(46) ポールとの出合い 3 サンヴィクトワール 


「サンヴィクトワール ディスパギュー消えた」ポールがすっとんきょうな声を出す。
夏のプロヴァンスでは、めずらしい雨が降る。眼前にあるはずのサンヴィクトワール山
が見えない。「サ・フェ・リャン・トンピー仕方ない」折角のスケッチ旅行だったが。
それから2時間嘘のような晴れ間に変わる。「マニフィック美しい」灰色、ブルー、紫
、ピンク、山は表情を変える。白いキャンヴァスが、サンヴィクトワールの空間に変わ
る。ポールは、飽きもせず私の制作風景を眺める。時たま写真に収める。「退屈しない
」「何が、この自然の中にいれば満足さ」「トシオの絵・この自然、壮大なドラマだよ
」丘の上ジージーと蝉の単調な音が続く。暑い。この十キロ四方の空間が今私と同化す
る。心は軽く宙を舞う。ゆっくりと、ゆっくりと。感動は無限のエネルギー。制作2時
間、F6号作品が出来る。いつもこうであればいい。

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(47)具象画