ニューヨーク、ニューヨーク!
ちょっぴり贅沢をしたシカゴともお別れです。久しぶりに夜行バスに乗り込みました。
ベットで寝る生活に慣れた体には、厳しい夜になりました。
でも長距離バスに乗るのもこれが最後です。窓の外を流れるオレンジ色の街灯を見ながら、
今までの旅を思い出しているといつまで経っても眠れません。
やがて空がかすかに明るくなって来ました。周りはいつしか何も無い原野になっています。
ふとその時、バスの前の地平線からでこぼこしたものが現れてきました。
明け方の空をバックに地平線から出てきたものは、なんとマンハッタンの摩天楼達だったのです。
その姿は、徐々に全容を現してきました。隣で寝ていた相棒を叩き起こして、遂にニューヨークが
見えてきた事を伝えて、握手をしました。
やがてすっかり朝になり、フリーウェイはニューヨークへ向かう車で通勤ラッシュになりました。
ハドソン河にかかる大きな橋を渡って、最終目的地、マンハッタン入りです。
ニューヨークの長距離バスターミナルは、全米各地から出てきた田舎っぽいアメリカ人で
ごった返していました。
カーボーイハットをかぶったまま、はしゃいでいる牧場のせがれのような兄ちゃんもいます。
おなかも空いてきたので、早々にバスターミナルの外にでて、ストリートの屋台でホットドックと
コーヒーを買って、ニューヨーカー気分で歩きながら頬張りました。
道端の排水溝から湯気が出ていて、ニューヨークにやってきた事を実感しました。
さあ、活動開始です。メトロポリタン美術館に行って前から見たかった絵を見て、
昼食はイタリア人街で、メニューから当てずっぽうに選択して
(結構おいしい肉料理でした)、苦ーいエスプレッソを飲みました。
午後からは、地下鉄に乗ってブロンクス、ハーレム方面へ向かいまいた。(怖いもの見たさ)
当時の地下鉄は、外も中もスプレーの落書きだらけで、駅では、注射器を射したまま倒れている
人やら、デかいラジカセを鳴らしながらリズムをとっている人など、早くも刺激的な世界になっていました。
地下鉄の自動改札も、ヤンキー達はどんどん飛び越えていきます。
地下鉄に乗っている客層も、めちゃくちゃ怪しくなってきました。どうにか駅で降りたものの
地上にでてみて、こりゃ深入りすると駅に生きて戻ってこれないなあ、と悟り
ちょっと景色をみて、逃げ帰ってきました。
夜は、ビレッジに行きジャズのライブハウスへ。酒を飲みながら楽しんでいると、
ふらりとやって来て演奏したのは、あのウイントン マルサリスです。N.Y.でジャズの
大御所に会えるなんて、、なかなか痺れた夜でした。
夜も更けてきました。ビレッジでイエローキャブに乗り込み、
タイムズ・スクエアの近くの安宿にたどり着いたのは、12時を過ぎたころでした。
値切ったおかげで、ドアのカギが掛からない部屋になってしまいました。
窓の外からは、ピストルの銃声やパトカーのサイレンがしょっちゅう聞こえてきます。
物騒なN.Y.で、とんでもない部屋に泊まることになった訳ですが、自分の運を試してみることにしました。
ビビル心をバドワイザの一気飲みで、なんとか紛らわせてベットにもぐりこみました。
ちょっとした事件もありましたが、ジャズを聞いたりミュージカルを見たり、
セントラルパークでひなたぼっこをしたりと、N.Y.を堪能した日々でした。
日本へ帰る前の日の晩、雨が降ってきました。ストリートでは慌てて雨宿りする
カップルや、吹いていたトランペットをしまい込むミュージシャンの姿が
映画的でした。そう言えば、アメリカ入りしてから初めての雨です。
翌日、目を覚ますと、雨と共に夏は去ってニューヨークに涼しい秋の風が吹いていました。
私は、遠くにみえる自由の女神に心の中で別れを告げてJ.F.ケネディー空港へ
向かいました。
Fin