絶対静止系における特殊相対論的効果の新解釈

 

作成日:2000年5月25日

 

                               概      要

 

 現状の物理学は一般相対論と量子論が統一できない状況にあり、この状況から脱するためには、時空構造について革命的な発想の転換が必要だと思われる。さらに、特殊相対論の双子のパラドックスは完全に解決されたと考えられてきたが、依然として未解決であることが判明した。このことは物理学の根幹に関わる重大問題であるので、特殊相対論まで立ち返り、早急に再検討する価値があると考えた。このような視点から時空構造を再検討した結果、エーテル理論とは異なった新たな概念によって、絶対静止系の量子化2次元時空モデル上で、特殊相対論的効果を説明できることが証明された。特殊相対論的効果とは、光速不変の法則、時間遅れ効果、質量増加効果、エネルギーと質量の等価性の4つである。

 

 

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森 泰一(もり やすかず)

電子メール:sunrise2000@ehime.email.ne.jp

 

 

注:論文中における科学者諸氏の名称は、慣例にしたがい敬称を略させていただいた。

 

 

 

§1. 緒言

 古典電磁気学では、体積を有する荷電粒子は特殊相対論を満足できず、点粒子としてしか扱えないので、電子の電荷は発散してしまう1)。このような問題を解決するために朝永が繰り込み論2),3)を提唱したが、これは対症療法的な計算手法なので、発散問題の根本原因を解明することはできない。そして、このような状況は量子電磁力学2),3)においても何ら改善されていない。つまり、特殊相対論に矛盾せず、しかも発散を生じない電子をモデル化できる見込みがないのである1)。さらに、繰り込み論は重力理論3)には全く役立たない。そこで、超ひも理論1),3),4)とツイスター理論の両者から新しい時空理論が作られるのではないかと期待されるが4)、一般相対論と量子論3),5)を統一できる新しい時空理論は未だに見出されていない。このような問題が生じる原因として、従来理論で量子化されているのはエネルギーのみであり、空間と時間がいずれも量子化されていない点が上げられる6)

一方、アインシュタインは特殊相対論3),7)〜17)の中で、「真空の一点に速度ベクトルを指定する必要がないという意味で、光のエーテルを導入する必要がない。」と述べているが8)、一般相対論18)〜20)では重力場を説明するために湾曲した時空という概念を導入している。要するに、光の媒質としてのエーテルを導入する必要はなくなったが、光や物質が物理現象を生じるための舞台としての時空という概念は不可欠になった8)。しかし、時空は光のエーテルとは全く異なっているとはいうものの、その本質は絶対静止系ではないのかという疑問は残る。なぜなら、特殊相対論では慣性系が大域的に存在すると仮定しなければならないが12),13)、この大域的慣性系の正体がよくわかっていないからであり、一般相対論での測地線18)という概念が絶対静止系的な舞台をイメージさせるからである。いずれにしても、相対論はマッハの原理13)を満足するような完全な相対性の理論体系ではなく、言わば絶対性とマッハの原理の中間的な存在である。したがって、時空をある種の絶対系であると考えることもできるので、観測者が相互に対等であるとする特殊相対論の概念は本当に正しいのかという点が疑問になる。これまで私たちはマイケルソン・モーレーの実験が絶対静止系を完全に否定すると考えてきたが、エーテル理論では3次元空間が局所的に折れ曲がるという条件は考慮されてなかった。つまり、マイケルソン・モーレーの実験を満足するような3次元の絶対空間は否定されたが、次元を4次元まで拡張した条件下での考察はなされていない。しかし、そのことを理由にミンコフスキーの4次元時空を絶対静止系として考え直すことはできない。なぜなら、ミンコフスキーの4次元時空がある種の絶対系であるとしても、上述のように、観測者が相互に対等であるとする相対論の概念そのものに疑問があるからである。特に今回、完全に解決されたと考えられてきた特殊相対論の双子のパラドックスは、依然として未解決のままであることが判明した(付録参照)。このことから、特殊相対論の拡張版である一般相対論にも重大な欠陥が潜んでいると推定される。そして、その一般相対論と量子論が全く統一できず、行き詰まりの状況にあることを考え合わせると、物理学の根幹を揺るがす重大問題であると考えられた。

