(12)ルシアンと幸子


1984年、結婚して初めて幸子と一緒にプロヴァンスに行った。セグレ村に一年間滞在
の予定。まずは、アトリエ・ド・セグレに落ち着く。3階のフォンテーヌを見下ろせる部
屋に案内された。ダブルベットに収納・机・椅子だけのシンプルな設備に日本から来た幸
子は、少し驚いたようだ。「質素ね」あたりを眺める。するとフォンテーヌの水音と共に
「戦争を知らない子供達」の口笛が聞こえてきた。「あっ、ルシアンだ。」私は窓から下
を覗いた。友人で画家のルシアンが、犬のガスと一緒に植木の横に座っていた。彼には、
先程到着したメモ書きを置いて来た。4年前にルシアンと共同生活をしている時に私がよ
く歌った曲だ。部屋に上がって来たルシアンに、幸子を紹介すると「ボンジューサチコ」
と、手の甲に軽いくちづけ。「なんとフランス人っぽい人なの」この時の印象は幸子にと
って忘れられない思い出になった。それから毎週わが家で夕食、フランス語を習った。

目次に戻る

(13)プロヴァンスの気候