全体的な感想

作者は現代画家兼漫画家の加倉井ミサイル。
「Red Shadow 赤影」の漫画も描いた方です。
アークザラッド2発売時付近にスコラ社より刊行。
キャラクターの性格や容姿はゲームとはかなり異なります。
(ポコについては原作の方が好きだ・・)

この漫画の良さは、
強い主人公が自分の正義を振りかざして人を断罪する、
といった物語ではない事だと思う。

他と異なりアークは無邪気で善良な(普通の)少年として描かれています。
(でも父を神格化して憧れている所は同じ)

さらに、第一話では、ヒロインであるククル側の事情と、
アークの母ポルタの過去回想を交互に描く事で、
アークとククルの立場を複合的に描き、面白い効果をあげています。

原作はキャラクターの性格設定や基本シナリオは完全超悪だし、
ククルが弱め、ポコの性格が設定と合わないなどの難点が沢山ありました。

しかし、画面のひなびた雰囲気、セーブ&ロード画面の温かい雰囲気、
キャラクターの衣装や髪型、ミニイベント等に独自性がありました。
(商人チョンガラの特殊能力「調べる」で見れる絵もひなびてて良かった。)

独特の渋いドット絵世界(田舎のひなびた感じ)の雰囲気が
この漫画ではリアルに再現されていたので、とても感動しました。

表紙は当然ながら、カラーの口絵もとても奇麗です。
幸運にも手に入った人は汚さないように注意して取り扱いましょう(笑)
(私の持っている本はすでにボロボロなので。(泣))

漫画のキャラクターの衣装は独自の物。
(アークは戦国時代ごろの具足や剣に似た物を装備しています。)

また、ポコがやせていたり、おじさん連中が美形になっています。
神との契約の箱(Ark/アーク)も御神輿です。


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本文の引用とその感想

ヨシュア 「何のために食べ何のために生きればよいというのだ
 人を信じ人の未来を信じ国の人間のためによかれと思い
 国策に走り国中をかけずりまわり 挙句 殺されかけた!
 自国の人間に……守ろうとした人間にだ!
 人に……生きる価値はあるのか!?
 他の生命を奪ってまで人に生きる価値はあるというのか?
 もう私は疲れた……疲れたんだ 頼む 殺してくれ」
(ミルマーナ)

死ぬ寸前のところを助けてくれた娘・ポルタに向かい、
ヨシュア(アークの父)が泣きながら訴えるシーンから。
ポルタはその言葉を聞いて、彼の鼻先に彼の刀を突き立てますが、
ヨシュアは刀で自害せず、生きる道を選びます。
原作では忘れられがちなキャラクターを登場させるだけでなく、
なんらかのテーマ性を持たせようとする所は好感度高いです。

ヨシュアは世界を救おうとする、いわゆる「勇者」ですが、
理想に破れ、一度は普通の結婚生活を送ります。
このままでは人類が神に滅ぼされることを知っているヨシュアは、
息子アークやポルタの命を守るため、再び旅立つ。
しかし、ポルタはそのせいで精神を病んでしまいます。

自分が正義を貫こうとすることで、誰かが不幸になる。難しい問題ですよね。

とはいえ、原作では、スメリアの為にヨシュアが行ったミルマーナ人の虐殺等が、
ミルマーナの町人の台詞で少しは描かれていたのですが・・
漫画ではそれが出てこないので、批判要素が薄くなってしまい、残念です。


ゴーゲン 「見よ勇者達よ 人はこんなに エゴイストだ
 己の欲望を 満たすことしか 考えておらぬ
 裸の心を さらけだした これが本来の人の姿
 滅ぶべき 人間の姿
 我々の 守りたかった 人の姿」
(スメリア帰還)

七勇者の一人ゴーゲンの台詞です。
人間が犯した過ちがあまりにも大きく、
人類を救う価値はあるのかと問うゴーゲンに対し、
自分と親しい人が死んだら嫌だ、と涙ながらに訴えるアーク。
その姿はゴーゲンの心を動かし、アークに道を示します。

ゴーゲンは心の中で、再び人を信じることができた、
とアークに礼を言い、昇天します。
(ゲームでは、ゴーゲンは仲間になる)

アークは世界を救う勇者かもしれませんが、
精神を病んだ母ポルタを捨て置いて出て行った。

とはいえ、エゴイストでも、他人の不幸でも同情してしまうような、
不器用な『人間らしさ』がなければ普通の英雄と変わりません。


アーク 「これ以上 犠牲者を 出しちゃだめだ
 人が生き残る ためにやってる ことなのに
 もうこんなに 死んじゃったじゃないか
 これ以上人が 死んじゃうのはイヤだ!」
(アララトス)

トッシュの裏切りからシルバーノアは墜落。
アーク、ククル以外全滅した船内を、
盗賊団の団員チョンガラが捜索。

チョンガラは生き残ったアークに気づき、その命を奪おうとするものの、
返り討ちにしようとククルが銃を構える場面です。

口論の末ククルは発砲し、アークは身を挺してチョンガラをかばう。
驚愕するククル。その時、チョンガラの心の中に眠っていた良心が目覚め、
彼は所属する盗賊団を裏切り処刑されるのを覚悟でアークの命を救おうとする。

命の尊さに関する話題はゲームにはなかったので、新鮮でした。
(ただアイテムを遺跡から掘り出してくればいいってのも・・)

また、この物語は原作にあった良さを活かしているので、
原作とは異なり、善い人、悪い人といった区別は存在しません。

アークの伯父で、協力者のはずの国王も、ククルの幼なじみトッシュも、
個人的な事情からアークを裏切り、殺そうとします。

一人の人間は弱い。 自分にできることは少ないかもしれないけど、
それでも世界中のどこかで、辛い思いをする人がいたら救いたい。

そう心から願うのが優しさであり、
そのために身を犠牲にすることも一種の勇気ではないでしょうか。

ちなみに原作ゲームでは、アークは「情熱的な少年」で、
性格設定も顔も何もかもが格好良く善人として造形されていて、
2の主人公エルクとの絶対的な違いがありませんでした。

この漫画のように、もう少し差別化が図れればよかったと思います。
(でもそうしたら別のゲームになってしまうかもしれない)

この後、アーク達はグレイシーヌに向かい、
アークは大僧正の命を受けたイーガと試合します。
アークがイーガに負けたところで1巻はおしまい。
(原作のイーガは強いので、わりと原作に忠実な展開)

漫画はストーリーが中途半端な所で切れましたが、
こうありえた「アークザラッド」として見るのも良し。
一つの物語として、これから先の物語をいろいろ考えるのもよし。
復刊・続刊希望ですが、しなくてもいいとも思えます。
(雑誌連載のラストはあったらしいんですが、私は知らない。)


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