
(37) トーマス
「コネセ・ヴーしってますか」外国語を話す時、自分なりの話しやすい出だしがある。テン
ポを掴むと、その後の言葉がおもしろい程出てくる。ドイツ人のトーマスは、「コネセ・ヴ
ー」がいつも始めに出てくる。もう50近いが、フランス語を勉強している。アトリエ・ド
ゥ・セグレで知り合った知人の一人だ。夕食の時いつもテーブルが同じになり、ドイツ人特
有の強引さで話し掛けてくる。「トシオ、明日ピカソの展覧会を見にアヴィニオンに行きま
せんか」セグレから100キロ離れたエクスに住んでいたピカソが、1973年に死んで、
その遺作展をパレイ・ド・パップでやっているらしい。「それは、面白そうだ、行きます」
「トーマスは、ピカソ好きなの」外国語は、日本語のように敬語で呼ぶ必要がないので人と
しての親しみが湧きやすい。「コネセ・ヴー私の30年来の友ですよ」背広でも着せるとド
イツの首相でもおかしくない風貌だ。トーマスと呼び捨てでいいのは、気安さもあるのだろう。
(38) プロヴァンスの展覧会