家族はどうすればいいの?

 やるべきことはたくさんあります。もちろん受診している医療機関によって適当な指示があると思いますが、あらかじめ知っていた方がいいと思います。

1)診断を確定する
2)各種の公的ケアの手続き
3)患者団体への参加
4)リハビリテーション
5)家庭内ケア
6)補助器具の用意
7)投薬

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 1)診断を確定する


 当たり前ですが、はっきりとした診断が必要です。MLDの診断のためには、血液検査、尿検査、髄液検査、生検(体細胞の一部を採取する)、DNA検査などがあります。これらの検査はいずれもかなり確実な診断が可能ですが、MLDそのものが非常に希な疾患であること、検査の内容も特殊で対応できる機関が少ないこと、特に幼児の場合、患者や家族に負担をかける検査であること(たとえば時間的拘束…事実上入院が必要な検査もある)などから、それ以外の検査や診断でMLDの疑いが濃厚である場合に初めて行われることになる場合が多いでしょう。
 幼児型のMLDの場合、まず運動障害で異常に気づく例が多いでしょう。この場合、他の代謝異常症の可能性も考えられ、また脳性麻痺の可能性もあるので、それらの可能性も含めた検査を行っていくことになると思います。MRIによる脳の断層写真撮影、脳波の検査、筋伝達速度(MCV:Muscle Conduction Velocities)の測定などがこれにあたります。
 特に幼児の場合、正常な発達の範囲なのか、なんらかの病的遅滞、退行が起きているかの判断は難しくなります。これらの理由から、一般にMLDの診断が確定するまでの期間は非常に長くなるのが普通で、平均8ヶ月とする資料もあります。まれな病気であるため、医療機関側に臨床経験があまりないケースが多いことも一つの理由でしょう。MLDは難病であり、治療法が確立していません。そのため、ある程度MLDであるという感触があっても、診断や告知に医師が慎重になるということもある(病院によって方針が大きく違う)と思います。ある意味でMLDの診断は末期ガンの告知と似ており、しかもその相手は(幼児型、若年型の場合)患者本人ではなく家族です。知らない方が幸せ、というのも一つの考え方でしょう。ただ、私としては、医療とは別次元の問題として、残された時間をいかに生きるかという患者とその家族の私的な問題があり、そのためには最大限の情報提示が早い段階で必要であると考えています。

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 2)各種の公的ケアの手続き


 特に幼児型MLDの場合、患者本人はもちろんですが、家族に大きな負担がかかることになります。診断が確定する頃には、おそらく立ったり座ったりも難しくなり、食事、排尿・排便といった基本的なことも自分だけでできなくなっているはずです。言語能力や視力も失われます。かといって、入院治療の必要性はない場合が多いでしょうから、結果的に重度の障害児をかかえるのと非常に近い状況になります。
 一つ問題になるのは、MLDの場合、症状が進行性であり、しかもそれがケースによっては非常に速いということです。一般的に各種のケアは、障害をもって「生き続ける」人を対象にしており、必要なケアの種類が短期間でどんどん変わっていくMLD(特に幼児型の場合)のような疾患と実状がそぐわない場合があります。

◆行政による障害児療育支援サービス◆

 所在地にもよりますが、地方自治体による福祉サービスが利用できるはずです。リハビリやカウンセリングなどが中心になります。脳性麻痺などの場合には、生まれたときからある程度障害がはっきりしています。それに対してMLDなどの代謝異常の場合、ある年齢までは健常児と変わらない子供が、突然といっていいほど短期間で重度の障害児になるわけです。そのため、家族はそのための心の準備や知識がないまま、それに対処しなくてはなりません。しかも、脳性麻痺と違って代謝異常の場合にはいったん発症すればあとは症状がどんどん進みます。こういった状況の中で、専門家のアドバイスを受けることができるかできないかでは大きな違いがあります。特にMLDの場合、患者数が少なく、他の障害児のような親の横のつながりというのがないですから、相談する相手を見つけるの難しいという事情もあります。専門家との相談は大きな効果があります。なお、これらの相談の窓口は、地元の保健所に問い合わせるのが近道です。

