ワークシェアリングの類型、メリットと課題
1.ワークシェアリングの類型 (図表1)
・ ワークシェアリングとは、雇用機会、労働時間、賃金という3つの要素の組み合わせを変化させることを通じて、一定の雇用量を、より多くの労働者の間で分かち合うことを意味する。
・ ワークシェアリングは、その目的からみて、以下の4タイプに類型化することができる。
(1)雇用維持型(緊急避難型):一時的な景況の悪化を乗り越えるため、緊急避難措置として、従業員1人あたりの所定内労働時間を短縮し
社内でより多くの雇用を維持する。
(2) 雇用維持型(中高年対策型):中高年層の雇用を確保するために、中高年層の従業員を対象に、当該従業員1人あたりの所定内労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持する。
(3) 雇用創出型:失業者に新たな就業機会を提供することを目的として、国または企業単位で労働時間を短縮し、より多くの労働者に雇用機会を与える。
(4) 多様就業対応型:正社員について、短時間勤務を導入するなど勤務の仕方を多様化し、女性や高齢者をはじめとして、より多くの労働者に雇用機会を与える。
*平成14年3月29日 「ワークシェアリングに関する政労使合意」(厚生労働省、日本経営者団体連盟、日本労働組合総連合会による合意)
(4)の多様就業型の環境整備への早期対応を課題としつつ、(1)を緊急対応型とし、当面の措置としての緊急な取り組みを提示した。
図表1 ワークシェアリングの類型
目的からみた分類 |
背景 |
誰と誰のシェアリングか |
仕事の分ち合い手法 |
賃金の変化 |
1)雇用維持型(緊急避難型):一時的な景況の悪化を乗り越えるため、緊急避難措置として、従業員1人あたりの労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持する。 |
・企業業績の低迷 |
・現在雇用されている従業員間全体 |
・所定内労働時間短縮 |
・減少 |
2)雇用維持型(中高年対策型):中高年層の雇用を確保するために、中高年層の従業員を対象に、当該従業員1人あたりの労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持する。 |
・中高年を中心とした余剰人員の発生 |
・高齢者など特定の階層内 |
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3)雇用創出型:失業者に新たな雇用機会を提供することを目指して、国または企業単位で労働時間を短縮し、より多くの労働者に雇用機会を与える。 |
・高失業率の慢性化 |
・労働者と失業者 |
・法定労働時間短縮 |
・政府の援助により維持される場合が多い(フランス) |
・労働者(高齢者)と失業者(若年層) |
・高齢者の時短、若年層の採用 |
・減少 |
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4)多様就業対応型:正社員について、勤務の仕方を多様化し、女性や高齢者をはじめとして、より多くの労働者に雇用機会を与える。 |
・女性・高齢者の働きやすい環境作り |
・現在の労働者と潜在的な労働者 |
・勤務時間や日数の弾力化 |
・働き方に応じた賃金 |
2.ワークシェアリングの現状と課題
(1) ワークシェアリングの意義
ワークシェアリングには、(1)雇用過剰感がある場合において雇用を維持・創出し、雇用不安を解消すること、(2)これまで様々な制約により就業機会を奪われていた労働者に就業機会を提供すると同時に、多様な働き方を認めることにより労働者の所得−余暇−労働を総合した効用を高めること、などの効果があると考えられる。
(2) 我が国におけるワークシェアリングの現状
(1) 雇用維持型(緊急避難型)
企業は時間あたり賃金の上昇や全員一律の措置を行うことについての不公平感を指摘しており、一方、勤労者には、賃金が低下するのであれば実施すべきではないとする意見が多い。これまで本施策の進展が見られていないのは、労使間での賃金に対する考え方の相違が障害になっていると考えられる。
(2) 雇用維持型(中高年対策型)
企業は、年金支給開始年齢の引上げ開始を控え、主に60歳台前半の雇 用延長対策として、検討していると考えられる。
(3) 雇用創出型
労使とも、法定労働時間短縮により雇用を創出する施策については、労使の合意形成を根拠にする我が国の労働事情に合わないと指摘しており、積極的に評価する意見は少ない。
(4) 多様就業対応型
少子高齢化の進展や勤労者の就業意識が多様化する中で、本施策は今後ますます重要になると労使とも認識している。企業は、有能人材の確保や企業イメージの向上などを、勤労者は、育児・介護との両立などを挙げ、双方とも積極的な姿勢を見せている。また、導入に際しての問題点については、労使とも、賃金や退職金の取扱いをあげている。
3.ワークシェアリングを導入する場合における課題
(1) 労使の合意形成の必要性
我が国における終身雇用制を軸とした日本的雇用慣行は、徐々に見直しの動きが広がりつつあり、労使間で雇用管理のあり方等についての合意形成が必要となっている。
こうした中、ワークシェアリングの導入を検討する場合においては、負担の分かち合いが必要であり、その目的・効果について労使で十分な議論を尽くし、共通認識に立つことが重要である。
(2) 労働生産性の維持・向上
ワークシェアリングが導入された場合、業務の引継等の問題から労働生産性が低下する場合も考えられるが、こうした労働生産性低下をできるだけ解消するよう業務手法等の見直しを行っていく必要がある。
(3) 時間を考慮した賃金設定に対する検討と理解
ワークシェアリングがその類型に係らず、これまでの労働時間と賃金の組み合わせを変化させるものである以上、導入に当たっては、労働時間と賃金との関係を明確にする必要がある。
しかし、我が国の場合、多くの企業が月給制を採るなど、必ずしも時間を考慮した賃金設定がなされていないのが実状であり、ワークシェアリングを導入する場合には、労使において時間を考慮した賃金設定のあり方について検討を行い、理解を深めることが必要である。
(4) 職種による差の考慮
定型的な業務を繰り返すような職種(生産・現業職、事務職等)では、時間を考慮した賃金の設定が比較的容易であるが、創造性や判断力が重視される職種(専門・技術・研究職、管理職等)においては、時間を考慮した賃金設定は困難であり、個別の業績を基準にするなど他の方法を検討する必要がある。
時間を考慮した賃金設定の検討に当たっては、こうした職種による差を十分考慮する必要がある。
(5) パートタイムとフルタイムの処遇格差の解消
ワークシェアリング導入の結果、生み出されるパートタイム労働者については、勤務時間数が異なるのみでフルタイム労働者との間には職務内容に違いはない。このため処遇の決定方式や水準について両者の間のバランスをとることが必要である。
また、現在、パートタイム労働者については、一定以下の短時間勤務となる場合には社会保険等の取扱いが異なることから、このような制度についての検討も重要となる。
(出典 ワークシェアリングに関する調査研究報告書 厚生労働省)