「マニフィックすばらしい」夜空に映し出された岩山に反響して響き渡るピアノの乾いた
音色。ここプロヴァンスの片田舎、特に夏場は、村人や観光客のために数多くの野外コン
サートが開かれる。人々のざわめきが演奏と共に静まり、水銀灯の光がプラタナスの葉を
通してエメラルドに輝く。モーツアルトの旋律、横に伸びた枝々が微風に揺れる。「今夜
の演奏は特にすばらしいわ」エディーが音楽から得た快感を抑えきれずにささやく。石造
りのベンチに山あいからの冷気が心地よい。遠方車のヘッドライトが、五線譜に旋律を書
き示すように走る。オランジュの街の明りが、はるか遠くに横長く点滅。突然、フルート
の音色、ゆっくり流れ始める。ピアノとのハーモニーは、ぶどう畑の上を飛ぶ鳥、その上
の雲、壮大な空間を作る。その中を漂う私。拍手拍手アンコール。プロヴァンスの夜は、
観衆の熱気と共に果てしなく続く。ブラヴォー。