MLDホームページの皆様、はじめまして。
増澤元哉くんの担任の奥山@都立大泉養護です。
今年の4月からモックンの担任になりました。モックンとの楽しい学校生活の一部をリポートさせていただきたい
と思います。
朝、スクールバスから降りて教室に来ると、まずビッグマック(大き
なスイッチ型の音声出力装置で、今日本で最もポピュラーなコミュニ
ケーション支援機器です)で朝の挨拶をします。ビッグマックにつない
だスイッチを、モックンが身体部位のどこかを動かして操作すると、あらかじめ録音してある音声(「おはようございまーす」)が出てくるのですが、まずはモックンに尋ねます。
「モックン、顎で押す?腕で押す?膝で押す?」
このように聞いてもらえることが、モックンはとっても嬉しいようで、
とてもすてきな笑顔で笑いながら「モグモグ」と口を動かしてくれます。
「はい、顎で押してくれるんですね」(モックン、笑顔)
ビッグマックにつないである直径10センチほどのスイッチを、モック
ンの顎の下に当てると、「モグモグ」という動きや「あくび」、「呼吸にともなう動き」でスイッチを押して音声が出てきて朝の挨拶終了。
ときに、教室に来ても難しい表情をしていることがあります。スクールバスに揺られてくる間に痰がたまってきたのです。このようなときは、挨拶をしてから車椅子から降ろすこともありますし、朝の挨拶は取りやめて
降ろすこともあります。モックンの緊急度を見ながらです。痰がたまっているときには、車椅子から降りて側臥位から腹臥位になってもらって、とりあえずすぐ出る分をタッピングをしながら出してもらいます。
口腔より奥にある痰は、体位を変えたりタッピングをしたりバイブレーショ
ンをかけたりして口腔内まで移動させて出してもらいます。痰がうまく出てすっきりしたときには二人で大喜び。心の中では手を取って
踊って喜んでいます。このときに私の「武器」は聴診器とパルスオキシメーターです。すぐそばの
キャビネットの中に携帯用の吸引器が入っているのですが、今の時点では吸引
は保健室でのみ対応しています。
東京の養護学校では、救急体制整備事業というものに取り組んでいます。
子どもたちに必要な医療ケアの中で、教員が研修をすることによって対応で
きると医師に認められた医療的ケア(吸引や注入、導尿や酸素管理など)
を研修を受けた教員が学校生活の中で行っていくというものです。
1992年度(平成4年度)に都立村山養護学校がモデル校になり(当時
は事業の名称が異なりますが)、1996年度には都立の肢体不自由養護学校で救急体制整備事業としてスタートしました。しかし、学校によって取り
組みの進度にまだまだ差異があり、大泉養護もやっと歯車がまわりはじめた
ところです。普段はモックンは体位変換やタッピングで排痰ができるのですが、痰の量が多いときなどは吸引が必要となり、近々、教室の中ですぐに対応できるよ
うになる予定です。(医療的ケアの問題については「医療と教育研究会」という研究組織があり、「医療的ケアが必要な子どもと学校教育」ホームページで詳細を見るこ
とができます。
排痰が終わると、朝の健康チェックです。聴診器で痰の有無を確認したり、体温を測ったり。このとき、モックンは「体調がいい」と言われるのがとっても嬉しくて、(聴診器を当てながら)「もうゼコゼコいいませんねぇ。とってもいい音がしますねぇ」(モックン、大喜び)(体温計をモックンの脇に挟みながら)「ピピッて音がしたら教えてね」(ピピッと鳴り、モックン、ニヤリ)「あ、今、ピピッて鳴った?」(モックン、大ニヤリ)「あ、熱はありません!」(モックン、大喜び)
聴診器を当ててゼコゼコ聞こえるときでも、「ここでしょ?」と場所を当てるととっても喜んでくれます。こうまで喜んでくれたら、それに応えないわけにはいきません。また、体を動かしたりタッピングをしたりして痰を出
します。
今日は、朝の様子をレポートしました。
モックンの学校生活の中では、コミュニケーションの確保ということを重視しています。「やりとり」が質や量の面で向上することが生活の質の向上
につながると考えているからです。モックンに選択の機会をたくさん用意すること。モックンの意志を確かめ、
尊重できるようにすること。モックンからの発信(声や体の動き、笑みなどの表情)を確かめること。言語化すること。モックンが感じた可能性があること(見えたもの、聞こえたこと、におい等)を言語化して確かめる(共有すること)等です。
モックンがやりとりの「切り出し」をしやすいように、スイッチや音声出力装置、スイッチで動くおもちゃ、コンピュータ等できるだけ多く用意でき
るようにしています。
その一端をお伝えすることができたでしょうか。
次の機会に、他の学習のことや、ハンサムなモックンをめぐる様々なこと等、お伝えできればと考えています。
奥山 敬(都立大泉養護学校高等部) |