規制緩和委員会の動き

まずは、以下の規制緩和委員会の議事録をお読みください。
http://www.kantei.go.jp/jp/gyokaku-suishin/991112dai10.html

児童福祉法の改正時には厚生省は、認可保育園への営利参入などは全く考えて いませんでした。ところが、総務庁や経企庁と言った他の役所から、待機児 問題をつつかれて、しぶしぶ運営主体に関する規制を緩和しました。

ところが、「そんなのてぬるすぎるぜ厚生省」という声が上がりました。 待機児数万人というのは氷山の一角であり、働きたいのにやむなく専業 主婦をしている育児世代の女性が140万人いる以上、保育に対する真の ニーズはもっともっと大きいはずである。現行の、認可保育園に対する 厳しい参入規制がもたらす売り手有利状態が、保育ニーズの供給をはば んでいる。しかも現在の規制には、絶対必要なもの(面積や保育者の比率) と、たぶんそうでないものがごっちゃに入っている。そうでないものは 緩和すべきではないかと。

という意図で、保育新規参入組、既存保育業者、保護者、行政の代表を 加えて議論したのが上記にURLを示した議事録です。規制緩和委員会側の 意図としては、バウチャー(保育版商品券)制の導入・最低基準の大幅緩和 (特に設置主体・賃貸OK・調理室をはずす)があります。厚生省は保護者と 既存業者と一緒に、ひたすら防戦態勢に入っていますが押されています。

バウチャーに関する議論がきちんとされていないこと、利用者保護の仕組 に述べられていないことなど、いくつかの点をわたしは危惧しています。 こういった点を整理して規制緩和委に届ける必要があると感じています。(1999/11/24)

というわけで、ぼそぼそと意見書を書きだしました。が全然進みません。 たぶんこの議事録の中で、「規制緩和委」と書いてあるのは八代氏だという検討はつきます。 というのは有効な反論を書く上でのヒントになるでしょう。 氏の保育制度に関する見解は、日経新聞や書籍などでかなり発表されているからです。 「理屈どおり考えればこういう線になろう」と言ったところでありますが。

意見書(要旨)

保育サービスを論ずるにあたり、「供給量」、「保育の質」、「広がり」(延長保育、休日保育、一時保育等)の三つの観点から論じるべきである。供給量は民間参入と補助金で、広がりは競争で確保できるが、競争で保育の質を上げるにはそれなりの仕掛けが必要だ。

  1. 認可保育園は、かかっている保育コストに対して、「広がり」のみならず、「保育の質」にもしばしばある。体罰・暴言・無視と言った論外な保育もしばしば起きている。認可保育園への新規参入が困難なことから、健全な競争が起きず、モラルハザードが生じていると考えられる。
  2. 現状では、保育に対する事前規制でさえ有効に機能していない。事後監視はほとんどおこなわれていない。金儲けに走る社会福祉法人も少なからず存在するために、「非営利でこれなら営利はもっとひどいのでは」と、営利参入に対する保護者の不安も招いている。
  3. バウチャーを導入しても、公立保育園は依然として高コスト体質であろう。また、保育に関する国家予算を大幅増額しない限り、私立保育園の保育の質は、望ましい水準以下になろう。
  4. 幼稚園を利用する共働きが増えている。幼稚園も保育サービスの対象として考慮すべきである。また、学童保育についても考慮の対象とすべきである。保育園に比べて学童保育は充実していないために、小学校入学を期に退職する例もある。
  5. 事前規制は、人員・面積基準のみでよいのではないか。調理室については、現状でも分園においては必須ではない。保育園の場合は、保育士免許の科目を一部減らしてもよいのではないか。
  6. 事後監視については、園からの情報公開と、保護者からの情報公開、第三者によるトラブル仲裁機関が必要である。保育の質の評価に関しては、内外にいくつもの試みがある。これらを積極的に取り入れるべきであろう。
  7. 保育者の質を確保するしくみおよび保育の質のベンチマークとして、公立保育園は、現場に権限を委譲し分権化した上で、残したほうが良い。

本文は、、、まだまだ書けない、はぁふぅ、、、(1999/12/11)

第二次見解発表の感想

コメントが書けなくてうなっているうちに、第二次見解が発表され、政府に提出されてしまいました。 公開討論の時と、ずいぶん雰囲気が違うんですが、、、 以下の点で非常にがっかりしました。