以上の考え方に基づくと、この状況から脱するためには、時空構造について革命的な発想の転換が必要だと思われる。つまり、マイケルソン・モーレーの実験は絶対静止系を完全には否定していないと考えられるので、エーテル理論とは異なった概念に基づいて絶対静止系を再検討する意義は極めて大きいと考えるべきである。したがって、特殊相対論まで立ち返って、これらの問題を解決できる新理論の完成を急がねばならないと考えた。そして、新理論が次の4つの実験結果と全く矛盾しなければ、宇宙が絶対静止系として構成されていると考えても差し支えないと考えた。4つの実験結果とは、光速不変、時間遅れ効果、質量増加効果、質量とエネルギーの等価性である。このようにして、ミンコフスキーの時空でもなく、エーテル理論的な絶対空間でもないという、ユークリッド幾何学的な量子化時空モデルを考案した。以下において、その内容を詳細に説明する。

 

 

 

§2.  理論

2.1.  基本仮定

2.1.1.  量子化された時空の幾何学構造

絶対静止系という言葉は定義が不明確なので誤解を招き易い。そこで、以下の内容をスムーズに説明するために、本報での絶対静止系について基本的な3つの仮定をし、それに関する新しい用語を定義する。

 

1-1  5次元空間内において、絶対静止系としての平坦な4次元空間が存在すると仮定する。このとき、4次元空間の単位体積を有する最小単位で4次元空間が構成されていると考える。

 平坦とは5次元軸方向への膨らみがないことを意味する。以下において、この単位体積を有する4次元空間の最小単位を時空ユニットと称する。そして、従来のミンコフスキー時空と混同しないよう、量子化されたユークリッド幾何学的な4次元空間を絶対時空と呼ぶことにする。したがって、本報での絶対静止系とは、物理現象を生じる舞台としての4次元の絶対時空を意味する。4次元絶対時空は時空ユニットの複合体である。その様子を2次元絶対時空モデルとして図1に示す。

 


 


1-2 平坦な4次元絶対時空が5次元軸方向にV字型に屈曲し、それに伴って、4次元絶対時空の5次元軸方向に関する起伏が、重力とは異なった新たな相互作用(第5の相互作用)を意味するようになったと仮定する。

 第5の相互作用とは藤井の提唱する内容21)とは全く異なる相互作用を意味する。また、絶対時空の急激な折れ曲がりを屈曲と表現する。以下において、V字構造の屈曲ラインを時空境界(Space-Time Boundary(STB))と称する。この絶対時空の屈曲に伴って5次元軸方向に生じた絶対時空の位置エネルギーは、周辺時空に対して時空境界が最も低い状態(基底状態)となると考える。このとき、第5の相互作用のスカラ値をZとし、その位置エネルギーをベクトルAとすると、その関係は、式(1)のように記述できる。

 A-grad Z             (1).

 

これによって、あらゆる素粒子は時空境界上に固定されると考えることができる。これは次元の視界が3次元に制限されたことを説明するための仮定であり、超ひも理論での次元のコンパクト化に対応する考え方である。時空境界とは私たちの3次元宇宙を意味する。

絶対時空のV字構造とそれに伴って生じる絶対時空の位置エネルギーを、1次元の時空境界モデルとして図2に示す。

 


 


