(80) 捕虜生活


              

「一・二・三・礼」突然ギャルダが日本語を話す。「どこで覚えたの」「インドネシア。
  日本軍の捕虜収容所」一瞬息を飲み込む。「トシオの世代とは関係ないけど、あまり思い
  出したくないわ」テーブルの上には、ギャルダ手製のインドネシア料理が並ぶ。オランダ
  の植民地時代に覚えたらしい。テラスの下にはブロヴァンスのぶどう畑。オランダ、イン
  ドネシア、ブロヴァンス「この人にもいろいろ人生があるんだ」一人考え込む。今はここ
  に別荘を買って余生を夫のクリフと過ごしている。「こうやって皮膚を焼いていると金色
がきれいでしょ」ショートカットの金髪に、金輪のイヤリング、ブレスレット。ロゼのワ
イン片手に、白いパラソルの下レースの編物をするギャルダ・アンダーソン 。映画の一シ
ーンだ。正面にはフロニエ夫妻がいつもの快活さで座っている。「オランダ人には、ちょ
つと無理だね・・・」アンドレ・フロニエのダミ声。ギャルダ家の晩餐会、賑やかな会話
が続く。

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