  1. 公開討論では、一から保育制度のあるべき姿を組み立て直す、という気概が 規制緩和委側に感じられたが、これでは現状にパッチを当て続けてきた厚生省 の今までの方向と変わらない。一から考え直した結果が、現状制度にパッチを 当てたものだというならばともかく、そうではないようだ。
  2. 1.とも関連するが「市町村を指導する」の文言が目に付く。保育における公 的保障が大して役に立っていないから、保育に関する規制緩和が求められてい るのではなかったのか?
  3. これは規制緩和委に対するガッカリではありませんが、非常勤保母による、 乳児定員の弾力化について。最低基準に非常勤保母が導入された当初、わたし はこれを非常に朗報と受け止めました。これで年度途中の入園がだいぶ楽にな ると。しかし、実際にはわたしが期待したような使い方は全然されていなかっ たようですね。がっかり。> 認可園経営者 & 自治体
  4. 幼稚園および学童保育まで含めて、保育について論じて欲しかった。「末子 の年齢別母親の就労率」という統計が出ています。これを見ると、末子が小学 校に入学すると、パート就労はグンと増えますが、フルタイム就労はほとんど 増えない。おそらく、学童保育の不備によるものだと思います。
  5. 討論で何度も出てきた行政の役目・事後フォローの話が全然出てきません。 まずはここからでも取り掛かるべきではないでしょうか。

バウチャーについてですが、保育に対する公費のかけ方を論じる上では、避け て通れない論点だと思います。現行の制度では、保育に対する公費の配分を、 どう分配するかという問題については応えていません。 引き続き検討すべきだと思います。

調理室については、なくてもよいとわたしは思います。そもそも、給食産業が 存在しなかった50年前の遺物ではないでしょうか。本園で調理して分園に運ぶ のがよくって、調理センターで調理して保育園に運ぶのがダメというのは、奇 異に感じます。 分園制度ができた時には、本園から食事を運ぶことについて 特にクレームはなかったと記憶しています。しかし、規制緩和の話で調理室 をなくそうと提案すると、こぞって保育界の人は反対します。分園は自分の メリットになるから、調理室がなくても反対しない。調理室の最低基準から の廃止は、新規参入をうながし、自分のおまんまの食い上げにつながるから 反対。そんな業界エゴがみえみえです。

直接入所については、待機児問題が解決してからという条件付きでよいと思い ます。

賃貸OKは異論なし。


認可保育所の設置認可に係る規制緩和に対する意見

そうこうするうちに、厚生省から認可保育所の設置認可に関する規制改定案が 提出されたので、パブリックコメントを提出しました。 以下に全文を公表します(ただしHTML化にあたって若干の手直しをしました)。

要旨

現在の認可保育所の制度に起因する問題点は、三つある。
  1. 待機児問題の深刻化。住宅地の造成・大規模マンションの建設等によって、 大きく揺れ動く保育需要に対応できない。また、都市部では圧倒的に、保育所 の供給が不足している。
  2. 新規参入が容易でなかったために、認可保育所間にカルテルが生成されてい る場合が多い。このカルテルが、意欲的な他園の足を引っ張ったり、新規認可 を阻むと言った現象も散見される。
  3. 多くの待機児およびカルテルが存在するために、一部の認可保育所で、暴 言・体罰の使用、手間のかかる子を追い出しにかかる、名目をつけて本来保護 者から徴収すべきでない金を取るなど、モラルハザードが起きている。

この問題点を解決するには今回の規制緩和は、参入のための障壁が依然高いた め、待機児を大きく減らすにいたらず、また競争が十分におこなわれないため に、保育の質およびサービスの向上が見込めない。この点を解決するために、 以下の八点について提案する。

詳細については本文にて述べる。

本文

わたしは「保育についてあれこれ考えるページ」というホームページを作成し、 二百数十を超える保育所の保護者からアンケートを取っている。また、八つの 保育関連のメーリングリストに加入し、いくつかのワーキングマザー向け掲示 板にも参加してきた。その中で、保育制度の参入障壁に起因する一部の認可保 育所の深刻なモラルハザード・私立保育所間のカルテル・待機児問題の深刻さ について、多くの実例を知った。その経験から以下、認可保育所の設置認可に 係る規制緩和に対してコメントする。

保育需要の把握による供給調整

自治体による、保育需要の把握は、実際問題として不可能である。「空きがな い」「求職者は利用できない」「求職者は優先順位が低いから無理」等と役所 でブロックされた者、保育所に入れなくて退職した者、その地域の保育所の保 育の質に問題があったり、保育時間や受け入れ月齢等にミスマッチが起きてい て認可園に申し込まない場合などは、そもそも待機児としてはカウントされな い。四万人とか三万二千人とかいう待機児の人数の裏には、もう一桁多い潜在 需要が隠れていると考えられる。

