青地のキャンヴァスに描かれる一本の白い線、又一本、×印に、平行に、自由な線が次々
と増える。地平線、平野、ポツンと赤い屋根の家も画面の下方に出来る。プロヴァンスの
空から連想した空間だ。今上空には、一本の飛行機雲が伸びている。先頭には、豆粒程の
飛行機が進む。上空10キロ、メタルに反射して朝焼けの空に輝く。黒い山陰とのコント
ラストは、静寂さと共にそのままキャンヴァス上に移る。幾度とな繰り返した作業だ。次
第に空間の意識が脳裏に焼き付く。「この昇天するような気持で、描こう。きっと自由に
なれる」10年来願って来た 呪縛からの脱却だ。取り残された飛行機雲は、次第に幅が広
がる。又飛行機が 別方向からやって来た。夜明けの空にくり広げられるショーは、無音で
続く。「ポンジュー・マドレーヌ」友人のマドレーヌおばさんが朝の散歩でやって来た。
そろそろ皆目が覚める頃だ。「この夜明け前の大空間を体に取り込みたい。今の私なら不
可能ではないゾ」