育などの特別保育事業
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いわゆるエンジェルプランの一環である特別保育事業があまり進んでいない。
一つは、補助用件・補助内容が足を引っ張っているため。 吹田市で「延長保育の利用料を少々取ったところで、集金コストの方が高く付くので、
延長保育の利用料はとらない」と言ったところ厚生省から、 「じゃあ吹田市は金持ちなんだから、延長保育に補助を出さない」と横槍が入ったとか。
もう一つは、公立園の取り組みが不調のため。
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認可基準の緩和
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私立園の経営は今まで、社会福祉法人の専売特許でしたが、この制限の廃止も勧告されています。
保育運動ではたぶん、猛反対すると思います。 「こどもを金儲けの道具にするな」とか「営利企業に税金を入れるのはけしからん」
とか言って。 もちろん本気でこどもを心配してそう言っている人も知っています。
いろいろ保育について調べていくうちに、裏が見えてきましたがね。
でもわたしは、この制限をはずした方がいいと考えています。 そもそも社会福祉法人が必ず善意に満ちているとは限りません。
役所の監査をごまかして、補助金をちょろまかしているという話もしばしば聞きます。
彩グループの事件もありました。 東大阪市の公立保育園民営化が問題になりましたが、
民営化先の社会福祉法人の理事長は、脱税・厚生年金不正受給などで知られたあの清水元市長ですからねえ。
それだったら、保育内容や財務状況をきっちりディスクローズした上で、
営利にも入ってもらった方がよっぽどすっきりすると思います。大都市圏では、無茶苦茶に保育の供給が不足している地域があります。
そういう処では、とにかく新規参入を促さないことには、 質の悪い保育を利用するか専業主婦を選ぶかの、究極の選択をせまられる人が増えるばかりです。
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幼児教育
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多くの幼稚園で、17時までの延長保育を実施しています。 これは、共働きの親の要請にこたえてのことです。
保育園の標準的な保育時間もそんなものです。 で、「厚生省と文部省で縄張りにこだわるのは止めて、幼児教育のあり方と
公的助成について一緒に考えんかい」というお叱りがきたわけです。 今後、厚生省と文部省がどういうアクションを起こすか、よく見守る必要があります。
公立保育園が特にニーズにこたえていない、という話がいっぱい出てきました。
公立が延長保育に及び腰な傾向があるのはよく知られたことですが、 三歳未満児の保育にも消極的だったとは驚きました。
実は障碍児保育ですら、公立の方が実施率が低いんだそうですが。
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総務庁勧告の感想
児童福祉対策等に関する行政監察結果の正式版を入手しました。感想やら耳にした反響を、つらつら書いてみます。
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親サイドの反応。おおむね歓迎。規制緩和を心配する声あり。
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保育者サイドの反応。「親の便利ばっかり考えて、こどものためにはならない」。
うーん、どうしてこう「親の幸せ」と「子供の幸せ」を対立軸にしたがるのじゃ。
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夜間保育について。今年度から東京都小金井市は、デパート職員など一部の職業について、
延長保育の利用を拒否する方針を打ち出しました。 これらの職業は、どうせ終業時刻が遅く、延長保育だけではカバーできない、
それなら通常保育時間以降は各自で対処してくれ、ということだそうです。 その後、抗議が相次ぎ撤回しましたが。
という話を最初聞き流していたんですが、よくよく考えてみると、 小金井市は、夜間保育の需要がかなり存在していることを認識しているが、何もする気がない
ということですよね。ぷんぷん。怒れ小金井市民! 夜間保育園を準備してからこういう措置をとるなら、まだしも理解できるんですが。
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低年齢保育が進んでいない理由の一つに、 労働組合が『労働強化につながるから』と反対した事例があったんだそうです。
そりゃ、低年齢児の保育は肉体的にも精神的にも、よりキツイと思いますよ。
でも、労働時間が延びたり、大きくシフトするわけじゃないんです。 出産退職しない女性には必須の保育ニーズです。
それを「労働強化」で蹴飛ばされたんじゃ話にならない。 そーゆーこと平気で言う保母さんのいる保育園は、
とっとと民営化されて世間の風を浴びてください。
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この勧告の効力について、総務庁行政監察局に聞いてみました。返答は以下の通り。
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勧告に強制力はない
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半年後、一年後くらいのスパンでフォローアップはする
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フォローアップの結果は公表しない。ただし、問い合わせには応じる
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とりあえず、勧告の原文を送ってもらいました。なんせ200ページ以上あるから大変。
半年したら、フォローアップの結果を聞くつもりです。 忘れないようにスケジューラに登録しました。
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この勧告、保育問題のすごく貴重な資料集です。総務庁行政監察局に連絡すればくれますから、
関心のある方は入手をお勧めします。
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規制緩和を勧告しているわけですが、規制がぜんぜん子供を守っていない実態があります。
一部の規制は既に緩和されていますが、新規参入を促す意味でも、営利企業の参入や、
保育園の敷地の所有者に関する規制などを見直してほしいものです。
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幼保一元化への道?
厚生省と文部省が連携して、「教育・児童福祉施策連携協議会」が旗揚げしました。いわゆる「心の教育」の実現のために、厚生省と文部省で情報交換をしよう、というものです。さて、この協議会の活動内容の中には、
幼稚園と保育所の連携の促進 が含まれ、以下の内容がリストアップされています。
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教育内容・保育内容の整合性の確保
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幼稚園教育要領や保育所保育指針の改訂に際しては、教育課程審議会や中央児童福祉審議会への相互の関係者の参画や両省間の協議を通じ、内容の一層の整合性を
確保。
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幼稚園教諭と保母の研修の合同開催
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新幼稚園教育要領の趣旨説明などを内容とする研修の対象に保母も加え、厚生省の協力を得て開催。
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他の国レベルの研修について、文部省と厚生省で共同して発足した検討会である
「幼稚園と保育所の在り方に関する検討会」において合同開催を検討するとともに、都道府県等レベルの合同研修の開催を働きかけ。
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幼稚園教諭と保母の人的交流の推進
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市町村において、地域の実情に応じて幼稚園教諭と保母の人的交流が行われるよう働きかける。
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幼稚園教諭と保母の養成における履修科目の共通化
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幼稚園教諭と保母の養成における履修科目について、どのように共通化できるかを「幼稚園と保育所の在り方に関する検討会」において検討。
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幼稚園と保育所の子育て支援に係る事業の連携実施
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子育て相談や子育てサークルの支援などを地域の実情に応じて幼稚園と保育所が共同して行えるよう、文部省の幼稚園における子育て支援活動推進事業と厚生省の保育所における地域子育て支援センター事業を連携して実施。
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公的助成及び費用負担の在り方の検討
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幼稚園と保育所のそれぞれに対する公的助成や保護者の費用負担などの在り方について「幼稚園と保育所の在り方に関する検討会」において検討。
総務庁から受けたお叱りが少しは効いたのかしら。 さてさて、「幼稚園と保育所の在り方に関する検討会」というキーワードが出てきました。覚えておくことにします。
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