私は一人で立っている。入国審査がないまま、このまま外に出られるようなのだ。見回すと、バスの受付のようなものがあるので行ってみた。私は“ボンジョルノ”と言って、“市内へ行く連絡バスはありますか”という文字を見せた。13000リラで市内のミラノ中央駅へ行くバスがあるらしいのでそれに乗ることにした。
バスは2階建で、私は2階の一番前の席に座った。しばらくして女性が横に座った。
彼女はアメリカ人で、シエナという街へ行くそうだ。トスカーナにも行くんだと言って、とてもうれしそうだ。
“私は初めてイタリアに来たが、東京に(シエナ)(トスカーナ)という名のイタリアンレストランがあり、どちらも美味しい食事を出すので、それらの地名にはいい印象があります。よさそうなところですね。”みたいなことを言うと、彼女は満足気であった。
それからオーストラリアの女性が二人乗って来て、すごく楽しそうにすごい速さの英語で話し始めた。私はその速さについていけなくなり、外を眺めたりしていた。
やがてミラノ中央駅に着いた。
階段を登って入った駅構内は、床から天井までの空間に三階建ての建物がすっぽり入りそうなぐらいに高く広く明るい感じで、私は驚いた。すてきだなぁと思った。
それからコインロッカーを探して歩き回り、一時間ぐらいして、コインロッカーはないのでは、とやっと気付いた。
ミラノ中央駅には手荷物一時預り所(il deposito bagagli)しかないのだ。私はやっと預り所に着いて“ボンジョルノ、すみません”と言って「バゲージ」などと言って、係りの人々にとって ちんぷんかんぷん な人間になっていた。バゲージは英語で、係りの人たちは英語を知らないのだ。私はちょっと荷物を預かって欲しいだけなのだが、彼らは“ここに荷物を預けてもどこにも送れないよ”みたいなことを言ってるみたいな気がする。私は会話集をひろげて“デポジトバガッリ?”というと彼らはやっとわかってくれ、荷物を預かってくれた。
私はイタリア語はさっぱり勉強しなかったので、まずい、と思った。(感じ)として相手が意図することはそれでも何となく分かるのが不思議だ。何となく分かるぞ、と思いたくて、思い込んでいるだけなのかもしれない。
ともかく身軽になれて、私はメトロ(地下鉄)に乗ってドゥオモ(大聖堂)へ行った。まだ朝だからか余り人がいない。一晩中そこにいた、というような人と鳩しかいない。<続く>
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