1-3  時空境界が、常に4次元軸方向に運動していると仮定する。

  以下において、その4次元軸方向を時空境界の運動方向(Moving Direction of STB(MDS))と称する。したがって、4次元軸は時間軸を意味せず、時空境界の運動方向を意味する。そして、絶対静止系はミンコフスキーの時空としてではなく、デカルト座標系として定義される。このとき、時間が経過するという概念は時空境界が絶対時空ユニット上をコマ送りされる現象だと解釈することができる。つまり、4番目の次元は直接的な時間の流れを意味しないけれども、時間の流れは時空境界の運動によって間接的に生じると解釈するのである。この意味において、本報での4次元も従来の時空という表現を継承しているわけである。このとき、光子の運動を時空ユニット間での連続したエネルギー交換だと考えると、時空境界が時空境界の運動方向に少なくとも1ユニット以上動かなければ光子も空間の広がり方向に1ユニット動けないと解釈できる。つまり、図1に示すように、座標系が運動系に依存しないとき、光子の軌跡は絶対時空上で常に斜め45度ラインとして描くことができる。運動系でない座標系とは重力場でない真空の空間を意味する。この概念により、特殊相対論で示されたように、300,000km/sの速度は全ての情報伝達手段の最大速度を意味し、飛跡長さは300,000kmの√2倍となることが理解できる。この光子の運動軌跡のことをミンコフスキー時空での世界線と混同しないように、以下において、時空線(Space-Time Line(STL))と称することにする。

 

 

2.1.2   速度の定義

これまで、絶対静止系であれば空間静止は絶対静止を意味すると考えられてきた。しかし、直線OKが最もオーソドックスな空間的な静止を意味するが、本報では絶対静止系に対して静止する系は存在しない。したがって、力学的な静止(空間静止)とはニュートンの運動法則を満足させる慣性状態であると定義する。

 以下において、基本的な用語を定義する。

OK長さが300,000kmのとき、時空境界の単位運動と称する。

KS長さが300,000kmと等しいとき、絶対時空の単位距離と称する。

・時空境界が単位運動するときのK系の時間を単位時間と称する。単位時間は1秒である。

これらの定義に基づき、K系が点Oから点Kまで運動し、Q系が点Oから点Qまで運動するときの速度について、以下において図3のように定義する。

・絶対速度(AV)は単位時間当たりの時空境界上の移動距離KJまたはKQとして定義される。このときのAVは、例えばK系から観測されるQ系の場合、AVqと表わされる。しかし、Q系の時間を用いなければならないという理由で、同じKQ距離であっても、Q系から観測されるK系の速度はAVではなく、後述のRVとなる。

・絶対時空速度(ASV)は、単位時間当たりの4次元絶対時空上の移動距離OQとして定義される。このASVは観測不可能な仮想上の速度である。

・時空境界上の移動距離QWは相対速度(RV)を意味する。このときの時間は単位時間ではなく、Q系またはW系の時間を用いなければならない。相対速度とは、いわゆる通常観測される速度である。

 


 


2.1.3   物理的法則

上述の定義に基づくと、運動物体が絶対速度成分AVを有するとは、運動物体が絶対時空に対して絶対速度成分AVを有することを意味する。この絶対時空の流れは運動物体に対するエーテルの風と同じものではないかと推測される。このことは、本報がマックスウェルの方程式の共変性を満足できず、致命的欠陥を有するのではないかと感じられるが、これはそのような欠陥でない。その理由として、図4に基づき次の2つの仮定がなされる。

 


 


2-1  運動座標系の時空境界が時空境界の進行方向に対し、局所的に直交する角度に保たれると仮定する。

 これは、線分PRが線分OQと直交する角度まで、局所的に傾斜することを意味する。つまり、重力場でなく、等速直線運動であっても、図4におけるOP長さがOR長さと等しくなる位置まで、時空境界が局所的に傾斜すると考えるのである。QP長さがQR長さと等しいとき、OQ方向が絶対時空上での実際の運動方向となるので、線分OPと線分ORは線分OQに関する軸対称となる。それゆえ、運動OPは運動ORと対等である。以下において、OQ方向のことを時空境界の進行方向(Traveling Direction of STB(TDS))と称し、その運動物体を進行物体と称す。したがって、たとえ慣性系が絶対時空に対してどんな速さ成分AVを有していても、時空境界が時空境界の進行方向と直交する状態(直交状態)が力学的な静止を意味する。この様子を、3次元絶対時空における2次元時空境界モデルとして、図5のように示すことができる。

しかしながら、絶対時空が絶対静止系であるなら、絶対静止系の痕跡はどこかに存在するべきである。この点から考えると、絶対速度AVが準光速になるとき、絶対時空は絶対静止系としての性質を顕著に示すのではないかと私たちは推測することができる。

