1999/09/12

「治療最前線レポート」
ジェンザイム・ライソゾーム病セミナー1999レポート

 

1999年8月28日に、ジェンザイム・ジャパン社の主催で、先天性代謝異常の中でも特にライソゾーム病の治療に関する最新動向、将来への展望に関するセミナーが東京早稲田で開催されました。経緯や、講演の内容については「先天性代謝異常症ネットワーク」「ジェンザイム・ライソゾーム病セミナー」のページで紹介していますが、ここでは当日の様子、感想を中心に紹介します。講演録の方はなんらかの形で専門家のチェックを受けるつもりですが、ここではあくまで、素人の私がその場でこう理解した、という内容を簡単に説明します。



■患者側の参加者

 セミナーは基本的には医者、研究者に世界的な最新動向を伝える、というものでしたが、研究の成果を治療法として社会のなかで実現していくためには患者の理解も不可欠ということもあり、ジェンザイムの方から関連する患者団体へ事前に参加の呼びかけがありました。ライソゾーム病の中でも既に効果的な治療法があるゴーシェ病、患者数も多いムコ多糖症などはしっかりとした患者会もありますが、ロイコジストロフィーなどその他のライソゾーム病ではそういった受け皿がないこともあり、ジェンザイムからはMLD HomePageが窓口になって、そういう患者の家族で参加希望の方をまとめて欲しいという依頼がありました。ALDをはじめ、ライソゾーム病でない患者の家族もOKという話でした。

私の方からは次の方法で関係者に連絡しました。

  • ホームページに告知
     →MLD HomePage利用者全員
  • メールでセミナーのプログラムを配布(7〜8人)
     →ロイコジストロフィー患者の会関係者および、特に興味がありそうな人
  • 郵送でセミナーのプログラムを配布(10人)
     →MLD Supporter's NEWS会員=MLD患者の家族
  • FAXで案内(2人)
     →ALD患者の家族で頻繁に情報交換している家族

 結局、MLDが3家族、ALDが2家族、ゴーシェ1家族、病名不明1家族というのがMLD HomePageからの参加者となりました。ちなみに参加費は無料で、逆にジェンザイムから交通費が支給されました。

 セミナーの参加者は総勢60名程度で、そのうち1/3が患者関係者。人数的にはゴーシェ病とムコ多糖症が大半で、それ以外がわれわれ、という感じです。

■セミナーが始まるまで

 会場が我が家に近いこともあって、午前中に山口さんに来てもらい、一緒に行くことになりました。福岡の山口家は、以前お父さんの方が出張のときに楓子を訪ねてきてくれたことがあります。患者は全国にバラバラですから、なかなかお互い訪問するのは難しいです。父親の方は出張のついでなど、それなりに機会があるからまだいいですが、お母さんの方はどうしても子どもにつきっきりになるから難しいですよね。山口さんのところにはMLDの由莉子ちゃんの他にもお子さんがいるので、なかなかお母さんが出かけるのは難しいと思うのですが、だからこそ今回は思い切って参加した、ということでした。山口さんと介護の方法とか学校の話なんかをしているうちに(主にかーちゃんが)時間が近づいてバスで会場に向かいました。女子医大の前を通るバスなのでふーたんの病院を見せることができました。

 乗り継ぎが良かったので、会場にはかなり早く着きました。ジェンザイムの田原さんがいて、岐阜大の鈴木康之先生を紹介してもらいました。といっても鈴木先生とは小児神経学会のときもブースに立ち寄ってもらって立ち話したのですが。先天性代謝異常症ネットワークの「ロレンツォのオイル」を超える? ALD(AMN)の新薬が報告されるで紹介してますが、鈴木先生たちは国内でロレンツォオイルを含めたALD治療薬の臨床試験を始める準備をしています。これはULF Newsの「X染色体性副腎白質ジストロフィーの治療法に関する国際会議報告」で紹介している国際的な臨床試験の一環として行われるということで、新潟大学の辻先生が国内の試験のとりまとめ役になるという話でした。この臨床試験には興味があるのですが、ALD関係の人の方がもっと興味があると思うので、その人たちが来てから改めて具体的な話をうかがいに来ます、といっていったん別れたのですが、結局、その後お話しする機会がありませんでした。たくみんさんはいろいろ話を聞いたらしい。

 その後、ぽぽさんの(というより雅代ちゃんの)主治医の先生が和歌山から見えているという話しがあって、最近連絡がとれた和歌山のMLD患者のことを知っていいるか聞いてみようなんて思っているうちに、ぽぽさん、松田さん、たくみんさんが次々と会場に現れ、直接会ったことのある人もいるけど私以外は初対面という人も多かったのでお互いに紹介しているうちに開会の時間になりました。

