(135)ニコルのお墓


              

「ニコルのことは、残念だったわ」墓参りの途中、ジネがポツンと一言。数年前彼女は息
子をバイクの事故で亡くした。まだ彼女と知り合う前の話しで、息子の事をよく知らない
がションボリと話す姿が、様相と隔たりがあって心を打った。金髪のショートヘアー、青
いアイシャドウ、赤い口紅、ふくよかな胸、60年代、ブリジット・バルドーの若い時の
様相だ。「ここがニコルのお墓よ」プロヴァンスの 墓地は、乾いていた。気候がそう
なのだから当り前の話しだが、日本の墓の湿った印象があったので、一瞬驚いた。微笑む
青年の顔写真が、墓標の下に飾られ、陶器の花が沈黙の音楽に思えた。当たりを見まわす
と、何と色鮮やかなことか。カソリック・プロテスタントが、9割以上を占めるフランス
は、墓地の雰囲気も日本と全く違う。こう言う陽気な墓地もあるんだよな、固定観念が又
一つ覆えされた。日本流に手を合わせて一礼する横、彼女が手の指を組んでしきりに無言
の語りかけをしていた。

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(136)元気者