(43) 「さあ、力を抜いて」  


「ボンジュール、フランソワー」「ボンジュール、トシオ」「又セグレに来たの」「はい
、昨夜」「教会の鐘が鳴っていたけど、誰かなくなりましたか」「ムッシュ・ボンス」「
今から葬式さ」フランソワーは、元エアーフランスのパイロット、70才。何度も日本に
行ったことがある、大の親日家だ。ちょうどイーゼルを広げたところに通りかかった。「
今回は、何を描こうか」新しい世界の創造だ。この瞬間がいい。前回の作風を忘れてもっ
と空を高く飛ぼう。遊ぼう。何が出来るか保証はない。この感動の光を色に変えさえすれ
ばいい。葉を通してこぼれてくる朝の光りが新鮮だ。小鳥のさえずりも五感を刺激する。
いつもある空。しかし、私自身の中にも、もう一つの空が出来ている。その中を飛ぼう虫
のように、鳥のように。いつものように、キャンヴァスの端切れにスケッチを始める。ア
イディアがまとまったところで「さあキャンヴァスに挑戦だ。力を抜いて」

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(44) ポールとの出合い 1