(88)一日の終わり


            

プロヴァンスの平野が一望出来るピラ宅のバルコニーは、村中でも一級品だ。遠くアヴィ
ニオンからオランジュ、近くのラストー、サブレの村まで180度のパノラマ。「トシオ
  、飲む」ピラの夫ジョンルイ・ロメンがテーブルに自家製のパスティスを運んで来た。プ
  ロヴァンス特有の食前酒で50度近いアルコール、水で薄めると黄色から乳白色に変わる
  。プロヴァンスの光が濃縮された元気の出る飲み物だ。「ありがとう、もらうよ」「今日
  の仕事はどうだった」夏場は、夕方9時近く日が沈み涼しくなる。地平線に太陽の光が少
  し残り、街の明りが輝き出す、一日で最もホッとする一時だ。2000年の夏、私は家族
  を日本に残し一人プロヴァンスに滞在していた。ジョンルイ自身が作ったこのバルコニー
  も数々の思い出がある。飼い犬のアリカと遊んだ私の子供達、マダガスカルから連れて来
  た30センチ程の亀に驚く妻の幸子、壁に這うバラの花を娘里奈にそっと手渡す息子のグレゴリー・・

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(89)世界のナカノ