トンレサップの人々


 2月14日(木)

悪路を行く  午前中はトンレサップ湖観光である。昨日に引き続き、我々と強者4人組だけである。
 昨日までとはうって変わって、バスは南に向かう。町をちょっと外れると、とたんにダートになる。後方にものすごい砂煙を上げながらバスは疾走していく。バイクの人には気の毒である。
 ダートとはいえ、始めは割合平坦であったのが、途中からとてつもない悪路になる。どれくらい揺れるかというと、20〜30度くらいバスが傾くといった具合。雨期には水没してしまう道路ということも影響しているらしい。もっとも、道の補修、拡張がされつつあるようであり、ブルドーザーやトラックもときどき見られる。
 トンレサップ湖は、雨期と乾期で大きさが極端に変わる湖として有名である(3倍くらい変わるらしい)。船で下ってプノンペンに行くこともできるようだ。捕れる魚も豊富である(伊良部くんによると、280種類の魚がいて、最大で2mのサイズの魚がいるらしい)。それと同時に、このまわりの水田は二期作が可能である。実際に、昨日までは見ることのなかった、青々とした水田が広がっている。また、アヒルを飼っているうちも多く見られる。こちらでいうところの、ニワトリの感覚でアヒルを飼って、卵を食べるらしい。
 このような悪路であるために、実際の距離はそれほどでもないのだろうが、トンレサップ湖の船着き場まで、片道1時間くらい要した。
 
   バスから降りると、悪臭がすごい。魚と水が腐った臭いが混じり合った感じである。どうしても乾期は水がよどんでしまうので、湖周辺はこのようなことになるらしい。臭いを我慢しながら、船着き場のあるところまで進んでいく。
船の少年  観光船は、およそ10人ぐらいが乗れる船である。水はネズミ色に濁っていて、ちょっとでもしぶきがかかったら、臭いがついてとれなくなりそうだ。船を揺らせてしぶきがあがらないように慎重に乗り込む。乗った席は、運の良いことに、一番先頭。後ろに、船を操作するおじさんがいる。先頭にいる少年が、他の船にぶつかったり、浅瀬に乗り上げたりしないように、長い棒で水底をついて調整する。このようにして狭い水路を進み始める。
 進むにつれて、ネズミ色の水が茶色に変わっていく。それとともに、悪臭も薄れていく。船は、エンジンを積んでいるのだが、小さな船に不似合いな大きいエンジンである。よくよく見れば、車のエンジンを流用したものであることがわかる。
 水上生活といっても、それほど貧しいという感じはしない。家の中を見てみると、テレビもあるし、家の中をいろいろ飾っているし、人の身なりも悪くない。ハンモックに揺られて気持ちよさそうにしている人もいる。こういうのを見ていると、むしろ豊かな暮らしをしている人も多いのでは?とも思う。普通の家の他に、水上学校、水上病院、水上教会、その他生活するには困りそうもない。
 また、三角菅笠をかぶる人も多く見受けられる。もちろん、これらは、ベトナム系の人々である。

 30分ほど進むと、茫漠たるトンレサップ湖に出る。水平線が見える。それくらい大きな湖なのだ。しばしエンジン停止して、水の流れに任せて浮かんでいる。

 元の桟橋に戻る途中、水上動物園?に寄る。動物といっても、変な鳥に、錦ヘビなどよく分からない組み合わせなのである。ヘビに触る?という感じでここのおじさんが誘うがちょっと遠慮する。

 そんなこんなで、再び、臭う船着き場に戻り、バスへ。バスに乗るところで、身なりのあまり良くない女の子が何かをおくれと、寄ってくる。何かをあげずにバスに乗り込んだが、窓の下から、手をずっと差し出している。バスが出発しても、道が道なだけにバスのスピードが上がらない。少女は、しばらく追いかけてきたが、やがて諦めた。後ろに小さくなる少女をみながら、食べ物でなくても、何かあげるものなかったかなと思った。

 来た道をそのまま戻って、シェムリアップのオールドマーケットへ。およそ1時間の買い物タイムである。まず、Tシャツを買う。ここに限らず、どこでも1枚2$である。生地もしっかりして、お買い得な感じ。買った後、相棒がトイレに行きたいというので、どこにあるかと店の人に聞いたら、親切にも店の女性が公衆便所に案内してくれる。利用料は、1人100リエル。トイレのあるあたりは、地元の人が利用する市場になっていて、野菜や魚その他食料品の露店で並んでいて、面白い。
 なんやかんやで、かなりの量のお土産を買った。置物、5本1セットの箸、民族音楽のCD(いかにも海賊版)、タペストリーなどなど。
 時間通りに集合場所に戻ったのだが、おじさんおばさん4人組がまだ帰ってこない。ちょっと待っているとおばさん達だけ戻ってくる。なんでも、昼飯用のハンバーガーを作って貰ったら、店員がまったりして、なかなか出来ないのだそうだ。彼らは、今日帰国する予定なのである(今日の昼飯はついていないらしい)。伊良部くん、その店に様子を見に行く。15分ほどして、おじさん達が伊良部くんと帰ってきた。
 
 一緒でなかなか楽しかった、強者の人達だったが、お別れである。少ない人数だったので、楽しい人達で良かったと思う。彼らのホテルで別れて、我々は、レストランへ。バイキングである。
 
  午後はまったりモード。部屋は2時にチェックアウトで、迎えが来るのは、3時半と中途半端なのである。外は暑いので、ホテルのロビーでだらだらしてすごす。けれど、こういう待ち時間は嫌いではない。