 


 


2-2  時空境界が単位運動するとき、絶対時空上で、光の軌跡が常に一定距離に保たれるという見解を採用する。

 すなわち、点Rと点Pの両方が線分OSを半径とする円周上に存在することができるとき、OR長さはOP長さと等しい。このときのOS長さが絶対時空上での一定距離を意味する。

 

 上述の仮定に関し、ガリレオ変換共変性は2-1の仮定によって与えられる。その理由は、絶対速度AVに関係なく、直交するという幾何学が力学的な静止を意味するからである。そして、光速不変の法則は2-1と2-2の両方の仮定によって与えられる。その理由は、物体の中央点での光放射が同時に前方の点Rと後方の点Pの両方に到着することが、図4によって幾何学的に示されるからである。このようにして、特殊相対論での2つの仮定は、絶対静止系上でも完全に満足できることがわかる。以上のことから考えて、直接的に絶対速度AVを観測することは極めて難しいと推定される。言い替えれば、絶対時空が絶対静止系として作られているにもかかわらず、私たちに簡単に測定できるのは物体相互間の相対速度だけなのである。これはガリレオの相対性原理に基づく妥当な考え方である。

 

 

2.2   座標変換

 以下において上述の見解を証明する。

 


 


 まず、図6において、点Oから点Kまで運動するK系と、点Oから点Qまで速度AVで運動するQ系を示す。単位距離が300,000kmなので、宇宙船としての実際の長さQRは、この図上では、ほぼ零である。したがって、Q系は点とみなせるので、大雑把な座標変換はガリレイ変換と等しいと考えて差し支えない。この座標変換は、式(2)によって与えられる。そのとき、Xは線分KS、XGは線分QS、vtは線分KQ(絶対速度AV)、tは単位時間を意味する。

XG = X - vt、  X = XG + vt                        (2).

 

しかし、通常の特殊相対論の座標変換はローレンツ変換によって与えられる。ところが、K系の光の到着点が点Sであるのに対し、Q系の光の到着点は点Rであるので、Q系の座標変換は新しい概念によって与えられるべきである。そこで、次にその新しい座標変換の概念について説明する。OQ長さは絶対時空上での物体の進行距離を意味する。以下においてcは光の速度を意味し、括弧を付与した線分は線分長さを意味する。このとき、X’は、Xとvtの関数として、方程式(3)によって与えられる。

X=ctとすると、(OR)=(OS)の条件から、

(OR)2 = (ct√2)2 = 2X2.

(OK)=(KS)の条件から、

(OQ)2 = (X2 + (vt)2).

三平方の定理により、

(QR)2= (OR)2 - (OQ)2.

(QR)2= X'2なので、

X'2 = 2X2 - (X2 + (vt)2).

X'2 = (X2-(vt)2).

  X' =√(X2-(vt)2),        X =√(X'2+(vt)2).               (3).

 

光速不変の法則を満足させるために、式(3)にX=ctとX'=ct’を代入する。t’はQ系の固有時間である。

  ct'= √(c2t2 - v2t2),          ct = √(c2t'2 + v2t2).

両辺をcで割って、           両辺を二乗して、

  t'= √(c2t2 - v2t2)/c,         c2t2 = c2t'2 + v2t2.

 cを括弧内に取り入れて、  両辺からv2t2を引いて、

  t'= √(t2 - v2t2/c2),          (c2 - v2)t2 = c2t'2.

 tを括弧から出して、     両辺を(c2 - v2)で割ってcを整理し、その平方根をとると、

  t'= t√(1 - v2/c2),           t = t'/√(1 - v2/c2).          (4).