■開会挨拶 藤原聰

 藤原さんとは、MLD HomePageの方では以前からいろいろやりとりしているわけですが、実はまだ実際にお目にかかったことはなかったのでした。ジェンザイムのオフィスと我が家はすぐ近くですから、そのうち遊びに行きますなんていってそのままだし。というわけで、今回が初お目見えということでした。開会前に挨拶だけしたのですが、私の想像上のイメージとしては藤原さんは「けっこう年輩で痩身、眼鏡、若白髪の研究者タイプ」というものだったんですが、実際はまるで違ってました。うーん、難病の子どものお父さんにガタイのいい人が多いのはなぜ。さて、藤原さんが挨拶で強調されていたのは「今日は医療関係者だけでなく、患者、患者の家族もたくさん見えていますが、ともかく未来に対して希望をもって帰って欲しい」ということでした。先天性代謝異常症は10年前にはほとんど手の打ちようがない病気だったけど、現時点では治療法の確立によって症状を抑えることができる疾患も増えてきました。とはいえ、ライソゾーム病、中でも神経症状のある疾患は、数ある先天性代謝異常症の中でも、特に、対症治療さえ難しい疾患であるといえます。ほとんどの患者やその家族は、診断がついた時点で医者から不完全なものも含めて治療法はなく、また、近い将来にそれが実用化する可能性はほとんどないというようなことを言われているはずです。しかし、その一方で、研究は着実に進んでいることもまた確かなのです。既に治療法が確立したゴーシェ病を見ても、まったく手の施しようがなかった時点から、ほんの数年で状況が劇的に変わり、より広範囲の症状に有効で、より安全で患者の負担が少ない治療法の模索の段階へと、課題が移っています。先天性代謝異常は医学の歴史の中で非常に新しい分野で、その治療法も酵素補充、骨髄移植、遺伝子治療など、ごく最近になって実用化された最先端の技術が利用されています。それだけに、短期間で大きなブレークスルーが期待できる側面があることを忘れてはなりません。

■米国におけるライソゾーム病を取り巻く患者の医療環境 レニー・ヴァン・ペルト

 レニーさんはご自身が重篤なゴーシェ病の患者であり、10年ほど前には人工股関節手術を受けるなど、まさに死の淵に立っていました。酵素補充療法によって取り戻すことができた社会活動と時間を、同じような経験をしている難病の患者を支援する活動(IPAA)にそそぎ込んでいます。レニーさんは、その経験から、こういった疾患を乗り越えていくためには医療技術の進歩だけでなく、メンタルな部分、ファイナンシャルな部分も含む総合的な患者支援の体制が重要であることを強く実感されていて、IPAAの活動も公的機関への働きかけ、医療の発展に対する患者の立場からのコミットメントなどに重点を置いています。このあたりは、昨年のリピドーシス研究会の講演のゴーシェ病公開討論での講演とほぼ同じ内容でした。

■同時通訳

 今回のセミナーでは、同時通訳が用意され、参加者のうち希望者は受付でレシーバーを受け取り、レニーさんや次のモシスキー先生の英語の講演を日本語でも聴くことができました。通常の学会などでは英語の講演はそのまま、それも日本人しか参加していないセッションも一部英語で行われるのが普通で、とうぜん通訳はつきませんから、患者と家族への配慮だったと思います。実際には、なにしろ専門的な内容なので、日本語で聞いてもわからないものはわからない(場合によってはますますわからない)というのが実感ですが、英語の講演だと、「なにを話しているのかもわからない」というのも事実ですから、ありがたかったですね。でも、スライドはやっぱり英語でした。ほんとは、日本語のレジュメや抄録があると非常にありがたいんですが……。しかし、今回は講演内容のビデオを編集して後でもらえるということになっているので助かります。日本語と英語と両方で同時に考えなきゃならないからわけがわからなくなるところが辛い訳だし、英語の場合、その場にいれば必死に理解しようと努力するけど、あとでビデオもらってもなかなか見る気になれないですかれね。

 このビデオ欲しい人は私の方に連絡を下さい。

■ライソゾーム病の脳神経細胞治療研究の現状 リチャード・モシスキー

 モシスキー先生はジェンザイムの医学部門の副社長で、専門は免疫学ということ。講演内容は主にゴーシェ病の神経症状をどう抑えるかということを中心にしてましたが、神経症状の改善が難しい理由というのはその他の先天性代謝異常でもよく似た状況ですから、ほとんどの部分でMLDなどのロイコジストロフィーにも重なります。また、神経症状の進行を止めるというだけでなく、改善するためには、いったんダメージを受けると快復が難しいという性質のある神経組織の再建という問題が必ずでてきますが、このあたりも共通すると言えます。 かなり難しい内容なので、あらためてまとめますが、トピック的に拾うと、次のような可能性が研究されているようです。