少し古い例ではあるが、福島市では1992年時点で公立保育所の定員充足率は 60%であるが、認可保育所より無認可保育所の児童数の方が多くなっている。 このような場合、待機児の数だけ数えていては、「保育需要がない」と判断さ れてしまうだろう。

従って、自治体は保育需要の把握による供給調整をすべきではない。需要の把 握は参入希望者に全面的に任せるべきである。保育需要を見誤って倒産したと しても、それは参入者の責任であって、自治体の責任ではない。また新規参入 した保育所に子供を取られて既存の保育所が倒産したとしても、それは既存の 保育所に努力が足りなかったからであって、自治体の責任ではない。

社会福祉構造改革の実施で、社会福祉法人にも競争原理が導入される予定であ る。よって、「社会福祉法人だから潰せない」という時代ではもはやない。既 存の社会福祉法人の倒産は、避けるべきではない。倒産した保育所に通う児童 の処遇については、後述する。

認可申請の処理プロセスの透明化

現在、同一自治体内での私立認可園が、カルテルを組み、新規参入をはばむ例 が散見される。待機児が何百人といるにも関わらず、「新規参入には市内私立 保育所会の承認が必要」「新規参入には近隣保育所の承認が必要」などのロー カルルールが存在するために、少子化対策臨時特例交付金で一つも保育所が新 設されなかった自治体も存在する。参入規制が例えなくなっても、これでは保 育所は決して増えない。また、営利等異質の供給者が参入できないため、カル テルが弱まることがない。

カルテルが存在すれば、正常に市場原理が働かないため、サービスの低下や、 特別保育事業への取り組みの横並びや足の引っ張り合いが起き、利用者に不利 になることは言うまでもない。現に、予算や年間計画作成に、他の保育所の承 認が必要などと言った事例がある。

不透明なローカルルールによる認可拒否または引き伸ばしを防ぐため、認可申 請処理のプロセスを明らかにし、認可しない場合はその理由を公表すべきであ る。

新規法人の参入

「保育所を作りたい」と考える母親は少なくない。現状の保育所は、安心して 預けられない園が多く、延長保育等のサービスはまだまだ少なく、それでいて 都市部ではどこかに入れれば恩の字、という状況にあるからだ。しかしながら、 認可保育所への参入障壁は高く、無認可保育所の経営はあまりに厳しすぎる。 このため、保育に対するニーズを肌で知りぬいていても、保育所を起業するこ とができなかった。

このような母親が多い証拠に、わたしの住む広島市の児童福祉課担当者は、 「脱サラして保育所を作りたい人なんて、何百人いますよ」と言う。この人た ちの何割かでも起業すれば、待機児問題の解決と、保育の質の底上げの両方が はかれる。親の立場に立って運営をする保育所が増えれば、既存の保育所にも よい刺激となろう。「子供の為に」と称して、保育者サイドの都合を押し付け る園は、まだ珍しくない。中には、生後半年で断乳を迫るケースもある。母乳 の子は手がかかるので、保育所にとっては面倒なのだ。

横浜市には、「ウォーブンハーツ」という企業がある。五児の母である小宮山 真佐子さんが、「働こうとしても我が子を託せるところがなかった」という体 験をもとに、横浜式保育室制度を利用して保育所を起業したのだ。ここでは、 親と子の立場に立った、きめの細かいサービスを提供している。新規法人の参 入が相次ぎ、各地に続々と小宮山さんが誕生することを願う。

社会福祉法人以外に対する審査基準

社会福祉法人以外の者による設置認可申請の審査の基準にかえて、なんらかの 認定プログラムを実施することを提案する。以下の二つの理由から、外形的な 審査基準は縮小すべきである。

まず、外形的な基準は、不当に新規参入をはばむ材料にされるおそれがある。 例えば「経営者が社会的信望を有すること」という項目を理由に、主婦や会社 員の参入が妨げられることもあり得る。エの「不正又は不誠実な行為をするお それがあると認めるに足りる相当の理由がある」程度でよいのではないか。

次に、外形的な審査基準は、保育の質をなんら担保するものではない。社会福 祉法人であっても、良心的なサービスを提供するとは限らない現状で、そのこ とは証明されている。

代わりに適切な認定プログラムの実施を提案する。オーストラリアでは、補助 金が交付される保育所では、National Childcare Accreditation Councel(NCAC)による、Quolity Improvement and Accreditation Systemとい うプログラムを実施し、NCACによる認定を受ける必要がある。このプログラム の導入により、保育プログラムの質の保障が可能になった。設立団体が何であ ろうと、また既存の保育所についても、このようなプログラムを実施すること を望む。