◆行政による補助・助成◆

 MLDは重大な運動・知能障害を引き起こすので、その時点での症状にもよりますが、身体障害者として認定されます。身体障害者手帳交付のメリットは、まず治療費の減免です。たとえば東京都新宿区の場合、6歳まで乳幼児医療費助成があり、健康保険内の治療は全額が助成されますが、自治体によってはもっと早くこれが打ち切られます。障害者手帳があると、医療費の全額助成が受けられるだけでなく、車椅子などの器具、車の購入費、高速道路料金の助成、税金の減免などを受けることができます。
 実際の障害者手帳の交付における問題は、特に幼児型MLDの場合2つあります。一つは成長期のため、障害の程度を確定することが難しいということです。これにMLDの診断自体に時間がかかるという理由が加わります。ただし、障害者手帳の申請は主治医が病名を「病名不明」として行うこともできます。
 もう一つの問題は、障害が進行し、しかもその速度が速いため、制度がそれに追いつかないということです。たとえば、障害者手帳の交付に2ヶ月、そこから車椅子ができるまで2ヶ月、というペースでやっていたら、できた頃には車椅子が無用になっていた、ということに成りかねません。行政による補助・助成は一般に手続きに時間のかかるものですから、早め早めに行動を起こすことを推奨します。また、治療機関もそのことは理解しているので、柔軟に協力してくれるはずです。

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 3)患者団体への参加


 まれな疾患であるため、米国でさえMLDだけの患者団体や連絡会はありません。特に幼児型、小児型の場合、患者である期間がそれほど長くないという理由もあるでしょう。独自の患者団体をもたない疾患の患者も含めた、小児難病の患者、家族を支援する団体としては「難病のこども支援全国ネットワーク」があります。この支援団体の支援病名にはmetachromatic leukodystorophyがリストアップされていますが、98年3月現在、ネットワークで連絡がとれているMLD患者は数名です。現在、私を含めたこの患者の家族が、患者の会の設立を目指しています。

 難病のこども支援全国ネットワーク
 〒136-0073 東京都江東区北砂1-15-8 北一ビル4F
 03-3615-7710

 同 こどもの難病電話相談室  
 03-3615-7887

 インターネットでアクセスできる窓口としては厚生省の補助事業として財団法人難病医学研究財団が96年から運営している<<難病情報センター>>があります。しかし、これはいまのところ単なる「お役所リンク」で役に立たないです。むしろ、病気の対象はややずれますが、国立療養所が提供している<<神経筋難病情報サービス>>の方が、参考になる点が多いと思われます。

 特にインターネット関連の参考になる情報源については随時拡充していく予定ですが、現時点ではそのものずばり、というものがなく、むしろ「難病」「遺伝病」「障害」といったキーワードでサーチをかけた方が早いというのが実状です。だからこそこのホームページを開設したわけですが。

 治療法を別として、家庭における対処という面ではMLDの患者は一般の障害児(者)、特に脳障害をもつ障害児と同じ問題を抱えることになります。そのため、むしろ、それらの支援グループ、患者団体とアクセスする方が現実的かもしれません。MLDの説明を進める上で何カ所かで脳性麻痺との比較を行っていますが、これは脳性麻痺の介護、療育に関する情報は比較的簡単に手にはいると考えられるからです。

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 4)リハビリテーション


 リハビリというと一般的には「機能回復」を目的とするように思えますが、MLD患者の場合、確実に失われていく障害の進行を遅らせることと、その中で日常生活を維持するために必要になってくる新しい能力を獲得することが目的になります。たとえば強い筋緊張があれば関節の変形を防ぐためのストレッチングが必要になります。嚥下が困難になる中での食事の取り方、といった、いわゆるQOL(Quolity of Life)も重要です。しかし、幼児型の場合、進行が速いこと、もともと獲得している能力が低い時点で退行が始まること、患者とのコミュニケーションの確立が難しく、しかもどんどん難しくなることから、現実的には非常に困難であるというのが率直な感想です。脳性麻痺のように比較的症状が固定した中で、ゆっくりとではあっても着実に能力を獲得していく、というものでもありません。もちろん、病状のパターンは患者によるので、リハビリが有効なケースもあるでしょう。