・酵素補充療法

 酵素補充療法はすでにゴーシェ病の場合確立して大きな効果をあげていますが、神経症状に対しては顕著な効果がないといわれています。その理由はひとことで言うと脳内に酵素を送る方法がないからです。この問題を突破する方法としていくつかの方法が研究されています。まず、脳に直接注射するという技術。素人考えじゃ「最初からそうすればいいじゃない」という感じなのですが、実際にはどういう影響があるか予測しにくいこと、脳に直接入れるといっても脳のどの部分に入れるかで効果や影響が大きく変わってくることなどもあって、そう簡単にはいかないみたいです。ただ、他の脳の病気での研究などもあり、このあたりが最初に実用化されそうな雰囲気です。次が血液脳関門を開く薬を使うという方法で、こっちの方も脳腫瘍など他の疾患で既に利用されており、実現は近いようです。さらに、非常に小さな分子で血液脳関門を突破できるような薬で脂質を分解するという研究もされていますが、こちらは効果がどれほどあるかがちょっとつかめないということでした。あと酵素をゆっくりと放出する装置を埋め込んでしまうという方法も検討されているようです。

 これらはMLDなどのロイコジストロフィーの治療法確立のためにも有望だと思いますが、すでに酵素製剤が実用化されているゴーシェ病の場合は、あとはそれを脳内に送る方法をいろいろ試すだけなのに対して、ロイコジストロフィーの場合は、順番としておそらく、まず脳内に送る技術が確立してから、それなら治療効果が出るだろうからMLDなりクラッベ病の酵素製剤を開発しようか、という流れになるだろうかと思います。逆に言えば、ゴーシェ病のような疾患で神経症状を改善する技術が確立することがロイコジストロフィーの治療法確立の早道かと感じました。

・遺伝子治療

 遺伝子治療の場合も、現時点の技術は患者の遺伝子を総書き換え、といったものではなく、基本的に遺伝子操作をしたウィルスなり細胞なりを体内に入れることで症状の改善を目指すというものなわけですから、「いったいどうすれば脳にそれを運ぶことができるか」という問題は酵素補充療法などとある程度共通するわけです。具体的な技術や課題などは後の衛藤先生の講演の方が詳しいのでここでは紹介しませんが、モシスキー先生によれば、最終的にもっとも期待できる治療法は、ヒトの脳神経幹細胞を取り出して培養し、これに遺伝子操作を行って欠損した酵素を作り出す能力をもたせてあらためて脳内にもどすという技術だということでした。この場合、脳神経幹細胞は体内で分化することができるので、単に脳内で酵素を生産するというだけでなく、組織そのものの修復も期待できるということでした。ただし、実現は「5年以上先になるだろう」という見通しだそうです。

■ライソゾーム病遺伝子治療の将来的展望 衛藤義勝

 メインテーマは遺伝子治療ですが、講演内容はライソゾーム病の研究史から骨髄移植、酵素補充療法などを含むさまざまな治療法の比較など、患者の家族にとって状況をおさらいすることができるような内容でした。衛藤先生は既にこの治療最前線で紹介済ですね。

 ライソゾーム病の遺伝子治療についてはすでに米国ではゴーシェ病の他、MPS-2(ハンター病)などに試みられているが、はっきりとした効果は出ていないということです。なお、遺伝子治療そのものについては、世界ですでに5000人以上が治療を受けているのに対して国内ではまだ5、6人という状況で大きな差があるそうです。研究室レベル、つまりマウスを使った実験などでは、少なくとも一時的には症状の進行を完全に抑えることができるということが証明されていますが、継続的な治療の方法が確立しておらず、また、人間の場合どうかという研究が進んでいないことがネックになります。神経症状のあるライソゾーム病の場合、脳神経の障害はかなり早い時点で始まっている疾患が多く(MLDもその一つ)、そのような場合には胎児治療のようなものも考えて行かなくてはならないということもあるようです。そういったことも含めて、特に遺伝子治療はバイオエシックスとの関係が深く、治療法の実用化のためには単に技術の進歩をまつだけでなく、そういった状況に関する社会の認知なども不可欠であることを強く感じました。

 遺伝子治療の具体的な手法ですが、現時点ではウィルスベクターを使う方法が主流です。遺伝子操作を使って必要な酵素を作るための情報を書き込んだウィルスを脳細胞に感染させることによって、脳細胞内で酵素を作り出すという方法です。研究されているウィルスには次のようなものがあります。

