(113)希望の光


             

左手にはイーゼルと出来上がりのキャンヴァス、右手にはテレピン油等の材料を入れたカ
   バンを持ち家路を急ぐ、ズッシリと重い。夏のプロヴァンスは暑い。道端には、ポピーを
   始め、あざみ、白、黄、薄紫の小花が咲き乱れる。ザク、ザク、ザク足音だけが響く。「
   やっとこれらの花が絵の中に入り出した。一段とプロヴァンスの雰囲気作りがうまくなっ
   た」自問自答しながら、緑の中に浮かぶ花々に目をやる。「近景にポピ ーの赤、遠景に村
   を配置した構図は、いろいろなパターンに応用出来る、調法だ。画集等では、よく見る構
   図だが自分の物にするには時間がかかった」コントラストの強い木陰に陽光が差し込む。
  「後一息で家に着く!」前方から、犬を連れた婦人。「ボンジュー・マダム、白い帽子が
  印象的、見知らぬ顔だ」木陰のトンネルがしばらく続く。10m程の高い木の幹が両側に
  並ぶ。何度となく通ったこの道、隅々まで脳裏に焼き付いている。目前に見え出した家
  壁、希望の光だ」
 

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(114)プロヴァンスの飛行機雲