(91)恋人・アネッテ


             

「君のお母さんなの」村中のベンチで、いつも縫い物をしている年配の女性、顔を合わせ
ると元気よく手を上げる。「そうよ、私のママよ」「気になってたんだ」「どこから来た
の」「西ドイツのヴァーレンドルフ」「あなたは」「日本」「絵描き」「そう成りたいと
思ってる」松の木を描いた絵をスケッチブックを私に見せる。「小学生の絵みたいでしょ
」「素直な絵でなかなかいいよ」「ありがとう」「仕事は」「小学校の教師をやってるの
」「フーム」正直言って、私も彼女みたいな自由な絵を描きたいと思うが、思考が邪魔し
てなかなかそこまで行かない。変わるには時間がかかりそうだ。「ここはよく来るの」「
ヴァカンスで2度目よ」「お母さんと一緒」「そう、兄が二人いるけどベルリンに住んで
る。父は、第二次大戦で戦死したわ」日本と同盟国で戦ったドイツ、教科書で習った歴史
が目の前にあった。「そう、気の毒にね」「私、行くわ」「そう、又ね」

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(92)再会