 

上述(4)の方程式によって、Q系の時間遅れ率は特殊相対論と等しくなった。 それゆえ、特殊相対論で示されたように、Q系の固有時間としてのt’を認めることによって、光の速度は一定値に保たれることがわかる。このとき、tは単位時間でありK系の固有時間である。しかしながら、Q系とK系は対等ではないのでt’はtの逆数になる。それゆえ、解が互いに逆数になるという条件において、本報の帰結は特殊相対論と大いに異なっている。特殊相対論は、t’がtの逆数にならないことによって双子のパラドックスを生じていたが、本報の概念に基づけば論理が完全に整合するので、何ら問題が生じないことが明白である。

 このようにして、光の速度は新しい座標変換に関して共変であることが証明された。なぜならば、光速が一定値に保たれることが、マックスウェルの方程式が座標変換に関して共変となることを意味するからである。 結局、直交状態が、電磁現象に関しても空間静止であり慣性状態を意味する。

さらに、2つの運動系間の光速不変則を図7に示す。OK長さがXW長さと等しいとき(OK=XW)、OR長さはSY長さと等しい(OR=SY)。Q系での光は点Oから点Rまで伝えられ、点Sを通って点Yに到着する。この図により、座標系の界面で時空線が屈折することによって、光の速度が一定値に保たれていることが理解できる。

 


 


2.3   時間、質量、そしてエネルギーの概念

時間遅れ効果が式(4)として示されるが、式(4)の概念は説明されていない。そこで、まず、時間遅れ効果の概念について説明する。

 図4で示したように、座標系が線分OK上にあるとき、OQ長さはOK長さと等しいが、運動することによってOQ長さはしだいに長くなる。そして、絶対速度AVが光の速度と等しくなるとき、OQ長さはOS長さと等しくなる。そのときQR長さは零になる。これは時空境界上で光子が運動軌跡を描けなくなることを示し、時間が経過しなくなることを意味する。物体が絶対時空上で運動するとき、QR長さは絶対時空上での3角形OQRの一辺として、ピタゴラスの定理によって決定される。それゆえ、時空境界の運動が止まれば時間は生じなくなる。したがって、時間とは、時空境界が4番目の次元軸方向に動くときに生じる第2義的な現象だと考えなければならない。要するに、式(4)が示すように、QR長さはQ系の固有時間であり、K系の固有時間であるKS長さと対比するとき、時間経過速度として意味される。これは、光円錐の底円半径に対応する。(円錐の高さが時間の軸を意味しないので、この光円錐は従来の光円錐とは異なっている)。図8で示すように、光円錐の角度Gが鋭くなると、時間遅れ効果はしだいに大きくなる。光円錐の円は空間の等方性も意味する。

結局、時空境界が単位運動をするとき、線分QR上において、時間は最大速度の移動可能距離として意味される。そのとき、OS長さからOQ長さを引いた長さが線分QRとして拡大し、時間経過速度の差は線分KSに対応する長さの差として生じる。言い替えれば、時間経過速度の差は運動系の最大速度が静止系の最大速度より遅くなる現象であり、QR長さがKS長さより短くなることを意味する。

 


 


次に、質量増加効果とエネルギーについて考察する。

運動量保存の法則に基づいて質量を検討するとき、進行物体の質量は増大すると考えざるを得ない。しかしながら、時間経過速度が遅い場合、同じ速度にするために消費するエネルギー量は時間経過速度が速い場合より多く必要になる。言い替えれば、単位時間当たりの加速エネルギーが等量であるとき、しだいに進行物体の速度を加速しにくくなる。このことから考えると、時間経過速度がしだいに遅くなるという現象と質量が増加するという現象は同一現象の表と裏であって、切り離して考えることができないと仮定できる。この考え方に基づくと時間遅れ効果と質量増加効果は逆数の関係になるので、質量増加率は、特殊相対論で示されたように、式(5)によって与えられるべきである。このとき、Mは静止質量を意味し、M’は進行物体の質量を意味する。

  M' = M/√(1 - AV2/c2).                    (5).

 

最後に、エネルギーと質量の関係について考察する。

  図9において、

 (OK) = (R1-R2) = ct

 (R1-Q) = ct√2

 したがって、(R2-Q) = ctとなり、線分R2-Qが光の速度cを意味するので、静止質量Mの慣性系が2つのE/2c運動量を得て質量M+mになるとき、エネルギーと質量の関係はアインシュタインの見解にしたがう。したがって、本報での絶対静止系においても式(6)が適用できるので、特殊相対論で示されるように、質量とエネルギーの関係は式(7)により与えられるという結論に至る。

  M・AV + E・sinθ/c = (M + m)・AV.            (6).

  sinθ=AV/c なので、

  M・AV + E・AV/c2 = (M + m)・AV.

