九龍が帰って来たのは暗くなってからだった。 「ただいまー、ってあれ?甲ちゃんどこへも行かなかったんだ?」 「……悪いかよ」 口を開けば、つい憎たれ口から先に出る。 「いや、そうじゃないけど。」 「じゃ、何だよ?言いたいことがあるならはっきり言え。」 どう傘を使えばそうなるのか、どことなく全身濡れている九龍に、皆守はタオルを取ってかぶせる。 「んじゃぁ言うわ」 髪の毛を皆守に手荒く拭かれながら、九龍はもそりと口を開く。 「誕生日おめでとう」 「遅い」 がーん、と大袈裟に九龍がショックを受ける。わざとだ。 「いやだって俺も色々考えたのよー?折角誕生日なんだしって」 「……。」 皆守はアロマパイプに火を付け、目で先を促した。 「でも花は『後がめんどくさい』って言いそうだし、甘いもの嫌いだし、アクセサリーとかもつけないし、そもそもそういう後に残るものって俺が好きじゃないし」 髪の毛を自分で拭きながら九龍は続ける。 「かと言って『プレゼントはア・タ・シ』じゃぁあまりに寒いし」 「確かにな」 「カレーは甲ちゃんの方が絶対詳しいし、下手なもんあげたくないし」 皆守は僅かに口元を緩める。料理上手の九龍に褒められるのは、悪い気はしない。 「で、いっつも俺と一緒に遺跡の中だからさ。」 九龍はタオルの中から皆守を見上げた。 「たまにはひとりで居たいこととかあるんじゃないかな、って」 どことなくきまり悪気に、九龍は視線を落とす。 「俺、デリカシーとかプライバシーってあんまり自信が無いから。俺抜きで、気兼ねもしないで、好きなことひとりでする時間なら案外いいんじゃないかなって、思ったんだ、けど」 「なんだそりゃ」 皆守は不満げに眉を寄せた。 「お前の方が、俺が邪魔でひとりになりたかったんじゃないのか?」 皆守の皮肉に、九龍がきっと顔を上げる。 「違うよ。言われなくても多分、1人で居たい時は勝手にやってるよ」 皆守はため息の代りにアロマを吸った。 「俺もだ」 言って、皆守は九龍の頭をタオルの上からかき回す。 「お前が居て、気兼ねして何か我慢したことは1度も無い」 「……ほんとに?」 皆守は頷いた。 「そんなことで嘘ついてどうするんだ。それよりそれがプレゼントだってんなら最初から言えよ」 うう、と九龍はうめいて頭を抱えた。 「くそー、考えた割にすかったー外したー」 九龍なりに必死で考えたことは、皆守にもわかる。気持ちだけは嬉しいと伝えておくべきか、皆守が迷っていると、九龍はやおら跳ね起きて、ぱしんと掌に拳を当てて気合いを入れた。 「よっしゃ、来年こそもっとこう、甲ちゃんのハートをつかむ趣向を考えてみせようじゃないですか」 皆守はきょとん、と目を見開いた。 「来年、か」 九龍は大きく力一杯頷いた。ぐぐっと拳に力を入れ、また言う。 「来年でだめなら再来年。俺は諦めない」 「そうかそうか、ま、期待はしないで待ってるぜ」 口ではそう言いながらも、皆守は微笑んだ。来年も、再来年も、その先も。九龍が祝ってくれるというのなら、誕生日も悪くない。 この男を愛しい、と思う。 九龍が好きだと言ってくれてから、自分がどれだけ大事になっただろう。それを面と向かって言う気はないけれど。 「どうせ待つんなら少しは期待してよ、甲ちゃん」 「あぁはいはいわかったわかった」 1本調子で言う皆守に、九龍が大袈裟にすねてみせる。 「もうちょっと色つけてください」 「阿呆か」 頭をひとつ叩いてやってから、皆守は笑った。 「カレーの方は楽しみにしてるからな。どこのカレーを食いに行く気だ?」 「えーとねー」 九龍が皆守の後を追って、脱いだばかりの靴を履く。 天気が悪かろうが、平日だろうが、どんな過去があろうが、未来が待っていようが、2人でいれば幸せ。そういうことなのである。 −−−−−−−−−
本編の後に続くはずだった没結末です。没になった理由は「甘い」「ぬるい」「キモい」「いやこれ主皆だろ。書くつもりだったの皆主じゃねぇのか」以上です(爽やかに)。ごめん、私が書くと主人公はあほのこにしかならない……。(05/04/15up) BACK |