 空港に向かうバスの中では、我々と伊良部くんだけなので、バスの中でいろいろと話す。まず、改めて名前を確認。ヴィエシャナさん、24歳。やはり、覚えにくい名前だ。前に聞いたのだが、覚えにくく、忘れてしまっていたのである。彼の身の上話。出身は、カンボジア東部なのだそうだ。両親とは、離れてここで一人暮らし。勉強しなさい、とご両親にさんざん言われたおかげで、今では日本語を話せる立派な現地ガイドだ。
「ご両親の言うことを聞いて良かったですね」
と相棒。
「良かったですぅ」
と伊良部くん。
 日本の話になって、また富士山の話になる。富士山はどれくらいで登れるのかと言う話になって、普通の人でも5,6時間はかかると答えると、
「すごいですねえ〜」
と、ホントに感心している様子。夜に登って、ご来光を仰ぐのだというと、ちょっと想像出来ないような様子である。泊まる場所はあるのかと聞いてくるので、避難小屋はあると答えたが理解されたかどうか。たしかにカンボジアには大きな山はない。プノン・バケンばかり登っている人にはちょっと想像が難しいかもしれないな、と思った。

 再び、シェムリアップ空港。今度は国内線。国際線とはうって変わって、新しくきれいな建物である。入り口で伊良部くんとお別れである。どうもありがとう。愛想笑いが気になる彼であったが、素朴な好青年であった。相棒とともに記念撮影。
 空港に入るところで、手荷物、機内預けの荷物のX線チェックを行わなくてはならない。その後に搭乗手続きという手順である。その際に、空港税(1人4ドル)を徴収される。
 プノンペン行きの観光客は多くて、100人ほど入れる待合いロビーは人でいっぱいである。プノンペン行きの本数もこの1時間で3本もある。観光客の半分以上が中国系や韓国の観光客、3割が西洋の観光客といった具合。日本人はここでは比較的少ない。日本人のお目当てはアンコールワットだけということなのか?ロビーには簡単なバーと本屋、お土産などを売っている店がある。各国語のカンボジア関係の本が充実している。もちろん、日本語の本も(ただし、2倍近いような値段で売っている)。
プノンペンへの飛行機  1時間ほど待つと、搭乗時間になる。飛行機は、ホーチミン市からシェムリアップに来たときのものよりさらに小さい。50人乗れるかという程度のプロペラ機。外観はきれいにしているので、古さは感じなかったのだが、機内に乗って、ロシア製の中古機ということがわかる(正面の電光掲示がロシア文字)。シートは、貧弱なで、バタバタした感じ。後ろにも簡単に倒れる。乗ってから気がついたのだが、自由席。チケットに書いてある番号はいったい何だったんだろう。そうと知っていれば、もう少し、外の景色が見やすい所に座ったのだが。
 座った場所は、プロペラの横。回転し出すと、音と振動が結構すごい。となりの相棒が戦々恐々としている。僕の方は割合平気。こういう飛行機って、落ちないものなのだ。根拠はないが絶大な安心感があった。相棒が、
「エンジンの横から、何かつきだしている」
と言う。見てみると、棒状の部品がエンジンルームから突き出ている。
「エンジンがフル出力になったら飛び出してくるんじゃないの?」
とおどしてみる。
 そんなこととは関係なく無事に離陸。安定感があって、問題なし。と、後ろが騒々しいので振り返ると、天井から煙が吹き出している。なんのことはない、エアコンの風が冷たくて、霧混じりの風を吹き出しているのだ(笑)。飛行機も結構な代物だけど、機内サービスもなかなか。香りのぷんぷんするおしぼりから始まって、次に出てきたのは、ファンタ?のようなオレンジジュース。うーむ、子供の頃に飲んだ、粉を溶かして飲むヤツの味にそっくりだ。着色料一杯で体に悪そう。けど、なんかなつかしい味なので、しっかり飲む。
 またしばらくすると、今度はりんごをまるごと1個配られる。ちょっとこぶりであるが、そこそこ甘い。さらに、しばらくすると、今度は、コーヒか紅茶のサービス。コーヒーをもらうが、インスタントなのは当然として、生ぬるい。最後はキャンディ。という具合に、40分程度の飛行時間なのに、いろいろとサービスされて楽しかった。

 プノンペンのポチェトン空港は、シェムリアップ空港よりは大きいが、それでも、一国の首都の空港にしては小さい。荷物を受け取って、外に出るとガイドが迎えに来て待っている。リーさん。見るからに中国系の顔立ち。日本語もかなり上手い。
  今まで、シェムリアップにいたからかもしれないが、プノンペンは交通量が多く、都市である。シェムリアップに毛が生えた程度だったらどうしようと思っていたが、その心配はなかった。街の中心部までおよそ、30分ほどの道のり。小さなワゴンに、我々とリーさんだけなので、いろいろと話を聞く。プノンペンは、中国系、ベトナム系が多い所のようだ。実際、街を見渡すと、色が少し黒いカンボジア人(クメール人)よりも、色の白い人が結構多く見られる。リーさん、
「中国人、ベトナム人は商売は上手。カンボジア人は商売が下手!」
 シェムリアップの控えめな、物売りを思い出す。商売が下手というよりは、むしろ、控えめな性格の人が多いということなのではないだろうかと思う。

 そうこうするうちに、ホテルへ。プリンセスホテル。外見はそうでもないのだが、シェムリアップのホテルより高級な感じがする。部屋は明らかにこちらの方が立派。夕食は、ホテルのレストランで。やはり、中華系であるが、味の方は、バンテアイ・スレイホテルの勝ち。「おいしい?」「おいしい?」と聞いてくる給仕はいなく、静かに食事をとることができた。やはり、ここは都会なのだ。

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