・レトロウイルス=遺伝子治療のベクターとして実績のあるウィルス。分裂する細胞には入り込みやすいが、あいにく神経細胞はそうでないので、感染の効率が問題になる。
・アデノウイルス=風邪のウイルスの一種。強力な感染力があるが、細胞毒性があるので、幹細胞障害などが懸念される。実用化に関$7$F$O!"#12s46@w$5$;$k$HLH1V$,$G$-$k$N$G!"7QB3<#NE$9$k$N$,Fq$7$$$H$$$&LdBjE@$,$"$k!#
・レンチウイルス=エイズのウィルス。分裂しない細胞にも入り込んでいくので、脳神経にも発現しやすい。
AAVウイルス=発現が安定している。作るのが難しい。将来的には期待できる。

 具体的な研究結果としては、アデノウイルスベクターに載せた遺伝子をマウスに静脈注射することによってムコ多糖が減少したという研究が紹介されました。これはIn Vivoの例ですが、Ex Vivoの例としては、遺伝子操作によって正常の10〜100倍の酵素活性をもたせたマクロファージを移植する研究が紹介されました。

■閉会挨拶

 社長が急用で別のジェンザイムの方が挨拶しました。製薬会社の立場から見て、海外に比べて国内で認可が下りるのが遅いというのが現在の課題で、今後は国際的ハーモナイゼーションが必要であるということです。といっても、傾向としては世界的ガイドラインを使おうということでよくなってきており、臨床試験に関しても、人種などの問題になるとき以外は海外のデータが使えるようになってきたということです。今後は、海外でうまくいってからそれを日本市場にというのではなく、世界で一緒に使えるように努力したい、米国で開発された薬が最初に市販されるのはしょうがないとしても、少なくともヨーロッパとは同じにしたいと展望を語っていました。

■懇親会

 さて、講演のあとには懇親会がありました。短い休憩のあと、会場を変えて立食パーティーということだったのですが、私は講演終了後すぐ、ムコ多糖症のお子さん(慧君)をもつ大川原さんと講演会場で話し込んでしまったので、移動が遅れました。大川原さんは慧君の骨髄移植の費用のための募金活動の延長として、骨髄移植を受ける先天性代謝異常症の子供などの支援をする活動をしていて、近々NPO化する予定だそうです。そんなわけで、懇親会会場に着いたときは、乾杯が始まる直前でした。乾杯の音頭は北川先生でしたが、「ジェンザイムと最初に話をしたときには、こんなことでほんとにビジネスとしてやっていけるのかとクビをひねった。自分の経験では、ある病気について治療法がみつかり、そのための薬の製品化について製薬会社に行っても『それで、患者数はどれくらいですか』『1万人くらいでしょうか』『また、後日出直してきてください』という感じ。いや、その10倍でも『市場性がない』で終わってしまうかも。それをやろうというのだから、おかしいのでは、と思ったわけだが、その後見ているとなんとかやっているようなのでいらぬ心配だった。しかし、こんな会社は本当にめずらしい」といった趣旨の話がありました。市場や文化の日米の違いもあるでしょうが、ありそうな話です。今回のセミナーに参加するような先生方は、基本的に稀少難病に詳しい、というよりそれが専門の方が多いでしょうから、全般にこういった状況に対して強い問題意識を感じてらっしゃる先生が多くて、患者側としては心強い限りです。
 増澤さんは両親ともっくん(MLDで現在高校生)の3人で来ていて、山口さんとお母さん同士でいろいろと話しているようでした。もっくんとは2年振りの再会でしたが、前回は寝ていたのに、今回はキョロキョロしていて元気そうでした。噂の「マクラーレン製車椅子」とか、強力セパレート式吸引機とか、足が変形してても履ける靴とか、もっくんはすごい装備でキメているのですが、会場はせわしないのでついついそれらの写真を撮りそびれたのが残念。でも、山口さんと私も含めて、MLD3家族の記念写真というのを撮りました。2家族はともかく、3家族で写真撮ったというのは日本で初めてじゃないかな? 別の学内の発表会があるので来られないとおっしゃっていた楓子の主治医の大澤先生も見えていて、増澤さんと山口さんを紹介できました。昨年のリピドーシス研究会でお会いしたゴーシェ病患者の会の会長の所さんも見えていて、「MLD HomePageも見てますよ」と言ってたので、(いつも好き放題書いている)ぽぽさんはちょっとびびってました。あとで、レニーさんとも話しましたが、レニーさん、所さん、藤原さんはツーカーの仲のようです。
 慈恵大の大橋先生とも、小児神経学会に続いていろいろ話すことができました。衛藤先生の講演もそうなんですが「全体的にこういう状況にある」という話は話として聞きたいものの、患者の親としてはやっぱり「じゃあ、具体的にMLDの治療法を研究しているのは誰なのか、どこまで進んでいるのか」が知りたいわけです。大橋先生は以前MLDの遺伝子治療の研究を発表されていますから、そして現在はスライ病の遺伝子治療の研究がメインのようですから、私と会うたびにそういう話をしていただいて、しかも「MLDの研究に帰ってきてくださいよ〜」と言われてしまうことになります。大橋先生はあいこう(本間)さんのところがALDの骨髄移植を受けたときの主治医ですから、最近の骨髄移植の状況、特にたくみん(松本)さんのところの経過も気にしてらっしゃいました。慈恵大では、昨年のリピドーシス研究会でもいろいろお世話になった井田先生にも再会し、わが家のDNA診断の結果について尋ねたりできました。