家賃補助

保育需要は、大規模マンションの建設、住宅地の新規造成によって、たやすく 変動する。また、一時期保育需要が増大した地域であっても、その近辺の住人 が子育て期を過ぎてしまえば、あっと言う間に保育需要は減少する。都市地区 のこうした事情を踏まえれば、保育所の新規参入および撤退は容易であるべき だ。このためには、借家・借地による保育所の運営は、もっと認められてよい。

また、社会福祉法人の会計制度が改訂され、減価償却の考えが導入されるなど、 「運営に直接かかる費用のみを保育単価として支給する」という考え方自体が、 現実と合わなくなっている。

具体的な方法については、保育単価に家賃加算を設けるという考え方もあるが、 保育単価に家賃または建物減価償却相当分を加えた上で、運営を弾力化する、 ということも考えられる。

また、最低基準の調理室必置義務についてもこの際見直すべきである。調理室 があると、防火要件を満たすのに費用がかかる。特に借家の場合は、撤退後の 原状回復にも費用がかかる。現在調理室の設置が義務付けられているのは、給 食産業のなかった時代の名残に過ぎないのではないか。

一年分の賃借料+1000万円

この項目は、事実上、良心的な無認可保育所の認可化を排除しているようなも のだ。また、新たに保育所を起業するにしても高すぎるハードルとなっている。 建物を賃貸で保育所を開く場合、ただでさえ最低基準の避難設備と防火設備を 満足させるために改装費用がかかる上に敷金を取られるので、初期投資が二千 万円程度はかかるのではないか。この項目は廃止すべきだ。

オンブズマン制度

現在、認可保育所の一部では、深刻なトラブルが発生している。保育現場にお ける体罰や暴言、あるいは親に対しての暴言、手のかかる子の追い出し、園の 都合を「こどもがかわいそうだから」と親に押し付けること、正当でない名目 の集金、開所時間の詐称などである。新聞沙汰になって初めて解決したり、自 治体の仲介によって解決されることもあるが、ほとんどは利用者の泣き寝入り に終わっている。

また最近の定員緩和措置に伴い、最低基準の面積・人員基準がないがしろにさ れている。本来は、最低基準を超えない範囲での定員オーバーのはずが、公立 であっても最低基準以下になっているケースが珍しくない。私立の場合、更に ヤミで自由契約児を入所させているケースもしばしばある。

加えて、経営主体の緩和により、最近の深刻な待機児事情に乗じて、志の低い 新規参入者が出ることも予想される。緩和から時間がたてば、悪質な業者は排 除されるであろうが、正常に市場原理が働くにはしばらく時間がかかる。

これらの問題のある保育所から利用者とこどもを守るため、以下の職務をおこ なうオンブズマンの制度を各自治体で創設することを提唱する。

なお首長は、報告された処理状況を、施設名も含めて公表すること。

オンブズマンの構成メンバーは行政が、有識者や保育団体等から複数任命する。ただし、中 立性を保つため、保育所を運営する団体の構成員などは任命してはならない。

倒産した保育所の処理スキーム

「保育所は潰さない」という方針を、「ひどい保育所は潰れるに任せる。ただ し園児のためにセーフティネットを設ける」に転換することを提唱する。

現在の保育制度では、保育所は潰さない、というのが制度の前提にある。その ために、保育需要の把握による参入のコントロール、土地建物の自家保有、賃 貸に対する多額の資産の保有が義務付けられていると理解している。

もちろん、通っている保育所の倒産は、子供にとっては望ましいことではない。 しかし「保育所を潰さない」という政策は、認可保育所のモラルハザードをよ んだ。たまたま近所に悪徳認可園しかない場合、利用者には選択肢はないのだ。

先日、次のようなメールをいただいた。以前、認可園に通っていた。しかし、 保護者会費は園長が管理し、なんだかんだでお金をそこから取っていく。ミル ク代と称して追加料金を取る。加えてテレビ漬け保育。市に訴えた所、嫌がら せがはじまり、子供の名前は呼び捨てにされ、行事にも参加させてもらえない。 遠足にも置き去りにされた。市に頼む、市議に頼む、園内で話し合うなど手は つくしたが無駄だった。幼稚園に転園した。そろそろ二人目が欲しい。だが、 次の子が生まれたら、この保育所に入れるしかないことを考えると躊躇する。

例え保育所が選べるようになっても、ひどい保育をしたら潰れるということ がない限り、保育の質向上には結びつかないというのが実感である。

保育所が倒産した場合、例えば次のような保護策が取れれば、入所児を保護す ることができる。

このような倒産処理スキームを、認可を受けるための契約条件として、あらか じめ盛り込むことを提案する。

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