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 5)家庭内ケア


 幼児型の場合、基本的には発病を境にあかちゃんに戻っていくと考えることができるので、ケアについてもそれに準じて考えるとわかりやすいでしょう。その意味で、(あかちゃん同様)あまり病人扱いする必要はないと思われます。もちろん、普通の人でも身体に負担がかかるような激しい運動や環境の変化は症状を進める可能性があります。
 日常的に問題になるのは、まず睡眠。間欠的に腕や足に痛みが走るので、これで睡眠が妨げられる場合があります。もっともこれには対処の方法がないです。
 次に食事。嚥下が難しくなるので、特に水が飲みにくくなります。咀嚼や、舌で食物を食道に運ぶのも難しくなります。そのため、段階的に刻み食、流動食、チューブ食となります。少しでも長い間自律的な食事を維持するためには、特殊な嚥下補助食品などが有効です。これらのケアは老人介護の場合と近いものがあるので、そのための用品が流用できます。また、ベビーフードは入手性がよく、食事のバリエーションを効率的に広げることができます。
 症状の進行に従って排尿のコントロールができなくなります。幼児型の場合、トイレトレーニングの開始と発病時期が重なるので、このあたりは微妙ですが、尿道の感染症にかかりやすくなるようなので注意が必要です。3歳くらいまでは要するにオムツはずしが遅い子供と同じ扱いに近いですが、Lサイズ以上のオムツを手当するのが難しく、パンツタイプは症状によっては利用しにくく、また長期の利用は経済的でない点が問題です。

 なお、MLDのような難病の子供を抱えることは、家族にとっても大きな負担となることは事実です。特におかあさんには現実としてその大部分がかかり、また、本人もついがんばってしまいがちです。MLDは遺伝病なので、自分を責めるということもあるでしょう。周囲の人間がその負担をなるべく軽くするよう努力するのは当然ですが、おかあさん自身も気持ちをなるべく楽に持って、難しいかもしれませんが最低限の自分の時間は確保する、自分をバックアップする体制を作るといったことに配慮されるようにアドバイスしたいと思います。そのためには問題を自分一人で抱え込まずに、なるべく多くの人、特に境遇の近い人に接触し、相談することが有効だと思います。難病の子に限りませんが、おかあさん自身が幸せであることが、子供の幸せを実現する大事な要素です。患者はもちろん、家族も公的、私的を問わない各種ケアを受ける権利があり、また、それを積極的に受けることが子供のためであると考え、個人的な試練として耐えようとしないことを強くおすすめします。

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 6)補助器具の用意


 不随意の緊張と脱力の両方のために、いずれ座るのも難しくなります。そのため特別な椅子や車椅子が必要になります。これらは身体の状態にあわせてオーダーメイドで作ることになるので、1〜2ヶ月の製作期間がかかるのが普通です。詳しくは知りませんが、脳性麻痺の場合には、こういった補助的な椅子に座れるように訓練するところから始まるのに対して、MLDだと普通に座れる状態からどんどん補助が必要な状況になるので、親としては一刻も早く適当な器具を用意し、1週間でもいいからそれを使ってそれまでの日常に近い状態を保ちたいと考えるのですが、なかなかそうはいきません。くりかえしになりますが、早め早めに専門家と相談して準備をした方がいいでしょう。なお、小さな子供の場合、車椅子を自分で操作することは無理なので、ベビーカーの障害者向けのものを車椅子扱いで申請することができます。
 もちろん、こういった日常生活の補助具、たとえば椅子は自作することもある程度可能です。すでに何度も触れているように、進行の速さに制度がついていかないという問題をクリアするには、重要なアプローチでしょう。障害児の療育の専門機関は、一般にこのような方法についてのノウハウももっています。

→楓子様御用達・特注品紹介

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 7)投薬


 極度の筋緊張や痙攣を押さえるために投薬を行うこともありますが、それらの薬が性質上症状だけでなく、身体全体に影響を与えることなどの理由から、特に幼児の場合、治療の一環と言うより、むしろ苦痛除去の手段というニュアンスで行われるというように私は認識しています。筋肉弛緩剤、抗痙攣剤などが用いられますが、効果は患者によって大きな違いがあるようです。この他、寝たきりになることもあって、血行障害を起こしやすいため、ビタミンEが処方されることがあります。

→楓子が現在服用している薬

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