■まとめ

 とても全部は紹介し切れませんでしたが、その他にもいろいろな人に会いました。ぽぽさんやたくみんさんのようにインターネット上ではけっこう頻繁にやりとりしていても、めったに会えない人もいるし、藤原さんや山口さんのように連絡はとれていても初対面、という人もいます。それでも私は、いろいろクビをつっこんだりしている関係でだんだん顔だけは広くなってきた気がしますが、たとえば、ずっとMLD Supporter's Newsを一緒にやっていても、私以外のMLDの2家族が会ったというのは、たまたま同じ市内という北海道組を除けば初めてじゃないでしょうか。ぽぽさんとたくみんさんだって初対面のはずだし。ネットワークを通じてコミュニケーションはとれても、やはり実際にお会いするとイメージが違っていたりするし、会ったあとは会う前より相手の状況がよくわかるのでコミュニケーションが楽になります。そういう意味でも、関係者が一堂に会すことができた今回のセミナーは非常に素晴らしい試みだったと思います。大川原さんや所さんみたいに別の(しかし共通点の多い)疾患の関係者とも会えるし。ロイコジストロフィー患者の会を今後どのような形で進めていくかということについて、その場で進展があったわけではないですが、こういうところで顔を合わせる機会を重ねていくことが、会則を決めたりすることより、ある意味でよっぽど重要なのではないかと感じました。
 当然のことですが、患者の家族同士の交流だけでなく、病気に対する知識を得るという意味でも収穫が多かったです。「黙って俺の言うとおりにしていれば治してやる」というような医者がいる病気ならいいですが、そういうわけにはいかないわけですから、親の方もなにかと勉強しなくてはならないことが多いわけです。これは懇親会で患者の家族同士で話していたときも何回も出た話題です。講演を聴いて「これですべてわかりました」ということかというと、「難しすぎてほとんど理解できませんでした。が、今まで疑問に思っていたことがなんとなく整理されてきたような気がします」に近かったような気がします。実際の治療の現場で、そういった疑問をぶつけたり、現在行っている治療に直接関係のない情報まで提供してもらうというのは、実際問題としてかなり無理があります。かといって本を読んで勉強するといっても、病気が病気だけにあまりに専門的で、どこから手をつけていいのかわからないというのが実感だと思います。今回のようなセミナーは、単に出席して知識を得るというだけでなく、わからないところがあれば質問できる、専門の研究者の熱意や問題意識を直に知ることができるという意味で、非常にいい経験でした。そういうレベル以前の問題として、われわれ一般人としては、いくら子どものためとはいえ、突然、大学病院の先生に「これはどういうことなのかわかるまで説明してくれ」とか「ここはどうなっているのか」とはなかなか聞けません。専門知識の壁も高いし。今回の懇親会みたいに、診察室とは別の場面で、それこそグラス片手に話をするという経験を積んで(酒の勢いも借りて?)ようやく言いたいことが言える、というのが現実かと思います。その意味でも、今回のセミナーのような人間的な交流ができる場があるというのは素晴らしいことだと思います。

 というわけで、今回いろいろな事情で参加できなかった方も、次の機会(たぶんリピドーシス研究会)にはぜひ会場でお会いしましょう。

 最後になりましたが、素晴らしいチャンスを企画運営していただいたというだけでなく、その随所に患者の家族に対する細やかな心配りをいただいたジェンザイム関係者の皆さん、高度に専門的な内容を、患者の家族にも理解できるように話していただいた講師の先生方、遠くから参加していただいた患者関係者の皆さん、ありがとうございました。


 

 

 

 

 

 

 

 

 


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