  両辺をAVで割ると、

  M + E/c2 = M + m.

  E/c2 = m.

  E = mc2.                                                              (7).

 


 


それゆえ、K系にある静止質量mの物体がエネルギーEを得て速度AVになるとき、運動方程式はエネルギー保存の法則に基づいて、式(8)によって与えられる。この式は、加えられたエネルギーEが増加質量に変化することを意味する。

mc2 + E = mc2/√(1- AV2/c2).                (8).

 

  このようにして、緒言で説明した4つの条件は完全に満足された。4つの条件とは、光速不変の法則、時間遅れ効果、質量増加効果、エネルギーと質量の等価性である。このことは、特殊相対論関連の実験結果と本報の絶対時空モデルが矛盾しないことを意味する。

 

 

 

§3.   議論

相対論では運動が相対的にしか観測できないとしながらも、運動を記述するための舞台としての時空を想定している。また、本報では絶対静止系を想定しているにもかかわらず、運動は相対的にしか観測できないという結論に至る。相対論の相対という言葉と絶対静止系の絶対という言葉は、全く相反するものという印象を与えるが、ここまで考察してきた内容から考えて、相対論と本報が全く異質なものであるとは考えにくい。これらの点から考えて、本報は相対論の延長上にあり、決して相対論を全面的に否定するものでない。これをパソコンに例えるなら、これまでの相対論はミンコフスキー時空というハードウェアー上での議論であったが、このハードウェアーを絶対静止系に変更するのが本報である。そして基本ソフトが物理法則に相当し、その基本ソフトによって記述されたアプリケーションソフトが物理現象に相当する。つまり、このようにハードウェアーを変更しても、光速不変や特殊相対論の主要な物理現象を満足できるので、主要アプリケーションソフトは特殊相対論と互換であることがわかる。

その他の特徴として、絶対時空は完全に量子化されていて空間と時間の両方が無限分割されることを禁止するので、ほとんどの発散問題は繰り込みなしで容易に解決されるようになると期待される点が上げられる。さらに、絶対時空の4番目の次元軸は実数軸で表現されるので、時空構造は非常に視覚化し易くなった。このことは、絶対時空の幾何学が超ひも理論に対しても良い描像を与える可能性があると思われる。

しかし最大の相違点は、本報での運動の本質が絶対静止系に依存する点にある。したがって、絶対静止系に対する速度の違いによって、運動物体相互の関係は必然的に対等ではなくなる。双子のパラドックスは観測者同士が互いに対等であるという不合理な見解によって引き起こされるが、本報での特性は互いに逆数になるので論理整合が極めて明確である。このことは、双子のパラドックスが完全に解消されることを意味する。結局、特殊相対論以後、私たちは絶対静止系を完全に諦めてしまったが、絶対静止系を想定するとマイケルソン・モーレーの実験結果を満足させられないと強く信じ込んでしまったことが最大の過ちであると思われる。

これまで述べてきたように、特殊相対論には論理的な矛盾があることが明白となったが、本報はその論理的な矛盾を補う理論として位置付けしたい。しかし、本ホームページは概要速報なので、空間長さの収縮効果、速度の加法則、ドップラー効果、時間の相対性、および具体的な検証方法などは意図的に削除した。また、一般相対論や宇宙論に関する考察もなされていないが、本報の概念は今のところ一般相対論的効果(等価原理、時間遅れ効果、時空の湾曲)も説明可能であり、新たな概念で閉じた宇宙構造を示すこともできると考えている。もし御要望があれば、時期を見て掲載するようにしたい。今後、バージョンアップした英語版を作成し、アメリカのロスアラモス研究所のプレプリントサーバーに掲載して、世界の方々に議論していただきたいと考える。

 

 

 

