天岩戸
…本編では端折ってしまいましたが、実はこの神社、岩戸川を挟んで西と東に分かれている。
東宮は天照大神を祀り、西宮は天岩戸をご神体としている。…つまり、祀っているものが少し違う。
天岩戸は、神域とされ、何人たりとも足を踏み入れることが出来ないし、未だだれも足を踏み入れたことがないという正真正銘の前人未踏の地である。
また、神域のため、写真撮影も禁止。かの地に足を運ばなければ、その姿を拝むことはままならない。
宮司さんに頼むと、西宮の、部外者立入禁止区域に入らせてくれ、天岩戸に関する話しを教えてくれる。そこは、天岩戸の川を挟んで対岸にある。対岸の天岩戸跡を二礼二拍手して参拝する。
岩戸跡と、いうのは、今はほこらではなくなっているからだ。岩盤が崩れて、単なる岩肌の凹みになってしまっている。
風はない。空気が留まっているのに、不思議なほどの清涼感。
宮司さんの朗々とした声が、空気に微妙な重さを添えている。その声は高くなり、低くなり、祝詞のようにも聞こえる。
背筋を伸ばして、二礼二拍手。『みんなが健康でいられますように…』と、つぶやきながら目を開けると、ぞくっと背中に緊張が走った。
…まるで、首筋に日本刀を当てられてるみたいだ。
身動きが出来ない。息が苦しい。得体の知れないなにかが、すぐそこにいるような…。
やっとの事で飲み込んだ唾が、やけに大きな音を立てる。
ひやりとしたのを見透かしたように、宮司さんの「では、参りましょうか」の声。
…助かった。
参拝した後は、妙にすがすがしい、自分の内側をクリーニングされたような気分だった。