付録

全く同じ性能のロケットを2機用意し、同時に180°反対方向に地球を出発するとする。2機のロケットは地球を出発したあと、それぞれのロケットの時間に基づく規定時間後にUターンして地球に戻るよう、飛行コースがプログラムされているとする。この条件は、後藤の思考実験の前提条件6)である。上記思考実験による時間遅れの結果として特殊相対論的に3通り(A>B,A=B,A<B)の結果を導けるが、これらの3つともが正しいという結論になるので、現実には生じ得ない論理的矛盾であると後藤は主張した。

この問題について松田ら22)は、ロケットAの時間でロケットAがUターンするとき、ロケットBはまだUターンを開始しておらず、一方、ロケットBの時間でロケットBがUターンするとき、ロケットAはまだUターンを開始していないと解釈することにより、特殊相対論に基づいて矛盾なく解釈できると主張している。つまり、ロケットAとロケットBの操作タイミングがずれを生じていると解釈することにより、A=Bのみが正しい特殊相対論的解釈となる。したがって、A>BもA<Bも生じないので、論理的矛盾はないと主張したわけである。

しかしながら、ロケットAとロケットBにビデオカメラを搭載して両者の操縦の一部始終を録画したとする。すると、論理的にロケットAとロケットBは完全に対等であるという前提条件と、空間の等方性の2点から考えて、地球に帰還してから両者のビデオを再生したとき、その操縦タイミングは完全に同期していると推定される。ところが、相対論的には操縦タイミングが同時であることは許されない。なぜなら、ロケットAとロケットBも互いに相対運動しているので、相互に時間遅れ効果を生じなければならないからである。したがって、松田らの主張は矛盾していると言わざるを得ない。このことは、特殊相対論に内部矛盾があることを示す有力な証拠となる。

双子のパラドックスはその是非をめぐってアインシュタイン在世中にも激しく議論を醸したとされているが、これまで既に解決された問題とされてきた。しかし、激しく議論した当時にはビデオという概念がなかったので、上記のようなイメージができず、検討漏れしたと考えられる。

 

 

 

参考文献

1)      P.C.W.Davies:スーパーストリング(紀伊国屋書店、1994年)、出口修至 訳

2)      南部陽一郎:クオーク・第2版(講談社、1998年)

3)      日本物理学会編:アインシュタインとボーア(裳華房、1999年)

4)      F.D.Peat:超ひも理論入門(下)(講談社、1995年)、宮崎忠 監修

5)      D.J.E.Ingram:輻射と量子物理(丸善、1978年)、オックスフォード物理学シリーズvol.、土方克法 訳

6)      後藤学 他:相対論はやはり間違っていた(徳間書店、1995年)

7)      砂川重信:理論電磁気学・第2版(紀伊国屋書店、1980年)

8)      矢野健太郎:アインシュタイン(講談社、1978年)

9)      B.F.Schutz:相対論入門(上)(丸善、1996年)、二間瀬敏史 他 訳

10)  M.Carmeli:Cosmological Special Relativity(World Scientific、シンガポール、1997年)

11)  和田純夫:相対性理論(ナツメ社、1998年)

12)  大場一郎:相対論に必要な数学(共立出版、1997年)

13)  前田恵一:アインシュタインの時間(Newton Press、1998年)

14)  佐藤健二:相対性理論(ナツメ社、1998年)

15)  M.Kaku他:アインシュタインを超える(講談社、1989年)、宮崎忠 監修

16)  都筑卓司:時間の不思議(講談社、1995年)

17)  広瀬立成:質量の起源(講談社、1995年)

18)  B.F.Schutz:相対論入門(下)(丸善、1997年)、二間瀬敏史 他 訳

19)  江里口良治:時空のゆがみとブラックホール(培風館、1992年)

20)  P.G.Bergmann:重力の謎(講談社、1972年)、谷川安孝 訳

21)  藤井保憲 他:いまこそ相対性理論(丸善、1994年)

22)  松田卓也 他:相対論の正しい間違え方、パリティVol.15、No.04、P60(丸善、2000年)

 

 

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